14話 2月 14日
-St Valentine's Dayまであと1日(当日)

「平ちゃんと、喧嘩すんなや~!」

などと言う、お父ちゃんに見送られて、私と
平次は一緒に電車で京都に着いた

どこに行くかも知らされてなくて、ただ平次
に着いて来た私

ええから、と連れて来られたのは、京都に
ある私の親戚の家

「あらあら、和葉ちゃん、平ちゃんも大きく
なってしもうて」

毎年、ひな祭りにひちぎりを送ってくれる
人で、駆け落ちしたお父ちゃんらを手助け
してくれた人

そう、この人が協力してくれんかったら、私
はこの世に生を受けて無いし、平次とも
出逢えて無いねん

平次は、どうやら何かを頼んでいたらしく
奥から着物を持って来た

「おばちゃん、おおきに!」

どういたしまして、今度は、それ着た可愛い
娘でもこさえて来てや!

と言うおばちゃんに見送られて、私は訳が
判らず、次の目的地に連れて来られた

そう、平次が初恋の人と出逢った場所だ

平次はベンチに座ると、荷物を置いて
私を隣に座らせて、笑った

「1500年は経ってへんけど、教えたるわ」

着物を包んだ袋を、私の膝に乗せた
開け、と言われたので、開いてみると

懐かしい、子供用の着物だ

「あ、これ!」

平次に見せられんかったあの着物だ

平次を見ると、目を細めて私を見ている

「それが、答え、や」

着物の上に、一枚の写真を置く平次
小さな私が、着付けてもろうてる途中の
写真や

「オカンからの預かり物の写真やから、
無くしたらアカンで」

平次が言う
この場所で、鞠をついてた女の子は、オマエ
やったんや、と

「へ?」

平次がどんなに捜しても、見つからなかった
のは、あの時、平次を捜して私は結局、写真
を撮る時間が無かったから、ちゃんと着た
写真が無かったせいや、と

一応、おばちゃんのコレクションは、真っ先
に確認してたと言う

「この間、オカンが片付けしとって、この
写真の存在が判ったんや」

自分の記憶にあった娘の着物と、一緒やと
あと、私が間違えて記憶していた手毬唄が
証拠や、と

指輪をはめた平次の指先が、顔にかかる
私の髪を払う
優しい掌に導かれて

そっとキスを交わした

まだ桜は咲いてはいないけれど
満開のあの日見た桜が舞っているような
気がした

おばちゃんが、連絡して、あの着物を譲って
もろうたらしいねん

私にはもう着られへんのに

「ええねん、いつか、まだまだ先の話やけど
オレらが親になった時、着せてやったらええ
やんか」

平次はさらりとそう言った

思わず真っ赤になる私に、そないに照れら
れても困る、と言うた平次

その後、一日中、2人で京都を堪能して
キスやハグをたくさんして、私は、初めて
世間一般のデート、と言うものをした

平次は、恥ずかしいのをガマンして
めちゃくちゃエスコートらしきものをして
くれたんや

その夜、大阪からおばちゃんらがやって来て
私はこの旅行の意味を初めて知った

明日、お母ちゃんの元へ、平次との婚約を
報告に行くんやって

おばちゃんは、私と平次の着物をちゃんと
用意して来ていて、しかも、私の振袖は、
平次とお父ちゃんが選んだ言うてた

広げて見せてもろうた振袖は、
淡いクリームを溶かし込んだような色合い
に、ピンクの濃淡のある桜や何かが丹念に
刺繍されたもの

帯も凝ったデザインで、素敵やった

「素敵な着物やね」

「せやろ?おっちゃんと2人で何遍も選んだ
一着やからなぁ」

お父ちゃんと平次は、忙しい合間を縫って
何遍も着物選びをしとったらしい

「おっちゃんから、和葉へのプレゼント
やし、値がはるものやから、緊張したわ」

嫁に行く娘に、着物を選ぶのが、アイツと
の約束やったから、と、お父ちゃんは、
お母ちゃんが可愛がってた平次に、一緒に
選んでもろうたと言う

おばちゃんが贈ってくれた帯留めや簪も
ちゃんと着物に合わせてあった

私がお礼をせなアカン方なのに、こんなん
してもろうて、ええんやろか

私は、持って来たプレゼントを、みんなに
手渡して、夜、眠る前に、勇気を出して
平次を連れ出した

「どないした、和葉」


St Valentine's Day が終わるまで、後3分

遠山和葉、腹括ります

平次の服を掴んで
つま先立ちになって

初めて、自分から唇を重ねた

かずは、と動く唇を、しっかり塞ぎ
平次を抱き締めた

驚き硬直しとる平次も、途中から私をちゃ
んと抱き締めてくれて、キスも受けてくれた

もうそろそろええかな、と唇を離し、好きや
と言うと、私以上に真っ赤になった平次

あんな、約束やねん、と言うて
翠とした約束を話す
ふっと笑う平次は大人びていて
おおきに、と言うてくれた

頭冷やしてから部屋に帰る、と言う平次
私が部屋に帰ると、おばちゃんらは異常な
盛り上がりでどんちゃん騒ぎをしてた

さっき、抜け出る時は、静かやったのに

散々冷やかされて、中々眠れ無いまま
賑やかな夜は過ぎていった

Fin