りさぽん🦔🎸

寤寐思服ⅰの続きです!

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里「おはよう、由依!」

最近、お姉ちゃんはよく一緒に朝ごはんを食べてくれる。
お姉ちゃんの胸で泣いた日から、何も聞いてこないお姉ちゃんだけど、なんとなく優しい目で私を見る。

里「クリスマス何するの?」

お姉ちゃんからこんな質問をされるのも、初めてかもしれないな。

由「うーん、バイトかな。バイトのあと遊びに行くかも」

新しい彼女ができたことは、まだお母さんにもお姉ちゃんにも話していなかった。安心させてあげるためにも早く言わなきゃ。でもそれを言ったら先生が過去になっちゃうような気がして。

里「先生、元気?」

お姉ちゃんと目が合った。オレンジを運んできたお母さんの手も止まる。

なんとなく気づいてた。みんなの気遣い。触れないようにしてくれたんだな、と改めて家族の愛を感じた。

由「うん、元気だと思うよ、」

お姉ちゃんの目を見ることができなかった。

嘘つくと、見破られるような気がした。

里「由依、もっとわがままになりなよ、!相手は大人なんだから、相手の気持ちばっかり考えなくていいよ。今度、また家に連れてきなよ」

こんなお姉ちゃんを見ることができて嬉しい。
なんか、不思議な気分。
お姉ちゃんが私のために、真っ赤な顔して怒ってくれてる。

由「ありがと、お姉ちゃん。でも…もういいんだ、私、彼女できたから、」

そう言うと、お姉ちゃんは驚いた顔をした。涙が出そうになったから、すぐに洗面所に駆け込んで顔を洗った。鏡に映った自分を見た。無理してる自分が映ってた。

新しい彼女の存在を知って、呆然としてたお姉ちゃん。何も聞かないけど、私の気持ちわかってたんだね…きっと。


お姉ちゃんの『わがままになりなよ』という言葉が頭から離れない。

先生はもう私の先生じゃない。だけど、先生にはものすごく感謝してる。私に"お姉ちゃん"をくれた。
いつも夢見てた。お姉ちゃんと恋バナ、お姉ちゃんと朝食、お姉ちゃんと本音でぶつかること、
全部実現したよ…先生。あの日、先生が来てくれてから。

先生とは短い短い恋愛だったけど、先生が残してくれたものは一生続く

お姉ちゃんはお母さんを『お母さん』と呼ぶようになった。お父さんのことを『おとん』と呼ぶようになった。
大好きだったおばあちゃんに手紙を出したのも多分、5年ぶりくらい。

中身はわからないけど…。私がおばあちゃんに出す手紙に一緒に入れてほしいと言った。
小さく折られた手紙はきっとおばあちゃんの宝物になる。


由「かりんちゃん!お待たせ」

かりんちゃんは大きなワゴン車だった。
先生の車と違う形で良かった、乗ってすぐにそんなことを考えてしまう私は、最低だと思う。

車の中は香水のようなキツい匂い。クマのぬいぐるみがある。きっと元カノがいっぱいいるんだろうなって思わせる車内だった。

か「夜景でも見に行く?」

なんとなく似てる話し方。
嫌でも思い出してしまう先生との時間。

由「夜景は、また今度がいい、」

クリスマスイブだというのに、私の気持ちは相変わらずモヤモヤ。今すぐ車を降りて、先生のところへ飛んでいきたい、なんて考えてしまった。

先生が私を抱きしめてくれなくても、先生が私をもう好きじゃなくても、先生に会いたかった。

私のいたい場所は、ここじゃない。私の会いたい人は、この人じゃない。ごめん…かりんちゃん、

クリスマスは本当に好きな人といたい。
そのとき、心からそう思った。

かりんちゃんは、私のそんな心の動きに全く気づいていない様子で、ずっと話し続けてた。

耳に入ってこないかりんちゃんの声。車を止めて、かりんちゃんは急に黙る。

私の気持ち、気づかれたかな…。かりんちゃんを不安にさせてしまったかな。

か「きす、しよ!」

かりんちゃんは、そんな私の心配をよそに、笑顔で私の手を握る。

優しく私の髪を撫でるその仕草に、先生を思い出す。
思わず、先生の代わりに、その胸に飛び込みたいと思ってしまう。でも、そこにいるのは私の大好きな先生じゃない。

か「すき、」

かりんちゃんの右手が私のあごにそっと触れた。

かりんちゃん、!
顔が近づいてくるのがわかる。

やだ…やだっ…

先生の声がよみがえる。

『私のために絶対取っといて』

バンッ

私は、かりんちゃんを力いっぱい押しのけて、カバンを持って車から降りた。

かりんちゃんは何も悪くない。悪いのは、好きでもないのに付き合い始めた私だ。

かりんちゃんは当たり前のことをしようとしただけ。彼女なんだもん。当然だよね、

先生は、その当然のことを、ずっとずっと我慢してくれてたんだ。

抑えきれない気持ちをいつも、我慢してくれてたんだ。

暗い道を走りながら、先生の笑顔を思い浮かべた。先生のおでこへのキス。耳へのキス。ずっと私を大事にしようと我慢してくれていた先生。

私、先生じゃなきゃだめ、!!


ここがどこなのかわからなかった。スマホも繋がらない。
先生のことばかり考えてた。先生がどんな気持ちで別れを告げたのか。先生の気持ちを考えると、私…何やってたんだろ。

先生は、私よりもっともっと辛かったのかもしれない。
白いコートのポケットに手を入れながら、歩き続けた。
民家の明かりだけの暗い道。風が吹くたび、木々の音が怖かった。そのとき、公衆電話が目に入った。

古びた電話ボックスの中に入って寒さをしのぐ。寒さで麻痺してきた私の思考。

お姉ちゃんの声が聞こえるような気がした。

『由依、もっとわがままになりなよ』

受話器を手に取り、しっかりと記憶されている番号を押していた。

助けて…先生…

理『もしもし?』

由『…せん…せい、会いたいよ』

受話器の向こうの懐かしい声。

理『え、?どした?小林さん?』

由『せんせい、、ごめんね。電話して、』

理『ねえ!どうしたの?今どこいるの?』

先生の必死な声が、私の心を溶かしてくれる。

理『今から行くから!どこにいる?』

由『どこか、わかんなくて…。寒くて、、会いたぃ』

先生は、"落ち着いて"と何回も言った。大好きな先生の声は、寂しくて寒くて凍えそうな私の体をあたためる。

先生に言われるがままに近くに何が見えるかを伝えた。
住所らしきものがないか、地名らしきものはないか。

見えたのは、小学校のような建物と、その横にある山本商店という駄菓子屋さんみたいな小さなお店。

先生は、寒くない場所に座っててって言った。
電話ボックスの中にしゃがんでた。もう寒くなかった。

今、何時なんだろ…。ここ、どこ、?

薄れる記憶の中で、先生の大きな手に包まれたような安心感を感じながら、先生の笑顔ばかり思い出してた。


理「ねえ…ねえ!しっかりして!」

いつの間にか眠ってたみたい、
夢の中で先生は笑ってくれてたんだ。廊下で先生は振り向いて、私に微笑みかけてくれたんだ。

理「ねぇ、小林さん、しっかりして、」

電話ボックスのドアを開けて、私の肩を揺する人。

先生…?

由「先生…、夢じゃないの、?」



coming soon…
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お読みいただきありがとうございました!