頑張る日本人:小杉礼一郎     

アウトドア・スぺシャリスト、 
エコ・キャラバン ツアーガイド
 


カブスカウトからk2へ


‘山に富んだって書くでしょう’、と3000メートル級の山々に囲まれた富山県高岡市出身の小杉さん。親の勧めで入隊したカブスカウト、そしてボーイスカウト時代には数多くのキャンプを通し、富山の自然を体験した。このスカウト時代が小杉さんに与えた影響は無意識にも多大で、後の人生に大きく反映している。


何が何でも山!好きなものに理由はない~

中学時代親の勧めで剣道部に入部したが、心は常に山。そして高校入学初日、‘待ってました!’とばかりに山岳部入部。岐阜大学入学時も目指すは山岳部。‘専攻は山岳でした!’と冗談を言う小杉さんを信じてしまう程、彼の人生は山一色だった。農学部の林学科専攻の動機は勿論‘山に行けるから’だ。‘何故あんなに好きだったんだろう…’理由を探しきれない小杉さんの魂の叫びは、‘自分に限界を作らずどんな山にでも登るのが山岳部’にとてもフィットしていると思った。
大学生になると行動範囲は広がり、国内北・中央・南アルプスなど、全国の主だった登頂は勿論、海外へも足を延ばした。大学2年の時遠征したアフガニスタンにある無名の山:後に師によって現地語‘コーイ ピロー’(ピロー川の源流にある山の意)と名付けられた乾燥地帯の山、が海外初登頂。現在はタリバン激戦地区になってしまっている。


登頂困難世界一

大学3年の時に日本山岳協会K2登山隊の一員に選ばれた小杉さんは、全国から選抜された大学生隊員2名のうちの1人。K2 は世界最高峰のエベレストに次ぐ標高8611m(28,250ft)で、登頂の難しさは世界一。キャラバンを続け何日もかけてK2 麓の町に到着するアプローチも長い。登頂の一部となる綿密な下準備のために、大学3年と4年の2度K2を訪れた。そして登頂アタックは訪問3度目、大学院1年生の時。生死をかけた登山に必要不可欠なものは体力、技術、装備、経験、お金、天候、そして運。この中の一つでも欠けたら成功は出来ないと小杉さん。第1次アタック隊は吹雪に阻止され、第2、3次アタック隊は登頂成功と共に一人遭難。その夜、小杉さんの第4次隊は遭難救助活動を開始/登頂中止となった。幸いにも遭難者は無事帰還。残酷で美しい、夢とロマンが詰まった生死さ迷うK2の姿をまざまざと感じさせられた。


歩いて宇宙まで?

8000mの山上に立った小杉さんは、その時の感想をこう語ってくれた。‘まるで地球上から出て宇宙空間に頭を出した様でした。日中なのに星が見えて、地球と宇宙の境界線にいるような…真っ青な空はとても濃い青色なんですよ。空気は冷たくて、薄い大気圏を抜ける強い日差しは頬を焼けただれさせる程強くて電子レンジの中みたい。宇宙飛行士が月に行った時のような感覚に似ているかな…’。(人が歩いて宇宙空間に顔を出すなんて、私はこれまで想像したこともなかった!)気圧半分の大気圏の宇宙の底に顔を出した感じだと話す小杉さんの、嬉しそうにk2と接する宇宙を見つめる笑顔がとても印象的だった。


 
本物の今西錦司

学生時代、カラコルム・ヒマラヤ、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤなど様々な山に登った小杉さんと共通の山への想いを持っていたのが大学1年当時の学長で、日本の霊長類学の創始者‘棲み分け理論’の今西錦司氏。‘ダーウィンは間違っている!’と本質を鋭く突く躊躇ない師の真直ぐな気性、言葉、行動から多くを学んだ小杉さん。入学間もない大学1年の5月、白山登山途中、教科書でしか知らなかった雲の上の存在の今西氏と二人きりで歩く機会に見舞われたことは、今でも宝のような貴重体験だと話す。当時18歳の小杉さんに対し、登山後の疲れた腰を上げ帽子まで取って挨拶してくれた師。その行為と差別なき心に深く心動かされた。学問の枠だけに捕らわれない柔軟な発想が世界で認められた巨匠は、群衆の持つ典型的な価値観を嫌い人々がはっとするような、又は引いてしまうような言葉で人々を眠りからたたき起こしていたかのようだ。自らの人生に一番影響力を与えた言葉、態度、ユーモアたっぷりな今西師との奇跡的出会いを感慨深く振り返る小杉さん。素晴らしい師との出会いがどれほど人生に影響することか…



山からNYへ

大学4年の時は、5200mのケニア山へ。名の知れたキリマンジャロよりも美しく氷河のある登頂の難しいこの山は、k2下山後だったこともあり1泊2日で登頂を終えたそうだ。帰国後、4か月間工場に住み込み、バイトでお金を貯めてバックパックの旅へ。訪問先は、これまで見たことのないヨーロッパ各地とアメリカ横断旅行。初渡米のNYで新鮮かつ衝撃的だったことは、高層ビルの頭が雲の中に埋まっている光景。大都会のそんな姿を初めて見た若者は、バットマンの映画のような不気味さと人造による世界のスケールの大きさを感じた。そして不思議にも大都会の真ん中に青々と息づく大規模なセントラルパークの自然。



迷い道は到着地への近道

大学院卒業後の就職先を商社に選んだことには理由がある。大学2年の時、マニラからボンベイ、ニューデリー、カブールへと初めての海外旅行の途中インドの街で迷子になった。航空券のリコンファームをする旅行代理店を探していたのだ。バックパックを背負いウロウロする日本人の若者を親切に助けてくれたのが日本の商社マン。こんな出会いが引き金となり、目指すは商社の木材部のみ。そして木材専門商社ユアサ産業へ入社が決まった。大手商社以上の事業を行う専門商社故、数多くのことを学んだと小杉さん。南洋材部門から北米部門へと配置され、木材買い付けのためにこのノースウエストに出張で頻繁に来ることとなったのだ。



好きじゃなかったのに・・・

そもそも、アメリカという国は好きでもなければ興味もなく、心はカザフスタン、チベット、内モンゴルなどの中央アジアにあった。その理由は、第2次大戦中に日本人教師として満州にいた父親の異国体験話。終戦後シベリアで3年間抑留生活を送った父親がしてくれた話は聞き飽くことなく、せがんではしてもらった。それ以来憧れを持つ中央アジアへ仕事の派遣で行くチャンスはなかった。その代りとでもいおうか、オレゴンの取引先会社から仕事のオファーを受け、買い手から売り手へ変貌しオレゴンの住人となったのは1988年。“そういう意味では人生思い通りにいっていないけど、心底行きたければ今頃そこにいるでしょう~。ワシントン州とワシントンDCの区別がついてないような一般的日本人で、自分の知っていたアメリカなんて微々たるものでしたよ!”と小杉さんは笑う。実際住み始めてからアメリカ大自然の凄みを体験してゆくこととなった。アメリカの魅力は何といっても大自然なんだと。



大波小波

80年から90年、日本では天然記念物指定のシマフクロウを守るため、原生林伐採禁止・自然保護運動強化の影響を受けて木材輸出は下火になった。もともと作ることが好きな小杉さんは、卸業は避けたい、と丸太の買い付けや自分で製材した木材を日本へ輸出した。1998年からは頼まれて始めたガイドの仕事も同時進行してゆく。しかし、リーマンショックの訪れと共に木材の仕事には終止符を打ち人生のトランジッションの時期に入ってゆく。しかし、小杉さんのツアーは好評を得て軌道に乗ってゆく。が、次に起こったのが9・11テロ事件。予想通りに観光客は減少してしまった。
その後試みたことは、夏と冬のアラスカでのガイド。世界中様々な国を回り、夏・冬の観光期、3年間アラスカに実際住んだ経験者がどこよりも抜きんでて素晴らしいと大絶賛するのだから説得力がある。けれども、そのアラスカよりも秀でているのはNWパシフィックの自然環境のバリエーションだと語る。アラスカのような広大さはなくても、森林、火山、氷河、町、歴史、砂漠、大河が集まっている場所は北西部だけ。そういう意味では世間での知名度はなくても総合的な素晴らしさが詰まった場所なのだ。オレゴンに住み始めて28年目。ガイドの仕事をしていてもまだ見尽くせないという程だ。



激安ツアー

20代以降は命を顧みない登山からは引退したそうだが、現在はK2 登山でキャラバンをひいて山を目指したあの頃の想いから名付けた‘エコキャラバン’で、大自然の神秘と美しさを紹介している。てっきり自然のエコだと思い込んでいたら、実はエコノミーのエコなんだと大笑いになった。勘違いしてもらっていいんですよ!と小杉さん。キャラバンの旅は、テントに眠り自炊する格安の旅だから‘エコ・キャラバン’なのだ。オレゴン、ワシントン両州を軸に、自然だけではなく旅行者の旅のスタイルに合わせ、北は得意のアラスカから南はメキシコ国境地域、東はロッキー山脈を境に幅広く旅をアレンジしてくれる。


いかに感動を呼ぶか・・・全てのコンビネーションが導くマジック

1回きりの訪問の旅行者と共に自然を相手にツアーをすることは簡単な様でとても難しい。四季の変化、天候、経験、世の動きに対するアンテナが必要なうえ、旅行者や自然環境への臨機応変さが必要だ。時季と時間、場所が絶妙にマッチしてこそ出会える野生動物や植物などの自然界の知識を持って、感受性のアンテナもフル活動させることができなければ、旅人に‘この瞬間’の感動を捧げることができない。旅行者が驚嘆で絶句する瞬間の喜びはひとしおなんだと、想像しながらとびきり嬉しそうな笑みを浮かべる小杉さん。いかに感動を呼ぶか・・・ガイドはアーティストの様だという彼は感動の旅先案内人だと感じた。




盲目の女性が見開いてくれたもの

アメリカの本当の素晴らしさは日本に伝わっていないと小杉さん。大衆の逆をゆく彼は、マスコミに左右されがちな日本人観光客に“北西部の美しさは有名じゃないけど、一流の自然があるんですよ。”と多種多様なNWの美しさを体感して欲しいとの願いでガイドする。アフガニスタンの湖とクレーターレイク、ライン川とコロンビア川を比較できる小杉さんは、普通のガイドが知らない知識を携え、見過ごすであろう細部に気づき、旅に一方ならぬ色を添えてくれる。

息子さんと出かけた南西部のブライスキャニオン。ビューポイントにいた自分たちの所へやって来た盲目の女性。‘絶景ポイントに盲目の女性・・・?’大きく息を吸い、にこっと満面な笑みがほころんだ彼女を見て、小杉さんも同じように目を閉じ息を吸ってみた。かすかに香る松・・・。彼女は絶景ポイントで大地の香りを満喫していたのだ!“ガーンときましたね!”という小杉さんの気持ちがストレートに伝わってきた。彼の心の目を違った角度から開いてくれた盲目の女性。大自然の楽しみ方は、視覚だけではないんだと教わった瞬間だった。先生によって生徒の人生が変わるように、感受性豊かな案内人によってその地への見解も全く違ってくる。ちょっとした出来事に気を配るか否か、気づくか否かで旅の内容も全く違ってくるものだ。

K2 という世界最高峰に並ぶ大規模な登山体験から、微かに香る自然体験、大小関係なく5感全てを開き、感性を揺るがせながら自然と共に歩み学び愛でる人生を歩む小杉さん。そんな彼の率いるエコキャラバンに是非揺られてみたいものだ!



小杉さんの執筆: ユウマガ連載‘ノースウェスト自然探訪’執筆全149話    
             www.yumaga.com/odekake/eco/index.php

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