2日前に書いて更新したつもりが、『全員に公開』ではなく『下書き』になっていた。

凡ミス。

おかげさまをもちまして、導入部分が、ものの見事に、2日前を表してしまっている。

なのでその部分に横線を引っ張り、『読み飛ばしも可能だし、読んでいただけるのであれば読めますよモード』に急遽変更してあります。

ただ引っ張ってみたところ、『読んでいただけるのであれば読めますよ』と言いつつ、横線が邪魔で読みづらいという残念な結果がコニャニャチワしてしまった。

それでは、長めなので、お気を付けてお読みください。









僕は今、鮫洲にいる。

免許の更新なのだ。

視力検査をしたり写真を撮ったり、写真を撮るんだったら無精ヒゲを剃ってくりゃよかったな、とプチ後悔をしたり、ま、剃っても剃らなくても醸し出されるゴリラ感は変わんねえか、とウホウホイズム全開の慰めをかっ飛ばしてみたり、

そしてこれから講習を受けなきゃならない。

それまでに1時間も空いてしまったので、鮫洲運転免許試験場の片隅で、続きを書く僕なのだ。



『スーパー電子手帳(下)』



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中1の1学期。僕ら4組を席巻した、スーパー電子手帳。ケータイも、ポケベルすらも持っていなかったその時代に、電卓、カレンダー、名前と顔を登録して電話帳と、万能すぎる輝きを、ギンギンに放っていたそのメカが、その日を境にリーサルウェポンと化す事になるのだった。



「何よこれ!!!!」



クラス1のビッグボディを誇る女子、イワタさんの咆哮が響き渡ったのは、2学期のある日、休み時間のこと。

男子の半数以上よりも背が高く、見る者に自然と威圧感を与えるイワタさんだったが、内面はいたって乙女。ピアノが得意で、休み時間に何か曲をオーダーすれば弾いてくれる、ジュークボックスな一面を併せ持った女子なのだった。

そんなイワタさんから放たれた「何よこれ」

僕は、その怒号以上に、イワタさんの乱暴な言葉遣いにバビっていた。

後日、僕のいたグループが誇る情報通のワカオくんに聞いたよると、咆哮までの経緯はこうだったらしい。

【1】
休み時間。スーパー電子手帳で盛り上がる男子と女子。各々が登録したクラスメイトの顔を見せっこしながらワイワイ。

【2】
そこにイワタさん、おとなしい女子数名からなるイワタ軍団を引き連れて登場。そして盛り上がる男子女子からスーパー電子手帳を見せるよう要求。それに従う女子の誰か。

【3】
何よこれ!!!!

【4】
イワタさん、スーパー電子手帳に登録されたイワタ軍団の1人(ノザワさん)の顔が変な顔だとお怒りのご様子。後ろから「もういいよ」的な感じでおさめるノザワさん。

と、まあこんな感じ。このように、自ら率いる軍団員のプライドを守る形で、スーパー電子手帳チームに食ってかかった、男気溢れるイワタさんなのだった。

そして、日夜スパイ活動に勤しんでいた、僕らのCIAこと情報通のワカオくんに、これまた後日聞いたところによると、まるで映画の時のジャイアンを彷彿とさせるイワタさんが、持ち前の男気を爆発させるだけあって、その女子のスーパー電子手帳に登録されたノザワさんは、確かに変な顔だったらしい。

というか、あまり似てなかったらしい。

その上、イワタさんも変な顔だったらしい。

ただそっちは、少し面影があったらしい。



全ての原因は、ゲームなのだった。



スーパー電子手帳には、名前と顔を登録する事で、攻撃力とか守備力とか、その人の能力が決められ、対戦ができる、というゲーム機能が搭載されていた。

そこにはちょっとした裏技があって、輪郭が爆膨れになってたり、穴が丸見えの、もはやブタでは?みたいな鼻だったりすると、何故か攻撃力がメガトン級になり、ほぼ無双状態になれる。

ブームが完全に下火になった頃、僕はそのゲームしたさにスーパー電子手帳を買ってもらい、爆膨れ輪郭やブタ鼻の裏技を駆使して、全員架空の名前の猪八戒軍団を作り上げる、というネクラ街道を爆走する事になる。

なのでおそらく、例の女子のスーパー電子手帳には、特別仲が良かった訳でもないイワタ軍団が、攻撃力メガトン要員として登録されてたんだと思う。

さて。

そんな訳でスーパー電子手帳チームに、一石をぶん投げたイワタさん。

そのイワタさんに対し、徐々に反抗の意を示すようになる、イケてる女子集団のスーパー電子手帳チーム。

しばらくの間クラス中を、何とも言えないギスギスした雰囲気が支配していた。

僕ら1年4組に勃発したその冷戦は、クラスのボス的存在のカサイくんが仲裁に入る形で、思わぬ決着がつける事になる。

女子同士のあの、表向きは静かだけど何かバチバチした戦いが、練習中すぐウサギ飛びばっかさせる野球部のヤマモト先輩よりも嫌いだった僕は、カサイくんの仲裁に一安心。

それは他の男子も同じで、冷戦を収束させる流れに、大賛成の嵐をバホバホと吹き荒らしていくんだが、

しかしカサイくんが掲げた決着のつけ方というのが、ちょっとおかしな事になっているのだった。



「スーパー電子手帳のゲームで決着をつける」



何故じゃ。

超アウトサイドから見ていた僕の目から見ても、CIAワカオくんの情報が正しければ、イワタさんは何も間違っていない。

なのにそのイワタさんが、そもそもスーパー電子手帳を持ってないにも関わらず、敵のやり方で戦う事になるんだ。

カサイくんには、ドン・キングみたいにプロモーターとしての手腕を期待していたのに、何この、力士とボクサーにボクシングで勝負させるみたいな戦い。



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ドン・キング



しかしイワタさんは、その理不尽な戦いに、従順すぎるほど身を投じるのだった。僕はその理由を、やはりCIAワカオくんの暗躍によって知る事になる。

イワタさんはカサイくんの事が好きなのだった。実際に数ヶ月後、カサイくんに告白し、そして玉砕する。

従順の裏にあった恋。イワタさんの乙女心は、密かに炸裂していたのだった。

ちなみに後々、中2になったカサイくんは、皮肉にもスーパー電子手帳チームの女子と付き合う事になる。

こうして、全てを知った今だからこそコクの深い、この戦いの火蓋は、数日後に切って落とされた。



クラスメイトが見守る中で幕を開けたスペシャルマッチ。

イワタさんの持つスーパー電子手帳が、一体誰の物なのかは分からなかった。

そもそもスーパー電子手帳ビギナーのイワタさんが、どうやってゲームをマスターしたのかも分からなかった。

ただ、野次馬な僕でも分かった事は、お互い自分の名前のキャラで対戦したその戦いが、イワタさんの勝利で幕を閉じたということ。

そして、勝利に歓喜するイワタさんの手にあったスーパー電子手帳の画面には、後に僕が量産する事になる、猪八戒みたいな奴がいたこと。



【イワタさんのフルネームを付けた、猪八戒な顔面の奴が、勝利をおさめる】



好きだったカサイくんが見守っているのだから、乙女心を炸裂させたっていいものを。

その気持ちにガッポシ蓋をして、勝負に徹するイワタさんが、そこにはいた。



こうして、思春期の中1女子らしからぬ、男気と威圧感を兼ね備えたイワタさんは、負かした女子を許すという、最後まで男気を貫き通し、

そこらへんのタイミングから、スーパー電子手帳ブームはフェードアウトしてゆくのだった。



男気に、どこまでも溢れるイワタさんとは、中3で再び同じクラスになる。

そこでもやはり男気を、合唱コンクールの練習中に男気を、爆発させる事になるんだが、

それはまた別の話。



スーパー電子手帳について書いてたら、実家に眠っているはずのスーパー電子手帳を、久しぶりに開いてみたくなった。

電池を入れ換えたら、まだ付くんだろうか。

ま、付いたところで、猪八戒がいっぱい出てくるだけなんだけど。

おしまい。