11話 2月 11日
-St Valentine's Dayまであと4日


あぁ、嫌な予感しかしない

平次、事件からホンマに帰って来るん?

今日を除けば後3日
ま、怪しいとこやな

仕方無いわ、平次かて、遊んでる訳とは
ちゃうんから

「和葉ちゃん、全部声に出てるで?」

あっ、と思うた

おばちゃんと2人、府警への差し入れ用の
弁当を作ってたんや

おばちゃんは、けらけら笑ってた
うちの平次は、ええなぁ、と

耳まで真っ赤や、と判るけど
えへへ、と笑って誤魔化した

おばちゃんが府警に出かけとる間、私は
ひとり、御守りを開いた

中に眠る指輪をそっと出して見る

キラキラして、優しい煌めきを放つ
指輪の裏側にあるメッセージ

You're my reason  / H to K

カップルリングは、私の憧れやった
結婚指輪を大事にしとるおばちゃんや
お父ちゃんらを見てたから

いつか、好きな人から貰えたらええなって
夢見てたんや

まさか、こない早く叶うとは思えへんかっ
たんやけど

平次は、こう言うの、嫌やって言うタイプ
やったから、絶対、無理やねって思うてた
諦めとったんや

平次が、私を幼なじみや子分以外に見てく
れるとは思え無かったし

せやから、今でも時々、夢や無いかって
思うてん

そっと右手薬指にはめてみた

ちょっとだけ、ぶかぶか

左手薬指にはめてみた

ぴったり

うふふ、自然と笑みが溢れる
嬉しいな、やっぱり元気が出る

私も、平次に、こう言う気持ちにさせる
ものを贈りたいな

どんなのがええかな
 
そう言えば、平次は指輪、どないしてんやろ

御守りの中やって言うてたけど

私はこうして、ひとりの時、翳して見てる

傍に居なくても、居るような気持ちになる
頑張ろうって気持ちにもなるし

指を反らしてみたり、灯りに翳してみたり
眺めているうちに、うとうとしてしもうた
らしい
 
気がついた時は、朝やった
ちゃんと、いつもの私専用の客間で
御守りはちゃんと机に置いてあった

でも、びっくりしたんは、私の指輪をした
手は、平次の掌の中
平次もちゃんと指輪をしとる

恥ずかしいのと、嬉しいのと、ぐちゃまぜ
の気持ちで、平次を見た
多分、運んでくれたのは、平次だ

平次の褐色の手に、艶消し加工がされた銀色
の指輪は、とても良く似合っていた
夢や無いんやね

そのまま、ずっといたかったけど、平次が
風邪、引いてまう、と思い、平次を起こした

「平次、おはよ
風邪、引いてまうから、早う布団入って
寝たらええよ?」

うん、と言う平次はまだぼんやりした顔

そのまま、私の布団に潜り込み、抱き枕よ
ろしく抱えると、おやすみ、と言う

唖然、とした私は、動けんかった

スヤスヤ眠り始めた平次を見て、はっとする
階下には、おばちゃんが居る

平次を起こさんように、何とかベッドを抜
け出して、着替えて階下に降りた

「和葉ちゃん、おはようさん」

「おはよう、おばちゃん」

一緒に、朝の台所に立つ

あれこれ支度して、和葉ちゃん、悪いけど
平次、起こして来て、と言われて、私は
平次を起こしに行った

「平次、起きて?朝やで」

私の部屋で爆睡してる平次
よしよし、と頭を撫でても起きない

それでも、あれこれちょっかいを出したら
ようやく、大あくびで起きて来た

おはよ、と言うと、私を抱き寄せて、何事も
無かったようにキスをして、着替えに自室へ
と消えて行った

あまりにナチュラルな動きに、一瞬、何を
されたのか、分からなかった

ぼうっとしたまま、おばちゃんと3人で
ごはんを食べた

おばちゃんは、私と平次を並べて見て、
ふっと笑った

その理由を知ったのは、後片付けの時

平次と並んで、洗い物をしていて、あ、と
思ったのだ

私も、平次も、指輪、しっぱなしやったん

でも、私が何か言うたら、平次は照れて
外してしまうから、黙ってた

嬉しいな、と思った

「どないしたん?ニヤニヤして」

「なんでもないわ」

いつもの軽口の応酬を、おばちゃんがそっ
と見ていたのに気付いたのは、少し後のこと
やった