■scene:10_side Kazuha

imaging from Eternally/JUJU

細く月が浮かんだ夜には会えないから
ああ 瞳閉じ 約束の場所で待つね

届かない距離さえ 愛しいだけだと
教えてくれたものは 優しい日々の軌跡

今日もまた、約束が流れた

この間、小旅行に出掛けた時は、
何となくええ雰囲気になったんやけど
戻って来るなり、現実を突きつけられた

平次はめっちゃ忙しくて、ホンマに飛び
回ってたんよ

一生懸命事件追ってるのもわかるし
勉強も剣道も、真摯に取り組んどるの
わかるから、我がままも言えんけど

でも、淋しかった

それに、事件関係者から言い寄られる
事も増えてるみたいで、おばちゃんが
タメ息吐いてた

「くだらん女にばっかり言い寄られて
始末に負えん」

事件で平次と知り合って、ホンマに
好きになってしまう子が多いねん

平次にええ返事がもらえんで、それ
でも諦められへん、言う子が、ようここ
に来るらしい

私の所にも、付き合っても無いのに
別れろ、とか、色々ある
手紙も、メールも、写真も

この間はおばちゃんに見つかって
没収されたしな

「こんなん気にする事は無い
平次に女作るような甲斐性あったら
どっくにどうにかなっとるはずやから」

甲斐性があったら、何がどうなるんか
私にはさっぱり判らんかったけど

おばちゃんが一生懸命慰めてくれとる
のは判った

片付けを手伝っていたら、いつもの
ようにおばちゃんが、歌って、と言う

今日は何がええかな、と思って
最近覚えた歌を歌った

何度でも君とめぐり会いたい
何度でもその笑顔に触れたい

夜空の向こうで 笑ってる君を
想って生きてゆきたいの

流れ過ぎ去る時が風になり
薄れ行く記憶が切なくても

近いあった愛は ずっと変わらない
瞬く星のように

「ええ歌やね」

「せやろ?この間な、お母ちゃんの
夢、急に見たんよ」

「あら、どんな夢やったん?」

「お母ちゃんがな、歌ってるん
三日月に腰掛けて、ご機嫌で」

「そう、幸せそうやった?」

「うん、笑ってた
お話は出来んかったんよ でも
ええ声で歌ってたで?」

「私も見たかったな」

おばちゃんは淋しそうに笑った
両手を広げて、おばちゃんにハグ
をした

「ごめんな、せやから、お母ちゃん
の代わりに、私が歌ってあげる」

せやね、おおきに、と
背中をぽんぽん、と叩かれた

おばちゃんとお母ちゃんは親友
ほぼ同じ頃に妊娠して、同じ頃に
出産して、同じ刑事の妻で

ずっと一緒やって、信じてた

お母ちゃんの法事の時、おばちゃん
がぽつん、と言うたの覚えとるよ

亡くなって、12年目を迎えた

でも、現在でもお父ちゃんの1番は
お母ちゃんや

お父ちゃんに縁談がたくさん来てる
事は知っている
お父ちゃんの好きにしてええよ、と
ずっと言うて来た

「お母ちゃんを越える人が現れん
から、仕方無いやろ」

お父ちゃんはそう言っていつも笑う
結婚指輪も外さへん

警察手帳に隠したお母ちゃんの写真
お母ちゃんの結婚指輪もずっと持って
歩いてんの、お父ちゃん

私は一度も見た事が無いんやけど
お母ちゃんはずっと日記を付けて
いたらしくて、お父ちゃんが保管して
いるらしいねん

でも、遠山家には、最後の日記は
置いて無い、とお父ちゃんが言うてた

「信頼できる人に、時期が来るまで
保管しといてくれって預けてある」

てっきり、おばちゃんかおっちゃんか
と思うたんやけど、2人共預かって
へんと言うた

お父ちゃんは、それを託した相手が
時期が来たらオマエの前に現れる
とだけ言うた

親友の翠が晃くんと付き合い始め
たって報告を受けた時、不意にこの
日記の事、思い出したんよ

その時、行方を捜した私にお父ちゃん
が言ったんや

時が来るのはもうすぐや、もう少しだけ
大人しく待ってたらええ、って

お父ちゃんの予言は正しかった

1ヶ月後、私はその時を迎えたんや

お母ちゃんの遺した最期の日記は、
思いもかけない人から手渡された

お母ちゃんが眠るお墓の前で

「オレはもう、何遍も、読んだ
全部、頭に入っとる
オマエもちゃんと読んで、これからは
オマエが大事に保管したらええ」

お父ちゃんが託した相手は、私の
旦那さんになる人やった

幼いその人に、何故そんな大事な
物を託したのか、とか
その総てを知ったのは少し後の事

そんな事も何も知らず、この時の私は
あの歌を口ずさんでいた

まだ何も知らない私と平次は、
相変わらず喧嘩したり、仲直りしたり
いつもの日常生活を過ごしていた

その翌月に、天地がひっくりかえる程
状況が刻々と変化する事など知らずに

1ヶ月後、私と平次の運命の輪は突然
それはもう、もの凄いスピードで回り
始めた

私達の幼なじみの関係が、大きく揺らぐ
騒動が続いたのだ

この時はまだ、私も平次もそんな事を
欠片も予想してへんかったんや