65~66冊目
「スロウハイツの神様」
辻村深月
はい。という訳で(前回の更新参照)再読しました。
新進気鋭の脚本家・赤羽環は、ファンの老紳士から譲り受けたという建物を改築し、友人たちを格安家賃で迎え入れることにした。
家主の環がひとフロアを占有する三階と、一・二階に各三部屋ずつの六部屋という間取りの「スロウハイツ」に入居してきたのは、
児童漫画家志望の狩野壮太
映画監督志望の長野正義
画家志望の森永すみれ
女性陣には秘密にしているが、漫画家志望の円屋伸一
そして、残り二部屋に入って来たのは、中高生を中心に絶大な人気を誇る小説家・チヨダコーキ(本名・千代田公輝)と、コーキが連載を持つ日本で一番売れている少年雑誌「ブラン」の編集長・黒木智志だった。
意外な入居者に驚く狩野たちだったが、コーキたちとも打ち解け、スロウハイツの一同は、時にはぶつかりあいながらも平穏に暮らしていた。
とはいえ、第一線で活躍する環・コーキ・黒木の三人とは違い、なかなか芽が出ない狩野たちが感じる負い目はなくなりそうにない。
そんな中、環と高校時代からの親友だった円屋が、環と自分との間に広がる差に耐えきれず、スロウハイツを出て行ってしまう。
空き部屋を埋めるため、狩野たちは友人を紹介するが、環の眼鏡に叶わず落選続き。
そんな中、コーキと黒木の紹介で入居してきたのは加々美莉々亜という女性。
コーキの作品から抜け出したような服装と整った容姿を持つ莉々亜は、コーキの信奉者だということ隠そうともしない言動を取る。
そして莉々亜の入居を端緒としたようにスロウハイツの日常は思わぬ方向に進み始める…。
…………………………
うーん、素晴らしい。
初期の辻村作品は何度か読み返しているものの、実はこの作品は初の再読。
「嘘という『美学』」を読んだせいもあるけれど伏線の回収という、初読では味わえない楽しみを堪能しました。
何故再読してないかというと、実は初読の時は、オチのご都合主義にちょっと抵抗があったんです。
一番好きな「子供たちは夜と遊ぶ」にしてもそうですし、「冷たい校舎の時は止まる」「ぼくのメジャースプーン」に比べても、極端な話『ヌルい』オチだ、という印象があったのですが、再読するとそこまで気にはなりませんでした。
以前読んだ時から二年半以上経ったからなのか、私のメンタルが年をとったのか、オチを知ってるからか、理由は分かりませんが、名作だな、と思いました。
ひょっとしたら、こういう作品に触れたのが初めてだったからかも知れませんね。
殺人や傷害等、事件性のない『日常の謎』というミステリのカテゴリがありますが、何となく短編や、文章自体は長くても短時間を描く作品が多いような気がします。
それに反してこの作品は、時間軸としてもかなり長期的ですし、一般的な『日常の謎』とはまた違う魅力を見せてくれる上、しっかりとミステリしてくれています。
二十代前半の若者たちの成長や希望。
あるいは苦悩や挫折。
そういったものを感じさせてくれる作品です。
ミステリはやっぱり殺人がないと、とか
ダークな内容でないとグッとこない、とか
そういう読み手のかたにはおすすめ出来る内容ではありませんが、
(まるで自分のことを言っているようだ…)
名作です。
二度読むと更に良さが分かるかも。