卒業式も過ぎ、ひまを持て余しまくっていた、高3の3月。

東京での大学生活を1ヶ月後に控えていた僕は、ふらりと立ち寄った本屋で、運命的な本との出会いを果たすのだった。



『オンリーミー 私だけを』



ちょろっと立ち読みしたその本の一編「海の中で射精しちゃった子供の頃の作者が、海の生き物と受精したらどうしようと苦悩する話」に衝撃を受け、
入学式の前に床屋に行って来い、と親に握らされた1000円をつぎ込み即購入。

床屋代を使ってしまった事で罪悪感に苛まれたため、一応親には「切ってきたから」をゴリ押ししたものの、
ま、
床屋に行った筈のムスコが、家を出る時と全く同じ髪型のまま、小脇に文庫本を抱えて帰って来た時点で、
僕の思惑は親にモロバレだったと思うんだが、そんなマッハでバレる嘘しか思い付かなかった僕がそこまで気付く筈もなく、
とにかくその本を読みまくり、あろうことか、その後の人生を決定付ける方向にまで至ってしまった。

当時、深夜ラジオと吉澤ひとみセンセイにしか興味のない根暗街道爆進中だった僕は、
その本で初めて脚本家という職業を知り、演劇なんていう世界の存在を知り、
大学に入るや否や、演劇サークルの門をドンドコ叩くのだった。



その本の作者は、三谷幸喜さん



若気とバカ気の至りのせいで、サークルに入るとき恐れ多くも「三谷さんみたいになりたくて入会しました」と、よりによって若干上から目線で言い放ってしまい、
1ヶ月後までは「超絶センスのある奴が来た!」と恐れられ、
2ヶ月後には、ものの見事にそのメッキが全部剥がれ、
3ヶ月後には、先輩から借りた東京サンシャインボーイズの公演ビデオを書き起こし、その脚本の完璧さに自信を失い、
しばらく引きこもった4ヶ月後から、僕はコントの方に舵を切る事になる。

高3で三谷さんに憧れ、
数ヶ月後にマッハで挫折し、
中学の頃に観ていた『ごっつ』の影響でコントにシフトチェンジし、
その後も挫折と挫折を繰り返しながらシティボーイズさんに衝撃を受け、
いま夜ふかしの会としてコントを続けている。

ターニングポイントにデンと構える『オンリーミー』を、床屋代で買ったあの日から約12年。
まさか三谷さんの作品に出演させていただく事になるとは。



おやじの背中 第十話
『北別府さん、どうぞ』



先日ブログに書いた、金沢で撮影していたドラマというのは、これ。
台本をもらった時に「脚本 三谷幸喜」という文字を見て、目頭が(レアめの肉なら焼けるぐらいに)熱くなってしまった。
唯一与えられたセリフを、500回は繰り返し練習してしまった。
周りからしたら「何もそこまで」と思われるかもしれないが、そんなの関係ねえのだった。
どんな形であれ、三谷さんの作品に関われる事が僕にとってどれだけ凄まじい事か。
ま、
現場に入るや否や、ソッコーで台本の変更を言い渡され、僕の500回は日の目を見る事なく水の泡と相成るんだけど。



おい。

12年前『オンリーミー』を手に、

バカ面で本屋のレジに並ぶ、

あの日の俺よ。

俺は今日21時半からTBSで、

三谷さん脚本のドラマ、

『北別府さん、どうぞ』

に出演させていただくぞ。

ぜひ観てくれ。

あと、

その本を買ったため、

床屋に行けなくなり、

数日後にお前は自分で髪を切るぞ。

だが気を付けろ。

「ぎゃ、左右の長さがちげー」

となって最終的に、

世にもガッタガタな髪型で、

入学式に突撃する事になり、

おしゃれを勘違いしちゃった人

みたいな目で見られるぞ。

気を付けろ。




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