【目次】
第1章 企業の存在意義を考える
1.企業とは何か
2.経営とは何か
3.企業の目的
第2章 三つの経営精神
1.市民精神
2.企業精神
3.営利精神
4.三つの精神のダイナミズム
第3章 経営精神の実践
1.市民精神の実践
2.日本の企業精神
3.日本の営利精神
4.究極の独自能力としての経営の精神
第4章 経営精神の劣化
1.経営精神の劣化
2.なぜ経営精神は劣化したのか
3.株主主権の強制と営利主義の暴走
第5章 経営精神の復興
1.アメリカ流アプローチは通用するか
2.厳しい競争に身をさらす
3.事業の絞り込み
4.経営精神の可視化
5.経営者の自信回復
6.企業へのコミットメントを高める
7.企業統治制度の再改革
8.経営教育の見直し
【要約】
著者が2000年以降の日本企業の元気の無さや一流と呼ばれた企業の不祥事などを目の当たりにしたことにより、日本企業で働く人々の内部で何か大切なものが蝕まれていると表現している。その大切なものを「経営の精神」と呼び、その「経営の精神」とは何なのか、これまでは「経営の精神」はどのように実践され伝承されてきたのか、なぜ「経営の精神」が希薄になってきたのか、どのように希薄になってきたのか、そして最後にどうすれば「経営の精神」を回復させることができるのかを述べている。
著者はまず企業の存在意義を考えることから始めている。企業は資本と労働による協働の一つのかたちであり、この協働がうまくいくようにする活動が経営である、としている。そのためには労働により価値を高める必要があるが、働く人々が価値を高める労働を提供する理由は報酬だけではなく、働く意欲や気持ちが大切である。経営学で労働意欲の問題を取り上げるには人間の心理に注目するアプローチと人間の精神に注目するアプローチがある。本書は後者の立場をとり、日本の経営を支えてきた精神とはどのようなものであったかを考えている。
企業の経営は、その企業の目的に沿って行われる。では企業の目的とは何か、ということであるが“利潤の最大化”はほぼ間違いであると著者は述べている。その理由は過去の優れた経営者は利益の追求を目的としていないからである。企業が“利潤の最大化”を目的とすると従業員をはじめ顧客、仕入先、地域社会、株主などのステークホルダーの支持を得ることができないからである。よって企業は多元的な目的を持つに至るが、その多元目的の上位目的は創業者や経営者の理念や倫理となる。
資本主義社会において企業の経営を成り立たせるには、企業で働く人々の内面からの人々を律し、動かす心構えが必要である。著者はその心構えを「経営の精神」と呼び、時間をかけてつくられた「経営の精神」は企業の独自能力であると言っている。
「経営の精神」には3種類の精神がある。
① 市民精神:勤勉 従順 節度 克己心 利他 地道 愚直
② 企業精神:情熱 創造的破壊 勝利 征服 志 使命感 リスクや失敗を恐れない精神
③ 営利精神:合理性 数字へのこだわり 自利 本音
3つの精神のバランスをとることが重要である。市民精神が強すぎると元気がなくなる。企業精神が強すぎると暴走する。営利精神は市民精神から企業精神へとアクセルを踏む役目をすることもあるし、逆に企業精神の暴走にブレーキをかける役割も果たす。
日本的経営の中にもこの3つの精神が関わっており、日々の仕事の中で実践され伝承されてきた。市民精神は近江商人の心得やモノづくりの精神に表れている。また、著名な企業の創業経営者が些事にこだわり、厳しく社員を叱ったなどの逸話にあるような形で伝承されていった。企業精神は明治時代後半と第二次大戦の敗戦後に高揚した。営利精神は日本では否定的な反応が多いが、利益追求を正当化するための理論武装は経営を深く思考することに結びつき、社会貢献の評価指標として利益が理解されるようになった。日本の企業が世界の市場に高品質な商品を提供できたのは、日本の経営精神に支えられた経営が行われたからであり、その経営精神は企業の貴重な独自資産であることを認識する必要がある。
しかしながら日本の産業社会で経営を支える3つの経営精神にゆがみが生じていると著者はいう。このゆがみは3つの側面がある。
① 市民精神の衰微:勤勉さや愚直さが弱くなった
② 企業精神の弱体化:闘争心が弱くなり、志や使命感を喪失した
③ 営利精神ばかりが強くなった
では、なぜ経営精神が劣化したのか、著者はいくつかの要因を挙げている。
・経営精神という目に見えにくいものを軽視してきた
・経営学でも組織文化は研究されたが、経営精神は軽視された
・慢心、満足の文化の蔓延
・グローバルスタンダードに惑わされ日本の経営精神が軽視された
・目先の合理主義により愚直に継続することをしなくなった
・株主利益が優先されだした。株主保護のためのルール主義経営(会社法の弊害)
最後に日本は「経営の精神」をどのように復興していけばよいか、著者は日本的解決策を考察している。
① 厳しい競争環境に敢えて身を置く
② 事業を絞り込み、集中する。
③ 経営精神の見える化 5S、トイレ掃除
④ 経営者が自らの意思決定に自信をもつこと
⑤ 従業員の企業への「愛着」を高める 企業の目的の明確化と社員への信頼
⑥ 日本版SOX法の再改革
⑦ 経営教育の見直し(経営の精神などの基礎的教養を重視)
著者はアメリカ流の徹底した成果主義で経営精神を復興する方法は日本には向かないとし、日本の文化に合った方法で経営精神の復興を目指すべきとしている。
【感想・学んだこと】
1.「経営の精神」は経営を学ぶ者の土台となるものである事を再認識した。
2.働く人を動かすものは、外部環境によるものと、その人の内面的なものがあるが「経営の精神」がしっかり育っていなければ、企業家として正しい判断と行動ができない。
3.創業の目的とその目的が世の中に受け入れられ、世の中に貢献できた時、利益を得ることができる。貢献量が大きいほど、利益も大きくなる。
4.様々な利害関係者とうまくやっていくことは「経営の精神」を重視することに繋がっている。
5.2018年の今の経営を取り巻く環境を考慮したとき、グローバル環境の影響、ダイバーシティといわれている働く従業員の多様化と価値観の多様性をどう「経営の精神」に加えていくかが今後の課題になると思う。私の案としては4番目の精神として④受容の精神を加えてみてはどうかと考えた。
以上
