63冊目
「しずるさんと偏屈な死者たち」
上遠野浩平
しずるさんは、原因不明の病でずっと入院している。
病院から出ることのできないしずるさんを少しでも元気づけるため、よーちゃんは足しげくお見舞いに行っているのだが、ひとつ困っていることがある。
しずるさんは、複雑怪奇な殺人事件の話がとても好きなのだ。
入院中でテレビぐらいしか情報源のないしずるさんのために、よーちゃんは週刊誌やネット上から情報を集めてしずるさんに提供する。
本当はそんな事件なんて恐ろしくて調べたくはないのだが、喜んでくれるしずるさんのためによーちゃんはがんばっている。
そしてしずるさんは、警察でも解決できていないそんな難解な事件を、病室のベッドの上で解決してしまうのだ。
片足がちぎれ、両手が頭部にめりこんで片目が潰れ、その上、腕が肩から切断された「唐笠小僧」のようなシルエットの死体。
宇宙人の仕業かのように胸にぽっかりと穴が開いて心臓を抜き取られている死体。
小さな室内犬に喉を食い破られたと思われる死体。
それら怪奇事件の真実が、しずるさんの口から語られる…。
…………………………
いわゆる安楽椅子探偵ものの短編集です。
しかしそこは上遠野浩平。かなりありえない事件ばっかり。
「SF色の強い上遠野作品の中では珍しく普通の推理小説シリーズ」とか紹介されていましたが、あんまり普通ではないし、どこからどう見ても上遠野作品です。
ただ、他のシリーズと違うなと思うのは登場人物の少なさ。
メインキャラクタは、しずるさんとよーちゃんに精々病院の先生を加えた三人だけ。
しかもこれから増えそうな気配もまったくないってのが、他シリーズとの一番の違いだと思います。
普通じゃない事件ばっかり起こりますが、個人的には許容範囲。トリック(というか真相)が現実的でないものに抵抗のある人には、あんまり向いてないかもしれません。
名前を名乗るだけで警察関係者が恐れ入ってしまうよーちゃんの一族は、きっとあのシリーズの一族なんでしょうが、そこがこれから繋がってくるのか否か。
そのへん含めて続きが楽しみです。