04話 2月 4日
-St Valentine's Dayまであと11日

現在、立てこもり事件発生中

現場は、幼なじみの自宅
現場には、犯人とオレしか居ない状況で

オレは

頭を抱えていた

昨夜は、ええ雰囲気でおっちゃんと3人
この家に来たと言うのに

昨夜は、10年前の和葉からの、めっちゃ
可愛ええラブレターに、悶絶しながら夜を
越えたと言うのに

10年前、お互いに書いた手紙が、幼稚園
の園長の手で投函されたらしく、ちゃんと
オレらの手紙は府警に全部届いたらしい

親父達宛てのものは、全部開封されて
あったけど、和葉とオレ宛てのものは、
未開封で届けられた

和葉が、取り返そうとそわそわしとる様子
はめっちゃ可愛いくて、おっちゃんと2人
からかい過ぎたんは謝る

でもなぁ…

明け方、府警から呼び出しが入り、
おっちゃんは家を飛び出して行った

起きて来た和葉の元へ、おっちゃんから
電話があったんや

「お、和葉か?」

スマンなぁ、事件でもう府警に居るんや
と言うおっちゃん

和葉が、差し入れに行こうか、と言うと
いや、今日はオマエは府警に来たら
アカン、と言うたらしい

「平ちゃんの、オンナが来てるから」

言うておく

オレのオンナは和葉だけや
他にオンナ何ぞ居らん

おっちゃん、昨夜、オレ宛ての手紙を読ん
だんや
和葉に内緒で、見せてやったオレが悪か
った

おっちゃんなりの、ブラックジョークやん

今日は、「大好き」な平ちゃんと2人で過ご
したらええ

今日は、平ちゃんも、呼び出しせえへん
から、オマエもわざわざ来る事ないでー
って

それをなぁ

真に受けたんや、和葉

「やっぱり」

と言うた後、大きな黒い瞳に涙をいっぱい
貯めて、バタバタと自室に駆けこんでなぁ
鍵、閉めよったんや

オレはデジャブを見てる気がした
数年前、同じような光景が、服部邸で
繰り広げられたんや

あの時も、たてこもり犯は和葉やった

大変やったんや、あの後

その時を思い出して、オレは背筋がぶる
っとした

そんな事よりも、現在や

現在発生中のこの事件
どないしたらええやろか

怒り狂って立てこもった和葉は、携帯も
放りっぱなしや

って事は、電話やメールで謝罪と言うか
事情を説明する事は出来ん

今回は、オレの家やないから、さすがに
ドアを蹴破る強行手段は取れん

どうしようかなぁ

ここはひとつ、オレのオンナに登場して
もらうしか無いやろな

「オカンか」

「一応、そうみたいやな」

「悪いけど、和葉の家、来てくれへん?」

「何でや?」

和葉が立てこもり中やって説明をして
おっちゃんのからかいの電話を真に受けた
んやでって言うと、電話の向こうでげらげら
笑い出した

「不愉快やわ
イヤやわ~、アンタなんかのオンナと間違い
られるなん、最低や」

平蔵さんに、言いつけよう、と楽しそう

「オレはええけど、それ、遠まわしで和葉、
貶めとんで」

「あ、せやった、それはアカンなぁ」

さぁ、どないして姫のご機嫌伺いせな
アカンかなぁ、と笑うオカン

「ま、簡単や、平次、アンタが言うたらええ」

「何て」

「私が大事な話しがあるから、すぐ来い
言うてたってなぁ」

ちゃんと、戸締りして、迷子にせんと連れて
来るんやで、と電話を切られる

「和葉、和葉って」

部屋をノックして、オカンから電話があった
事を伝え、今から行くから出て来い、と言う
と、口惜しいくらい、あっさり扉は開いた

俯いて顔を見せてはくれない和葉を、腕を
回して胸元に抱き寄せた

ぎゅっと抱きしめる

「オマエさぁ、おっちゃんにからかわれた
んの、まともに受けんなや」

じたばたする和葉の唇を塞いだ

「そんなにオレ、信用無いんか」

「アンタや無くて、アンタの周囲の女の人
が信用ならん」

俯いてふてくされる和葉は、不謹慎やけど
めちゃくちゃ可愛ええと思う

「おっちゃんに、オレの女って誰って
後からメール、しといたらええ
それが原因で、大喧嘩中やってなぁ」

わざと意地悪な笑みを浮かべ、アカン
ホンマにオカン待ってるから、行くで、と
戸締りをして、手を繋いで家を出る

途中、コンビニでアイスを買って帰る

「まぁまぁ、まったくホンマ、平次も遠山
さんもしょーもない」

和葉にアイスノン手渡しながら、オカン
がソファに座らせた和葉に言う

「ええですか、和葉ちゃん」

彼女ひとりちゃんと構えない男の人に
隠れて女を作れるような甲斐性なんて
絶対、ありません

「大体なぁ、お嫁さんにする人がなぁ
この程度で不安になるほど甲斐性が
無いんやで?まぁ、無理やわ」

わーわー、何を冷静に説教始めたんや
このおばはん!!

「ちょぉ待て!おばはん!」

「おばはんちゃいますよ」

「そこは置いておいて」

「置くんかいな」

「誤解をさらに広げるような真似、せん
でええわ!」

「せやかて、順を追って、ちゃんと説明
してあげなアカンやろ」

「だーかーら!
おっちゃんが和葉の事、からかっただけ
やっちゅーねん!」

あれは、おっちゃんのブラックジョークや
と言うオレに、和葉はきょとん、としとる

あらあら、と言った顔をしたオカンが、
和葉に向かって言うた

アレなぁ、府警に行ってたの、私やねん

「おばちゃん???」

「私がなぁ、平蔵さんといちゃこらしとった
んが気に入らんかったみたいや」

余計、話がややこしくなる
止めてくれんか、オカン…

「昨夜なぁ、10年前の和葉ちゃんが書いた
ラブレター、平次から自慢されたみたいで
なぁ…」

遠山さん、焼きもち焼きはったみたいや、と
笑うオカンに、みるみる真っ赤になる和葉

やばい、アカン、こら、また、始まるで

ふるふる震えとったと思うたら、あっと
言う間に駆けだしてしもうた

「はい、証拠品は押収や」

オカンに叩きつけて、オレは2階へと急いだ

案の定、和葉はオレの部屋に立てこもり
を再開した

「和葉~、頼むから、誤解やって~」

オレ、おっちゃんに自慢なんてしてへん
脅されて、見せろ言われたから見せただけ
やねんって~

「和葉ちゃーん、頼むわ」

ええ子やから、出て来てえや

イヤや!と言う声が中から聴こえる

「オマエ、ええ加減にせえよ」

階下に聴こえんような声で、和葉に言う
これ以上、立てこもるんやったら、扉、
蹴破るで?と

蹴破ったら、オマエ、押し倒したるけど
ええねんな、と

押し倒すって、アンタ!と怒りの声が響く

「人が色々我慢しとるのに、煽りやがって
覚悟、あんのやろうな、行くで」

1、2…

ばんっ、と扉が開いたのを確認して、オレ
はそのまま和葉を部屋に押し込んだ

扉に和葉を押しつけて、がっつり唇を頂き
腕に抱きこんでしまう

ん~っ、と言う抵抗の声も飲みこんで、
ぎゅうぎゅう抱きこんで、耳も顎も、首筋も
鎖骨も甘噛みしてやった

オカンが階下に居るので、痕を残す訳には
いかんから、その辺はちゃんと手加減した

ふるふる震える和葉は、真っ赤になって
もの凄く熱い

最後に深く長いキスをして、唇を離した

涙目の和葉を胸元に抱いて、耳元に唇を
寄せて告げる

オレ、準備出来てるから、オマエが覚悟
決めたら言えや

きゅっとシャツを握る手が震えていた

「心配せんでも、オマエの覚悟が出来る
前にやりはせん
それくらいは待ってやるけど、結婚したら
さすがに待てへんで」

今年の5月に入籍、来年の6月に挙式と
披露宴が控えているオレら

いずれにしても、日取りはもう決まってる

後は、和葉の覚悟次第

まぁ、オレとしては、早いに越した事は
無いけれど

「そう言う訳で、オレ、よそみしとる暇なん
無いねん」

和葉ちゃんにうん、って言うてもらわな
出来ん事、たくさんあるからなぁ、と言うと
あほ、と言われた

頭をくしゃり、と撫でて、オレは先に部屋
を出た

さすがに、オカンに疑われると思うてな

ホンマに手がかかるお嬢さんやなぁ
でもまぁ、そこがええんやけど

上機嫌で階下に降りたオレを、オカンは
平たい目で見ていた

その夜、おっちゃんは和葉にめっちゃ
怒られとったんやけどな

それはまた、別のお話