ミニCD『Snowdrop』徒然日記 | 夢色宝箱

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好きなことを好きな時に好きな程度に散らかす一人遊び部屋です。楽曲の感想や考察、イラストやハンドメイド、それらを用いた楽曲ファンアートなどをマイペースに楽しんでいます。

『Snowdrop』は、志方あきこさんのベストアルバム『VAGRANCY』のアニメイト特装版に同梱されたミニCDです。収録楽曲は「薄氷の花~棘~」「朱隠し~Piano Arrange ver.~」「廃墟と楽園~Piano Arrange ver.~」「Snowdrop」の全4曲になります。

今回はその中から「薄氷の花~棘~」「Snowdrop」の2曲を抜粋してちょこっと感想を書き記してみたり、植物としてのスノードロップについてかるく触れてみたりするような、ゆる~くだら~っとした雰囲気でお送りしたいと思います。楽曲感想半分、趣味の話半分です。

 

❖まずは「薄氷の花~棘~」について。

この楽曲は『VAGRANCY』Disc2収録の「薄氷の花」をコーラスアレンジした楽曲になっています。優しく温かな光がにじむようでいて、冬の空気の冷たさや雪の純白は名残惜しむかのように未だ静かに心に横たわり続ける…。元楽曲「薄氷の花」にも歌われたように、まさに“春の訪れを喜びつつ、去りゆく冬にも想いを馳せる”一曲です。

私は『花帰葬』未プレイでそちらのストーリーに合わせた解釈などはできないのですが、楽曲として耳から入ってくる情報と捉え聴いてみると、「薄氷の花」も「薄氷の花~棘~」も『花帰葬』関連楽曲としての独特の雰囲気が未だ健在で感動しました。『花帰葬』の楽曲だと感じるというか、良い意味で比較的初期のその頃の志方さんのメロディが確かにあるような気がします。特にチェンバロやパイプオルガン等のクラシカルな楽器チョイスがあると、所謂“古典志方”的な雰囲気をとても感じるのですが…私だけ?そんな事ないよね?

 

そして、志方さんはやっぱり「楽曲を通して人の心の柔らかいところ、弱いところに触れる」ことに秀でているんだなと改めて実感した楽曲にもなりました。

「悲しい」「寂しい」「辛い」「切ない」「怖い」「失いたくない」「壊したくない」…そう言った心の柔らかく弱い部分のような、どう固めようとしても生じてしまう心の隙間のようなところにスルリと滑り込んできて、そっと確かに触れてくる気がします。そしてそれらを音楽という形で“昇華”してくれて、負の感情とも言われるようなモノたちも否定することがない。志方さんの紡ぐ音楽の根幹には、こんな魅力があるんじゃないかなあと常々感じております。

「悲しいなんて思わないで、前を向いて!」「今を頑張れば未来は明るいよ!」「勇気を出して、一歩踏み出そう!」…。こういったポジティブな励ましやエネルギーになる楽曲もこの世にはたくさんありますし、もちろん志方さんの楽曲にもあります。ですが、志方さんが音楽で一番本領を発揮するのは「悲しいよね、寂しいよね」「今は少し立ち止まってもいいよ」「過去を振り返ってもいいんだよ」と、後ろ向きな心の動きも否定せず、ただそっと触れて、優しく

音楽へと昇華していってくれる時かなあというのが私個人の考えです。

 

志方さんは歌声の多彩さもさることながら、手掛ける作曲の幅広さも尋常ではないので、この20年という長い歴史の中でパッと見たり聞いたりした感じでは「志方さんもだいぶ変化したんだなあ」という感じを受けることもありますが、よくよく感じ取ってみると、根っこにあるものはやっぱり変わらずいてくださるのかもしれません。志方さんの“過去”と“現在”が、“変わらない根幹”を通して交わったのが今回の『VAGRANCY』であり、「薄氷の花」「薄氷の花~棘~」であったと思います。

 

 

❖次に「Snowdrop」について。

このミニCD書き下ろしの表題曲である「Snowdrop」。雪が静かに降り積もる景色を思わせるイントロと、シンプルながら美しいメロディを紡ぐピアノが抒情的で、これまた美しい一曲です。曲中に聴こえてくる音色の数も比較的シンプルながら、しんと冷えた冬の空気と雪の結晶が煌めく様が手に取るように感じられます。相変わらず情景描写も巧みでいらっしゃいます。

『アネモネ』収録の「銀の花」や、ミニCD『月夜の散歩』収録の「綿積りの夜」を聴いたときにも感じたことですが、志方さんが音楽で描く”冬”は一層美しいですよね。『花帰葬』の音楽を担当されたことが大きく影響していたりするのでしょうか。“冬”という季節がはらむ、静かな“眠り”の気配や冷え込む空気や、大きな綿雪がしとしとと降り積もる様やどことなく漂うもの寂しい雰囲気、月明かりに照らし出される雪の純白の輝き…。私は志方さんの描く”冬”がとても好きです。そして、相変わらずミニCDも油断ならないクオリティで仕上げてくるのが恒例…。

 

 

さて、ここからは植物としての「スノードロップ」について触れていきたいと思います。

 

スノードロップはヒガンバナ科マツユキソウ属の多年草の総称です。1~2月ごろに雪を割り除けて、俯くように白い花を咲かせます。「スノードロップ」という名前は“雪のように白い花を、耳飾り(イヤードロップ)のように俯いて咲かせる”ことが由来とのこと。和名は待雪草(マツユキソウ)で、日本に入ってきたのは明治時代の頃と言われています。まあ見た目に関してはアルバムジャケットの通りで、小さく可愛らしい花です(※可愛らしくても球根には毒があるので注意)

 

このスノードロップにまつわる伝承や物語はいくつかありますが、今回はその中から2つほどご紹介したいと思います。

 

❖まずはドイツでの「スノードロップ」にまつわる伝承です。

この伝承では、神様が天地を創造した際に、あらゆるモノに色が与えられたと言います。とりわけ、花には鮮やかで様々な色が分け与えられました。

ところが、雪にはいつまで経っても色が分け与えられません。これを不満に思った雪は、神様に「自分には色が無いから、風と同じように誰にも気付いてもらえません」と訴えました。これに対し神様は、花達から色を分けてもらうように言いました。

雪は花達に、自分に色を分け与えてくれるように頼んで回りました。しかし、鮮やかで美しい色を与えられた花達はそれを嫌がりました。雪はとうとう諦めようとしましたが、その時に声をかけてきた花が「スノードロップ」だったのです。「私の“白”で良ければ、喜んでお分けします」と静かに申し出たスノードロップは、雪にたいそう喜ばれて、春一番に花を咲かせる栄光を分け与えられました。ヨーロッパでは、スノードロップは“春の先触れ”とされています。

 

❖次は「アダムとイブ」にまつわる伝承です。

知恵の実を食べたことで楽園(エデン)から追放されたアダムとイブ。楽園の外には雪が降りしきっています。今まで暖かな楽園で過ごしてきたイブはそんな場所に追放され、「この寒さが永遠に続いたらどうしようか」と不安になり、とうとう泣き出してしまいました。

これを見て哀れに思ったとある天使は、雪を一片掴みます。その雪に息を吹きかけ「生きて花を咲かせるように」と命じると、その雪はスノードロップの花に姿を変えました。

天使はこのスノードロップをイブに差し出して「これが、まだ夏が死んでいない証拠ですよ」と言いました。この時にイブが見たスノードロップの花は、かつての楽園で見てきたどんな花よりも、とても美しかったそうです。

 

 

…いかがでしたか?スノードロップにまつわる伝承は他にもいくつかあるのですが、私の直感でビビッと来たものを選んでみました。どうしてこの二つの伝承を選んで紹介したのかは、何となく分かってくれる人もいらっしゃるんじゃないかな~と思っております。

 

ちなみにこれは『VAGRANCY』公式特装版同梱の「anniversary catalog」のちょっとした内容バレになってしまいますが、スノードロップは志方さんの誕生日である1月7日の誕生花です。他にも「セリ」や「ベンジャミン」「白のチューリップ」「赤のヒヤシンス」などが1月7日の誕生花にあたるそうで、スノードロップの花言葉は【慰め】【希望】、セリの花言葉は【清廉】【高潔】、ベンジャミンの花言葉は【信頼】【友情】などがあります。

 

 

雪を待つ花、春の先触れを知らせる花、スノードロップ。「薄氷の花~棘~」が収録されているアルバムタイトルが『Snowdrop』である理由が、誕生花以外にも何となくわかったような気がしました。

 

…というか、誕生花だからという理由でアルバムタイトルにして、ここまで志方さんの歴史に触れる要素があるってだいぶ凄くないか?と思った今日この頃。

 

次回は『VAGRANCY』公式特装版同梱のミニCD『Deneb』について徒然に記していこうと思いますので、良ければまた目を通してくださると嬉しいです。

 

 

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

 

❖参考資料:『花の神話 Truth In Fantasy』著:秦寛博 新紀元社