06話 2月 6日
-St Valentine's Dayまであと9日

「思ったより早く事件解決したから、夕飯
でも一緒に食べに行こうや」

珍しく事件に飛び出した平次からそう言われ
て、待ち合わせの 公園に着いたのが30分前

今日は…2時間くらい待たされるかもなぁ、
と思い、ぼんやりと 公園を見渡していた

「どないしたん?」

泣きながらとぼとぼ歩いて来た
小さな女の子の手を掴んだ

周囲を見ると、親らしい人も居ない

「ひっく…ひっく…えーじがな、おらんく
なったぁ」

泣き始めた子をベンチに座らせて、大きな
瞳から零れる涙をハンカチで拭ってあげた

すぐにその「えーじくん」が走ってきて、
くれはちゃん(泣いてた子)を迎えに来た

「くれはがかってに、さきいったんや」

「えーじがよそみばっかしとるからや」

喧嘩を始めた2人を宥めて、くれはちゃんの
お母ちゃんが 迎えに来ると訊いたので、
それまで一緒に待っている事にした

暇やったから、くれはちゃんの髪の毛を
結えてあげる事にする

「ねえちゃんすごいなぁ
…まほうつかいなん?」

自分のポニーテールを解いて、くれは
ちゃんの髪をポニテに 結いあげて、リボン
も結んであげる

「くれは、おひめさんみたいやん」

えーじくんはキラキラした瞳で嬉しそうに
私を見た

鏡でくれはちゃんに見せてあげると、頬を
染め、嬉しそうに おおきに、と言う

ホンマに可愛ええ子やなぁ、と思う

くれはちゃんのお母ちゃんが駆け付けて、
申し訳なさそうに謝ってくれたけれど

「えぇの…それ、くれはちゃんにあげる。
お姉ちゃんも人待っとって、暇やったし、
遊んでくれたから 、ご褒美や
えーじくんと仲ようするんよ?」

「「うん」」

お母ちゃんに連れられて、2人は仲良く
帰って行き、入れ違いで 平次が来た

「和葉、髪、どないしたん?」

「待っとる間にな、知り合いになった可愛
い子に譲ってあげたんや」

経緯を知らない平次は、困ったような
笑顔を浮かべ、私の髪を撫でた

2人でいつものお好み焼き屋に行って
目一杯食べて、一緒に帰る

今日は、お父ちゃんが深夜に家に帰る
と連絡があって、土産があるから、2人共
今日は遠山家に居たらええ、と言われた
んや

だから今日は、久しぶりに、2人で遠山家
に帰るところ

月明かりがとてもきれいな夜やった
自然と繋がれた手を揺らしながら、2人で
ふらふらと一緒に帰る

平次と一緒やったら、喋ってても
何も喋らんでも心地良い時間
何でなんやろ、と思う

ふと、平次はどうなんやろ、と思った

いつの間にか、見上げるようになった
最初に差を感じ始まった時は、その分
だけ距離がどんどん離される気がして
不安で、仕方が無かった

でも今は、この距離がちょうどええと
思うようになってた

だって、もし、背丈が同じくらいやったら
こうして一緒に歩いたら、顔がぶつかっ
てしまうくらいの距離やねん

付き合うようになって、まだ数ヶ月
こうして一緒に過ごす時間は、普通の
カップルより少し少ないと思う

家族も一緒、と言うのが多いからなぁ

でも、時々だから、この特別感があるの
かな、とも思う

突然、平次に腕を引かれてぶつかった
目を伏せながら近づく顔を、キレイやな
とぼんやり思いながら見ていた私

重ねられた唇よりも、間近に見る平次の
睫毛の長さにドキドキした

「んなっ、何見てんねん」

エロいぞ、と言い、頬を染める平次は
突然、私の頭をしっかり抱えると、再び
キスをした

それも、今までのような触れるだけでは
無い、激しく深いキスを

ん、とか、あ、とかしか言えん私が
呼吸が出来んから、離して、と抗議しよう
としても、離れるとすぐに塞がれてしまう

くっつけたり、食まれたりするのがキス
やと思うてた私はお子ちゃまやな、と
遠くなりかけた意識で思う

平次も珍しく息があがっていた

立つのもやっとな私に気が付いたようで、
スマン、と言うて、頬にキスをした

くらくらした私を、しっかり抱きかかえ、
つい、夢中になった、と笑う

あほ、ここ、外やで!と小声で怒る私に
煽ったオマエが悪い、と楽しそう

最近、ちょっとずつだけど、ほんの少し
だけど、スキンシップが増えた気がする

こうして手を繋いで歩くのも、最初は家や
学校の近くでは、離される事が多かった

でも、最近は、学校に入るまで、繋がれ
ている事が多い
平次の家に行く時は、玄関まで外されへ
んようになった

頭を撫でる、ハグをする
髪や頬にキスされる
(唇にするのはあんまり無いけど)

自分より大きい掌で撫でられるのは
心地がええ
自分がネコになった気がするくらい

まだ、St Valentine's Day に平次に
どんな休日をあげようか、決めていない

私は一緒に居たいけど、事件やったら
アカンやろな、と思う

平次に言われたんや
付き合う事になった時

何で、私を連れて行くのを止めるように
なったんか、と言う理由を

私がちょろちょろしとると、心配で落ち着
かんらしい

後、怖い、と言われたんや
私に何かあったら、多分オレ、壊れると

好きやって言われた事よりも
その方がドキドキした

そして、

ゴメン、って思うた

オマエが居ると推理の邪魔やってよう
言われてたけど、考えてみたら、連れて
ても平気な事件の時は、可能な限り、
連れて行ってくれたし

無理矢理ついて行った事件は、かなり
危険なものが多かった
実際、2人で危険な目に何度も遭ったし

私が、平次を心配するように
平次も、私を心配してくれてたんや

それが判っただけでも、良かった、と
素直に思える自分がいた

まだ、恋人らしい雰囲気は出せへんけど
ゆっくり、じっくり、2人で進んで行けたら
ええな、と思うてる

平次と一緒に帰って、交代でお風呂に
入ってから、2人でテレビ見て騒いでる所
にお父ちゃんが返って来た

リビングではしゃぐ私達を見て、何故か
ずっこけそうになってたお父ちゃん

ちゃんと、お土産、買って来てくれた

「すげー!めっちゃかっこいいやん」

「ホンマやね」

この間、お父ちゃんは約束を10回連続で
破ったんや
寝室で、煙草吸うたらアカン、火事の元や
そう言うたのに、跡があったんよ

「10回連続で破ったら、Macbook買って」

わざと高いものをおねだりしてた私

平次から譲り受けたPCも、そろそろアカン
ようになって来て、新しいの、買わなアカン
状態やったんや

ちゃんと備品も買うて来てくれた

「刑事の中になぁ、こういうの、好きなヤツ
がおって、娘に罰ゲームで強請られとん
のやけど、ようわからんって言うたらな、
選んでくれたんや」

平ちゃんの分は、平蔵からや

「親父?誕生日でも無いんに」

「遅れに遅れたクリスマスプレゼント
らしいで?」

お父ちゃんは笑っていた
多分、お父ちゃんが私に買う言う話を聞き
一緒に買うたんやろな

私と平次は、ホンマに両家に平等に育て
られてん

お小遣いも、お年玉も同額
誕生日祝いも、クリスマスもそう

言われてみたら、私のコレやって
お父ちゃんの罰ゲームいうより、クリスマス
やんか

昨年のイブは、平次に連れて行かれた先で
告白されたりしとって、そう言えばお父ちゃん
達から何ももろうてなかった

平次と2人、リビングで新しいPCを広げて
設定やら何やら騒ぎながらやってるのを
お父ちゃんは、風呂上がり、ソファーに腰
かけて楽しそうに見てた

「ホンマ、遊んでる物がおもちゃかパソコン
かの違いだけやな」

そうしとんの、小さい頃のまんまや、と笑う

男の子も欲しかった、と言うお父ちゃん
その分、平次を実の子のようにして連れて
歩いて、可愛がった

平次も、おっちゃんらに言えん事は、何故
かお母ちゃんとお父ちゃんに言うてたらしい

ホンマはね、私のお母ちゃんが亡くなって
一番大変やったのは、平次やった
唯一の甘え先をひとつ、失ったから

それだけやない
私を励ますために、自分はさらに大人に
ならなアカンかったから

大事にせなアカン

お父ちゃんも、平次も
もちろんおばちゃんやおっちゃんも

今年は、平次だけやなく、みんなに何か
ほっとするものを贈ろう

後1週間くらいしかないけど
一生懸命考えて、私らしいものを贈ろう

パソコンを前に、お父ちゃんと楽しそうに
話す平次を見ていた