73冊目
「フォークの先、希望の後 THANATOS」
汀こるもの
浅岡彼方、美大生。
長身とショートカットのせいで男性に間違えられることもしばしばの外見。
魚専門のペットショップでアルバイトをしていて、自宅でもアロワナを飼っている生粋のアクアリスト。
そんな彼方の働くペットショップに、政治家宅の魚の世話というバイト募集のファックスが送られてきた。
しかも二・三時間で日給五万円という破格の条件。
同僚は「そこは死神の住む家で、以前同じバイトをしていた男は地震で水槽の下敷きになって死んでいる」と止めるが、家庭の事情で金が必要な彼方は政治家宅のバイトの面接に行く。
そこは案の定、立花家。
真樹と高槻による面接を見事にクリアし、彼方は立花邸でバイトをすることになる。
しかし、立花家でバイトを始めてからというもの、彼方の周囲は波乱含み。
真樹と道を歩いているとヒットマンが銃撃してくるわ、大学に怪しいストーカーがやってくるわ、自宅で飼っているアロワナが盗まれるわ。
そして、真樹と高槻が会わせないようにしていた彼方と美樹が出会った時、更なる事態が引き起こされる…。
…………………………
タナトスシリーズ三作目です。
これはかなりきました。
三作中で一番よかったです。
紛うことなくタナトスシリーズなんですが、今回の主役は浅岡彼方。
全編通じてほとんど彼方の一人称です。
そのせいか、立花兄弟や高槻の違う面が見れたような気がします。
例えば、彼方が立花家でバイトをするようになってから、応対するのは真樹か高槻。
明らかにもうひとりの存在が匂っているものの、真樹も高槻もそのことについては決して触れようとしないし、あからさまに話題を逸らせる始末。
よく考えたら「パラダイス・クローズド」も「まごころを、君に」も、美樹が行った先での話だから、その時点でみんな死神に関わってしまうわけで、そうじゃない場合は出来るだけ美樹とは顔を合わせないしてるんだな、とか。
物語の方は、中盤に彼方が、美樹に対してあるお願いをすることで大きく動いていきます。
そこからはもう怒濤の展開。
ひとでなしばかりが集まったこの物語で、
ひとでなしとなった今でも譲れないものを持った人たちが、
周囲のひとでなしや、そうではない正しい人まで巻き込んで、
悩んで苦しんで、一生懸命行動して、
裏目に裏目に出たあげく、どうしようもなく無惨な結果をもたらします。
そのどうしようもなさが、逆に印象深かったです。
最後はちょっと救いもあった感じでしたけど。
近いうちに再読しようと思います。