名探偵コナンから、平和な2人を

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「平次に会わせて!」

会わせてくれるまでは、何も喋らないから!

今朝方、府警から取り調べ映像を確認して欲しい
と連絡があり、大滝ハンらの立ち会いの元、その
問題の映像を確認した

あのモデルの姉ちゃん

どうやら薬に手を出したらしく、麻取に捕まった
らしいねん

取調べに素直に応じず、発狂しとるみたいで、
とにかくオレに逢わせろと言うてる様子

映像を確認する限り、確かにオレに会わせろと、
主張しとんのはわかる

だけど、オレには会う理由が無いねん
せやから、警察も困っ取るようで

「会ってどうすんねん」と言うも、会わせろの一
点張りで、膠着状態やって言う話らしい

迫られても、要求に応じる気は無いし
オレとしても、取調べの権限も無い、ただの探偵
なんやけど、と困惑するしかない

どうしよう、と言うてるオレらの部屋に、和葉が
現れたんや

平次、会ってみたら?と

その代わり平次に何かあったら困るから、ガラス
越しとか、画面越しじゃアカン?と

「事件なんやろ?最後まで、全部解決せな」

そんなに会いたい、言うのは、恋心もあるやろう
けど、まだ何か秘密があるのかも、と言う和葉

2人きりは、規則上アカンと言うて、ベテランの
刑事さんと記録係を付ける事が条件やと言うてみ
たらどうやろか?と

「和葉」

「きっと何かある」

和葉の提案を、飲む事にした

迎えに来た車に乗り、一緒に移動した
和葉を置いて行きたくなかったんや

まだ、不穏な動きの全てを封じられた訳ではない
からやった

和葉には、刑事達と別の部屋で見守ってもらう事
にして、オレはモデルの姉ちゃんと対峙した

人は、こんなにも変わるもんか、と驚いた

職業が職業だけあって、華やかな美しい人やった

でも今は、やつれて生気もない
艶を完全に失った髪や肌
大きな瞳の下には陰が出来て、濁った瞳は血走っ
ていた

僅か、1ヵ月程で、こんなにも変わるんや

薬の恐ろしさを、目の前で見ているオレやった

「アンタと、あの工藤ってガキ、何て言われてる
か知ってる?」

死神、と言うと、あはは、と甲高い声で笑う女

「アンタと関わったばっかりに、ミイラ取りがミイラになっちゃったじゃない」

あーあ、私の人生何だったんだろ

そう言うた後、アンタもこれから大変ね、と言う
てまた笑うた

自分はハメられて、乗せられて、踊らされただけ
と言うて、妖艶と言うか、何か取り憑かれたよう
な笑みを見せると、

「一度でいいから、寝たかったわ、坊や」

そう言うて、立ち上がり、フラフラと踊るような
仕草を見せ、オレと乗せ間にあるガラス越しに、
オレの輪郭をなぞるような指先をすっと這わせ、

また、高笑いをした

嘲るような、見下すような、侮辱するような笑み

嫌なオーラをビシバシ浴びせられているような、
何とも言えへん剥き出しの悪意を感じた

「私は、あの執事の囁きに乗っただけよ
あの坊ちゃんは、幼なじみの恋愛ごっこに遊んで
いるだけだから、簡単に釣れるってね」

うふふ、私ねぇ、今まで振られた事無いのよ?

狙った男は全部、手に入れて来た
飽きた男は片っ端から捨てて来たし

まさか、アンタみたいなガキが思い通りにならな
いとは、私も随分とヤキが回ったのかしら?

「本当、ムカつくくらいキレイな顔ね
苦痛に歪む顔、見たかったわぁ」

最後に、見ておきたかったのよ
唯一、手に入らなかった男の顔と

バンっ、と机を叩き立ち上がったオレを、あざ笑
うオンナは、最後に言うた

アタシはただ、弄ばれただけ
アンタの元には、続々と刺客が放たれるわ

あの執事、狂ってる
薬に手を出しだ私より、よっぽど強い毒を持って
るわ

せいぜい気を付ける事ね
さよなら

そう言うと、面会終了、と叫び、気が狂ったよう
に笑い叫んだ

オレは、黙って部屋を出た

和葉が待つ部屋に行き、親父らに和葉と一緒に、
家に帰りたいと言うた

和葉の手を掴んで、そのまま府警を出て家を目指
した

「最後に、見ておきたかったのよ
唯一、手に入らなかった男の顔と、その男が惚れ
ているお嬢ちゃんの顔を、ね」

後半を聞かせへんために、机を叩き黙らせたオレ
やった

不愉快な話を聞かせへんために

家に着いて、和葉に促されるままに風呂に入り、
居間のソファに転がった

同じように風呂に入り、出て来た和葉にマグカッ
プを差し出された

湯気があがる、爽やかな香り
ハチミツレモンや

黙って一緒に飲む
和葉は、何も言わへん

普段は、とにかく煩いくらいやけど
オレが辛い時や、悩む時は、黙って傍に居る

幼い頃からずっとそうや

特に話す訳でもなく、眠っていたりする事もある
けどな

飲み終わった和葉に手を伸ばして抱き上げ
横抱きにして、その肩口に顔を突っ込んだ

ギュッとして、ホッとする

あのモデルは、事務所のオーナーに薬を盛られて
怪しげなパーティーに駆り出されたらしい

昔、少しやってた時期があったらしく、すぐに、
薬にのめり込んだ様子

何や、やりきれへん
せっかく事件解決して、彼女の抱えていた問題を
解消したはずやのに

何でこんな事になるんや?

オレやなく、工藤が予定通り向かうてたら、こん
な結末には、ならへんかったんやないか?

「へーじのせいやないよ」

工藤くんが行ってても、結末は変わらへんかった

え?

オレにくっついてる和葉の顔は見えへん

「工藤くんが、そう言うてた」

「オマエ、いつ工藤に会うたんや?」

抱えていた和葉の身体を離し、向かい合おうとするんやけど、和葉は顔を合わせへん

ギュッとくっついて、離れへんねん

和葉が言うのには、あの対面を、和葉の見ている
部屋で工藤も見ていたらしいんや

「そうか」

うん、と頷く和葉を抱え、オレは部屋へ向かうた

ベッドは和葉に譲り、自分は和葉の部屋から布団
を引きずり持ち込んでころがった

他愛もない話をして、うたたねするように寝落ち
したオレらは、きっと幸せだ

慣れ親しんだ部屋にほっとして、和葉もオレも、
あっと言う間にぐっすりやったんや

to be continued