03話 2月 3日
-St Valentine's Dayまであと12日

服部邸で、恒例の本気でやる豆まきが行わ
れた

毎年、おっちゃんらか、大滝ハンが鬼を
私と平次が豆まきすんねん

今年は、仕事の都合が上手い事ついたらし
くて、お父ちゃんが鬼やった

散々騒いで、後片付けして、みんな恵方巻
食べて、楽しい時間を過ごした

「たまには平ちゃん、家に来いや」

夕飯が済むと、お父ちゃんは私を連れて
帰ろうとした時に、急にそう言い出した

見送ろうとしてた平次は、一瞬きょとん
として、すぐに、せやな、と言って、荷物
を取りに行った

3人で、夜道を歩く
間にお父ちゃんが居て、何か変な感じだ

「昔はようこうして歩いたけどなぁ」

お父ちゃんは、遠い目をして、道の先を
見ていた

お父ちゃん越しに見る平次は、よう姿が
見えん

お父ちゃんは、歩きながらたくさん昔の話
を持ち出した

まだ、お母ちゃんが生きていた頃の話
私や平次が産まれる前の話

お父ちゃんは、面白おかしく話しを続けた

「今日はどないしたん?お父ちゃん」

「ん?」

「おっちゃんがこない早う帰って来るのも
珍しいよなぁ、和葉」

「せやな、平次」

それはな、とお父ちゃん
嬉しそうな顔で、白い封筒を2通、差し出し
て来た


宛名は、府警

遠山銀司郎様宛てが1通
服部平蔵様宛てが1通

さらに、もう2通

宛名は、府警

遠山銀司郎様方 遠山和葉様
服部平蔵様方 服部平次様

不思議な事に、4通全部、おばちゃんの字だ

力強いお花と花火の絵の下に、ぎこちない
子供の文字が並ぶ

「とおやま かずはさま

がんばれ!かずは! はっとりへいじ」

あ、思い出した!
アカン!私のは、読まれたら、アカンわ!

「へ、平次!アンタのは、回収や!」

「何でや?これは、オレのや」

「ええから、返してえや!」

「アカン!」

大騒ぎして、取り返そうとする私と、それ
を軽くかわす平次

「こら!煩いで?2人とも」

お父ちゃんに叱られて、静かにするしか無
い私達

平次は、コートのポケットにしまい、どう
も開かない様子にホッとする
後で、それをどうやって回収しようか思案
する私

お父ちゃんからもらった、もう1通

「とおやま ぎんしろうさま

いつまでも、かっこいいけいじでいてくだ
さい

はっとり へいじ」

あれ?

もう1通を開く

「はっとり へいぞうさま しずかさま

おっちゃんは、ずーっとかっこいいです
だいすき
おばたんも、だいすき

とおやま かずは」

あちゃー、6歳の私、あほや!

思い出した

幼稚園で、10年後の家族にあてて、2通
手紙を書きなさいと言われたのだ

1年前に、母を亡くした私には、2通も書く
あてなどなく、中々書けずに持ち帰った

「かずは、おれたちは、ぎゃくにかこう」
「ぎゃく?」

平次が提案したのだ
平次が、お父ちゃんに
私が、おっちゃん達に、書こう、と

先生は、10年後の自分に宛てても良いと
言ってたので、私達は、お互いに向けて
書いたのだ

実際に、10年後、投函するから、大人が
書く事になっていた

「オカン、ぜんぶ、ふけいあてにしてや」

平次は、おばちゃんにそう頼んでくれた
もし、引っ越ししたとしても、自分達の父
は、必ずそこに居るから、と

私の記憶が正しければ

「はっとり へいじさま

いつもありがとう!だいすき‼︎

とおやま かずは」

と言う、とんでもない手紙が、平次の
ポケットにしまわれているはず

さて、どうやって回収しようか
私はもう、上の空で

お父ちゃんと平次が、そわそわしとる私を
見て笑い転げてんのも気がつかへんかった