■scene:02_side Heiji

imaging from  SISTER/backnumber

雨の季節が巡って来た
鬱陶しい雨の中、今日は和葉と
は別行動やった

オレと和葉も、さすがにいつも
一緒と言うわけでは無い

今日は、和葉の合気道部に先輩
が来て、特別稽古が行われる為
いつもは、剣道部メンバーとの
んきに会話する合気道部の面々
も、どこか緊張感が隠せない

オレは、たまには付き合え、と
ツレ達に連れて行かれ、遊びに
出ていたんやけど、雨が降り出
して、ふと和葉が傘を持ってな
かった事を思い出し、学校に戻
った

合気道部の3年と、卒業生達が
どやどやと、格技場をあとにする
のとすれ違う

「遠山だけやな、最後まで立って
られたん」

「でも、まだまだや
ツメが甘いから、優勝逃すんや」

「意外と、本番に弱いんやで」

「甘やかすなや」

和葉を餌に、散々面白おかしく話
をする奴らに、殺意を覚えた

和葉の事、何も知らんくせに

あいつが、優勝決定戦で負けるの
は、事実やねん
それも、紙一重で負けるん

小さな頃から強かった
優勝も何度もしとる
でも、中学最後の試合を最後に、
優勝からは遠ざかってん

実力は折り紙付き

同じ武道を嗜む者として、和葉が
どれだけ苦しいか、オレは誰より
理解しとる

本人が、誰より口惜しいし、苦し
いんや
届きそうで、届かない
あと一本、が1番しんどいんや

合気道部の面々が、続々と控え室
から出て来るが、和葉は出て来な
かった

格技場を覗いてみた

誰もいない道場で、ひとり瞑目し
型を丁寧に復習して行く

道着姿の和葉は、凛々しくて普段
とは雰囲気が違う
鋭い目線、佇まい、所作、どれを
とっても完璧に近い

タイマーの音がして、もう一度、
瞑目すると、一礼して、ひとりで
道場の掃除を始めた

誰もいなくても、手を抜かない

和葉はそういうオンナ

可愛ええ、言われて容姿ばかりが
評価されがちやけど、和葉の価値
は中身や中身

頑固やし、クソ真面目やし
正義感の強さはオレ以上
優しいし、明るいけど、自分には
異常に厳しい

喜怒哀楽もハッキリしているし
煩いなぁ、思う時もあるけど
あの声と、あの笑顔が見えないと
知らない間に捜している自分が
いる

黙々と丁寧に掃除して、最後に
一礼して、しばらく佇んでいた
和葉を、じっと見ていた

はらはらと溢れ落ちる涙は
キレイやった

声も上げず、じっと格技場の
空気を読むかのように、瞳は
動かなかった

ホッと一息吐くと、ぐいっと
涙を拭い、格技場の戸締りを
して、更衣室に消えた

オレは、外で本を読みながら
和葉が出て来るのを待った

負けないで
君が瞬きで隠した痛みをその
想いを
ああ  僕は知っているから

ツレに教えてもらったあの曲が
流れてきた

和葉のWalkman に、こっそりと
後で増やして置こう

頑張れ、和葉
オマエは大丈夫や
必ず、越えて行けるはずやから

更衣室から出て来た和葉は、あ
れ、と驚いた顔をした後、嬉し
そうに笑った

泣いた事なと、微塵も滲ませず

オレも、今来たふり

からかいながら、2人で雨が上が
った空の下、元気良う歩いてゆく

泣かないで
君が費やしたすべてが意味を持つ
その時まで
あの雲の先できっと  きっと

「今日だけ、特別やで?」

「え?」

帰り道、コンビニでプリンを買う

「え?ええのん?おおきに」

嬉しそうに、向日葵のような笑顔を
見せてくれた

オカンから、和葉を連れて帰って
来てや、と電話
隣に居るで?と言うと、満足そう
な声が返って来た

「さぁ、帰るで~!」

和葉の手を取って、走り出す
しっかり手を繋いで

プリンが崩れる!と言いながら
必死に付いて来る足音

それでも、負けへんとくらいつ
いて来る辺りが和葉やな

まだまだ一緒に走ってもらわな
アカンから

オレも、和葉に負けへん
もっと精進して、隣に居っても
相応しい人で在れるよう

頑張らなアカンのは、オレやな
そう思うた

けらけら笑いながらついて来た
和葉を見ながら、繋いだ手に力
が入った