ある日の朝、いつものようにキッチンで朝食を食べていた。

窓からの陽光のみの、やや薄暗い中で、言わずもがなの立ち食いである。

きな粉ご飯とヨーグルト、いつものメニューを食べ終えて、お皿を洗おうとしたその時だった。

洗い桶の下に、何やら動く黒いものを見た。

虫全般は大の苦手な私。

恐る恐る洗い桶を退かしてみると、幸いゴキブリではなかったが、私にとっては大きめの、カナブンのような虫がいた。

私はとっさに殺虫剤をかけた。

そして無事に駆除。

私にしては上出来だった。

しかし、殺虫剤をキッチンに撒いてしまったので、「仕事から帰ったらキッチンの掃除だぁ……」とため息。

時間が経てば経つほど思考が冷静になり、「せっかくシンクに出没したのなら、台所用洗剤をかければ済む話だったのに」と後悔したが、あとの祭り。

夜、私はキッチンの掃除をした。

ここも、その辺も、薬かかったよね、水切りかごも……と水切りかごを洗い始めたら、シンクの大きさとほとんど変わらないくらいの水切りかごの大きさに、私はイライラしてきた。

シンクが狭いのか、水切りかごが大きいのか、とにかく洗いにくいのだ。

「水切りかご、デカッ!!」

思わず呟きながら、そういえばダンシャリアンの家には水切りかごがないらしい、という話を思い出した。

一回、無くしてみようかな……と、洗い終えてきれいになった水切りかごをキッチンカウンターから下ろした。

その瞬間、私は、そこに現れた空間の大きさに圧倒されてしまった。

一応、一週間位は様子をみてから決断しようと思い、すぐには捨てなかったが、直感的に、これは捨てるだろうな、と思った。

水切りかごの代わりにタオルを敷いてみると、一人分の食器を受け止めるにはそれで十分で、そのタオルは毎日洗濯するので、掃除の手間がない上に清潔だった。

同時に、大体の食器は水分を拭き取って、すぐに片づけるようにすると、朝起きた時に、前夜の食器が積み上がっていることもなくなった。

これは私にとって、かなりのストレス軽減だった。

水切りかごがない生活は、実際にやってみると、もはやメリットしかなく、私は最初の直感通りに水切りかごを捨てた。

その後、順を追って、洗い桶とシンクマットも捨てた。

今は、キッチンカウンターもシンクも、モノがないので実に広々として清々しい。

あの日、あの虫が一体どこからやってきたのかは謎だが、あの虫が来なかったら、私は未だに、キッチンの邪魔な三点セットを何の疑いもなく使い続けていたのだろう。

たかが虫一匹出ただけで、ここまで生活が変わるとは、驚くと同時に、ちょっぴり感謝もしている次第である。