42.「壺中の天国」倉知淳 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

42冊目
「壺中の天国」
倉知淳




静かな町で連続通り魔殺人が起こり始めた。



ひとりめの被害者は占いに傾倒している女子高生。



ふたりめの被害者は過食症で通院している二十歳すぎの女性。



ひとけの少ない夕方に、背後から鈍器で殴打されるという犯行手段は、ひとりめの時での凶器が現場に残されていた河原の石、ふたりめの時は未発見、とすこしの違いはあるもののほとんど同じで、連続通り魔殺人として捜査される。



町中では人通りが途絶え、被害者と年齢が近い若い女性たちは毎日怯えながらくらしている。



殺人が起こるたびに、犯人から発せられる電波な犯行声明。



そして、犯行が行われるたびに、被害者に似たアニメキャラクターのフィギュアを自室で製作する謎のモデラー。



そんな様々な謎を含んだ中起こった次の事件での被害者は中年の主婦。



若い女性という共通点すら消えてしまい、事件はさらに混迷の様相を見せる。



なにもかもが分からないことだらけのこの事件。真相を暴いたのは…。




いや何かぐいぐいと物語に引き込まれていきました。登場人物をがっちりと書き込んでいる、というのが大きいのかな。



語り部であるシングルマザーの主婦をはじめ、その家族・友人・職場の人などが緻密に描かれているのはもちろんのこと、殺された被害者たちの死んだ日の行動までが本人目線で語られ、臨場感が高まります。



被害者はちょっと痛い人ばっかりなので、被害者目線の場面は逆に興味深く読めました。



平凡な人の日常をわざわざ語ってもおもしろくないから、そこはわざと狙ってるんだろうけど。



また登場人物ほとんどに、マニアといえるほどディープな趣味があるのも面白い。



盆栽・やおい小説とそのイラスト・ラジコン・発明・占い・新聞の読者欄投稿などなど。



それがまた個性を引き立てて良いです。



「壺中の天国」というタイトルにもつながってるし。


堪能させていただきました。