■scene:01_side Heiji

imaging from  sign/JUJU

府警のヘルプに飛び出す時、和葉が
ちゃんと言うてた

誕生日、忘れんといてや、と

ちゃんとそれまでには戻る

そう思うてたんに、たまたま関わっ
た事件がアカンかった
工藤の元に来た、捜査依頼の事件と
繋がってしもうたんや

気付けば、オレは東京まで出張り、
工藤の代理人として、依頼人に会う
ハメになった

当然、事件は一気に複雑化

オレは夢中で事件を追いかけて
日付の事なん、さっぱり忘れてしも
うたんや

一度だけ、途中で和葉が何か言うて
来たんやけど、丁度大事な連絡があ
ったので、用件を姉ちゃんに聞いと
いてや、と頼み、電話はロクに返事
もせんと切ってしまった

事件後、帰る前に立ち寄った姉ちゃ
んの家で、オレはあわや殺されると
ころやった

「今日、何日?」

殺気を抑える事なく仁王立ちの姉ち
ゃんに、オレより先に、隣で怯える
工藤いやコナンが答えた

あ?

しまった、と思った

今年はオレ、和葉への気持ちも気付
いてしもうた事やし、家族と祝うより、
日頃の詫びも兼ねて、2人でその、
あの、で、デートっぽい事でもしようと
和葉が行きたがっていた海遊館へ、
和葉の誕生日に誘うてたんやった

もう3日前に、約束した日は過ぎ、
和葉の誕生日もとっくに終わっとる
今日はもう、オレの誕生日や

慌てて、携帯の履歴を確認するも、
和葉からはあの一回だけ、電話も
メールも何も無い

どうしたらええかもわからんまま、
オレは慌てて新幹線に飛び乗り、
バイクを回収して、自宅へ帰った

オカンから、遅うなるから和葉と先
夕飯食べるようにとメールがあった
からや

今日はもう数時間は和葉の説教や、
覚悟して帰ったオレは、慌てた

居ないんや、どこにも
携帯は電源が落ちたまんま、居間の
テーブルの上

こら、オレがいくら電話やメールして
も無反応やったはずや

自分の携帯を見て、ギョッとした
オカンから、和葉と連絡が取れんと
鬼のように着信とメール
ついには親父からもや

慌ててオレは家を飛び出し、近所や
心当たりを捜し歩いた
散々走り回り、走っている和葉を漸
く見つけた

あいつ、何をあんな気張った格好し
とんのや?
見慣れない服装やった

呼びかけても聴こえへんのか、凄い
スピードで走る和葉を全力で追いか
け、オレは捕まえた

めっちゃ気合の入った可愛ええ服
他の男とデートしとったんやろか
いや、こらナンパされまくりやったろ
と思い、めちゃくちゃ、腹が立った

連絡もせんとフラフラしとった和葉
に怒ったら、逆ギレ(いや、この場合
逆ギレはオレの方やな)されたんで
暴れる和葉を担ぎ上げて家へ帰った

コイツは何も判ってへん

自分が、周囲の男にどう見られとん
のかも
オレが、どんだけ平静を装うために
努力、しとんのかも

キレたオレは、和葉を押し倒して泣
かせてしもうた

男と女の違いを教えるためやったと
はいえ、半分は和葉の返答次第では
そのまま流れに任せる気でいたオレ

和葉の、涙を見るまでは

掴んだ腕の細さに、簡単に抑え込め
た細い身体に、自分と和葉の差を
教えるハズの自分が教えられる

こんなん絶対、アカン

泣き出した和葉を抱えて起き上がり
泣きじゃくる身体を抱きしめた

オレやって心配するやろ、こんなん
他の男にやって、されたら嫌やろ
せやから気を付けろ、オレもゴメン、
と謝りながら

その夜、親父と縁側でいちゃこら
話してた和葉が寝てしまい、居間に
放り出されたままの鞄と携帯を
回収したオカンが、アレ、と言う

「アンタ、今日、和葉ちゃんと
出掛けてたん?」

「え?」

鞄から飛び出したパンフレット
それを見て、オレは凍りついた

海遊館にプラネタリウム、植物園

全部、オレが連れて行くと約束し
て、二度と行けてへんとこばかり

さっき、和葉は今日ひとりでずっと
ふらふらしとったと言っていた

ここ全部を、ひとりで辿ったのか?
あんなに気合の入った格好で

今日は世間は休日やった

人通りも多かったはずやし、どこも
普段から人気のある場所やで?

「アンタ、まさか、和葉ちゃん事、
今日も放してひとりにしとったん
ちゃう?」

オカンの鋭い目線よりも
ひとりきりであんな場所歩かせた
事の方が、よっぽど心に刺さる

何て事したんや、オレ
何やってんねん

まだ、おめでとうのひとつも言う
てへんやん

和葉からは、ちゃんとプレゼント
までもろうて
姉ちゃん越しの伝言やったけど
おめでとう言われて
オカンにも感謝しろと説教まで
されて

情けなくて脱力する

和葉の事疑って、勝手な嫉妬心を
力任せにぶつけて、そんなんする
前に、言わなアカン事だらけやんか

和葉の荷物にあったWalkmanが
微かな音を立てていた
ロックしてへんかったみたいで
オレとオカンが開いてもうた荷物
片付けた時に、作動してしもうた
様子

ふたり重ねた 想い出の場所を
ひとつ、ひとつ…と 辿りながら

静かに、力強く流れるメロディ

和葉が好きで、よう聴いて歌う
歌手の曲や

なんとなく、そのまま和葉の
プレイリストを聴いていた

どうやって穴埋めしてやったら
ええかわからん
めちゃくちゃ淋しい思いをさせ
た事だけはわかった

まさか、親父達まで不在やった
とは思わんかったんや

いや、違う

そんなことすら思い出せないで
事件を追っていたんや

せめて、誕生日プレゼントの
お礼だけでも伝えようと、一言
だけメールした

和葉のプレイリストを聴きながら
オレは眠りについた

和葉には、何を贈ればいいのか
考えていた

誕生日、おめでとう、和葉
一緒に祝えないで、ゴメン
淋しい思いさせて、スマン

詫びの代わりに、翌日は放課後
和葉をバイクに乗せて、街を走
り抜けた

途中、立ち寄った店で、和葉が
可愛ええと言うたストラップを
揃いで買って、和葉に付けて
もらう

「普段はお揃い、嫌がるのに」

嬉しそうに笑う顔を見て、ほっ
とする
そう、オマエはそうやって、
笑って居ればええ

あなたから 愛されてた sign 探し
たいから

ここから歩いてゆく

不意に、昨夜聴いていた曲が耳に
響いた

いつか、オレの気持ちが伝わると
ええな

オレなりに、ちゃんと送っている
sign も、いつかちゃんと、伝わる
と、気が付いて貰えるように

今年は頑張ってみようと思う

隣で一生懸命話をしながら
くるくる変わる表情を浮かべて
いる和葉を見ていた

17歳の春はもうすぐ終わり
夏が静かに近づいて来る足音が
聞こえて来そうやった