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あなたの知らない韓国 ー歴史、文化、旅ー

歴史や文化などを中心に、日本・韓国や東アジアに
またがる話題を掘り下げながら提供したいと思います。

歴史、文化、韓国語、日本語

 今回は命の在り方を考えるのに役立つ韓国書籍を紹介します。

  

 現代社会の肉食の在り方を考えさせる一書です。

イ・ドンホ氏『豚を育てる菜食主義者

  (돼지를 키운 채식주의자)』(チャンビ刊)

 

 本書は著者が自ら豚を飼育する過程で感じたことを伝えるエッセイ集で、第8回ブランチブックプロジェクト大賞を受賞しています。彼は元兵士であり旅行作家で、28歳で農村に移住するものの、家畜飼育の劣悪さと、業界の厳しい現実に衝撃を受けて菜食を始めたのです。

 

   

{内容) 
 そして人間が動物の生を犠牲にして生きることに疑問を抱き、農業学校から黒豚3匹を譲り受けます。自然に近い環境で豚を育てると、豚が実に愛おしい存在であることに気づいたのでした。

 
 その一方で豚を屠殺する場面が登場します。著者が金槌を持って自ら屠殺することにした理由は、生命に対する責任感と礼儀からでした。自ら手を下すことで、命の重さを知るべきだったからだと回想しています。
 

 本書で訴えているのは、私たちが食べている食肉の裏面を直視することです。動物が感じる苦しみを感じ、人間が動物から命をいただくことで生きていることを実感することにあります。親しみ易いイラストを添えて養豚の在り方と問題点を分かりやすく紹介している本です。

 

(評価)

 現代日本においても、金で精肉を買うのは当たり前の状況になっています。しかし豚や牛、鶏が命を提供してくれるだけでなく、他人が代わりに育てて処理し、自分はそれを享受しているだけという認識は薄いのではないでしょうか。
 

 肉食の現実を見つめ直すことによって分かることがあります。動物が生を提供してくれることによって自分が生かされており、さらには動物と直接向き合っている人がいるということです。その事実によって生命への感謝の重要性を認識させてくれます。
 

 さらに動物への感謝の視座を広げると、社会における自己存在の問題にも行き着きます。自分が動物の生のおかげで生かされていることの認識は感謝の心につながります。自分が様々な恩恵を受けながら生きていることを理解し、その恩に感謝することは人類の幸福の原点でしょう。
 

 また悲しいことに現代日本でも韓国でも自殺者は相当な数にのぼります。理由はいろいろですが、命に対する感謝の心をもつことは自己の在り方の受容につながり、さらに周囲や社会への配慮にもつながるのではないでしょうか。生命の意義を考える上でも、本書は多くの人におすすめしたい。但し、日本語訳未刊。

 
 類似の問題を扱った日本の作品として、黒田恭史氏著『豚のPちゃんと32人の小学生 命の授業900日』(ミネルヴァ書房 2003年)があります。これは学校現場での豚飼育を題材に命の尊さを説いたもので、『豚がいた教室』(前田哲監督 2008年)として映画化されています。あわせて見るとより興味深いのではないでしょうか。