12冊目
「ダック・コール」
稲見一良
夢だったデザイン会社に勤めたものの、圧倒的な現実の前に夢や抱負は脆くも崩れ去っていた青年は、キャンピングカーで出かけた旅先で、河原の石に鳥の絵を描いている男と出会う。
突然の雨で男を車に泊めることになり、青年は男の描いた鳥の絵を見て感動を覚える。
その日、青年は眠りにつき、夢の中で六つの「鳥の話」を見る。
一冊で一つの流れは出来ているものの、連作短編集みたいな作品。年齢も時代も土地もバラバラな男たちと鳥の話が次々に語られる。
滋味豊か、って言葉はこう言う作品のためにあるのだなー、と思った。
あんまり古典に興味がないせいもあるのだけれど、今読んでいる本の作者は、書いた当時「老境」とはいえない年齢ばかり。
本が出た当時に還暦なんていう作者ははじめてだったからか、これまで読んだことがないようなとても感慨深いものがあった。
文章自体はさほど年齢を感じさせるものではないけれど、若干翻訳小説のような言い回しがありとっつきにくかったけど、読んでいるうちにぐいぐい引き込まれた。
また出てくる男たちがかっこいいんだわ。
一番よかったのは「波の枕」かな。