■scene:00_side Heiji

imagining from 春雪/JUJU


今にして思えば、この春はこの歌を
よう耳にした
和葉が好んで聴いてたん

すれ違う季節が 二人の距離を変えて
いく

それまで、絶対に変わらないと信じ
て疑わなかったはずやのに

ゆっくりと、確実に変わり始めた
自分と和葉の関係、二人の繋がり

幼なじみと言う言葉や、その言葉に
思う気持ちが、どうしようもなく終
わりにむかい、変わり始めたのを
オレは実感していた

和葉が、ゆっくりと色づき始めた
からや

時々、見たことの無い憂いを帯びた
表情を浮かべたり、艶やかな笑顔を
見せるようになった

可愛ええ、と言われるのが、綺麗や
に変わり始めた

幼なじみとしてのオレでは、オレが
満足出来んようになって来たんや

男としてのオレも、見て欲しいと、
願うようになってしまった

終わりと始まりが揺れる

まさしく、自分がそうやった

居心地が良すぎる幼なじみの関係を
越えて、恋人同士、いや、もうそれ
以上先の関係を始めたい、そう願う
自分が居た

そのことに、気が付いてしまった

初恋の想い出は、ひとつでは無い

確かに、二度と出会えなかったあの
京都での出来事は、自分の心に大き
な足跡を残した

でも、そんなんよりずっと前から
それこそ、自我を認識するずっと前
から、和葉はオレの中に在った

誰よりも身近で
誰よりも深く

絶対的に変わらない、不可侵領域の
中で、ずっと輝きを放ち続けている

その想いを、的確に表現する術を
オレはまだ知らん

思いがけず、巻き込まれた事件の過
程で、オレはあの女の子が和葉やと
知ることになった

ホッとした
あぁ、もうこれはやっぱり間違い無
いと確信した

ずっと1番身近に居たからとか関係
無いねん
オレの女はコイツや、と

想い出の桜の木の下に、和葉を立た
せてみたいと思うた

半ば強引に連れて来て、桜の木の下
に立たせて、あぁ、やっぱりと
アレは、化粧しとったけど和葉やと
確信する

ようやく、逢えたっちゅうわけか

和葉に気付かれんように、桜の花弁
に紛れる和葉を撮った

空を見上げている表情は、最近時折
見せる大人の憂い顔

風に巻き上げられて飛び散る花弁に
和葉が攫われるような気がして
思わず抱きとめた

抱き締めようと無意識に動いた腕を
必死に堪えて、しっぽに気付かれん
ように掠めるようにキスをした

きっと真っ赤になっている自分の顔
を見せないようにメットを被り、
愛車に股がり、和葉が後ろに乗るの
を待った

「行くで」

いつものように身体に巻きつく腕を
感じ、結ばれた掌を一度ぎゅっと握
るのが出発の合図

いつものように握り、指先で和葉の
左手の大事な指先を撫ぜた

まだ、今のオレには、この指に誓う
資格は無い

それでも、と思う

この指に誓うのは、オレやと
他の誰にも許さん、と

和葉にいつもより近くでくっついて
欲しくて、普段よりスピードを上げ
走り抜ける

ちゃんと掴まっとけ、と合図する
何度も

ホンマはこのまま連れ去って
2人だけの部屋に籠りたい
誰にも邪魔されない、2人だけの部屋

でも、まだオレにはその資格が無い

早う、約束を果たさんと
早う、力を付けんとアカン

寒いのか、普段よりスピードが出と
んのが怖いんか、和葉の身体が震え
とんのに気が付いた

寒いんか、と合図を送ると、大丈夫
と返事があった

ほな、あと少しやからちゃんと掴ま
っとけって合図して、オレはさらに
スピードを上げた

怖いんか、いつもよりくっついてい
る和葉に、そのままずっとそうしと
け、と思う

どこにも行くな、側に居れと

連れ帰った和葉は、かなり疲れた様子
攫われたり、色々あったから、仕方が
無いわな

みんなで夕飯食べとる途中で眠りはじ
めてしもうた

「しゃーないなぁ」

ため息吐いて、面倒なフリ
でも内心はガッツポーズで、和葉を抱
き上げて、部屋へ運ぶ

オレの部屋の隣は、和葉専用の客間
ベッドに寝かせて、布団もしっかり
かけてやる

乱れた髪を、指先で軽く梳いでやり
柔らかな頬と唇に、掠めるように軽
くキスをした

もう内緒で何度したかわからんけど

今日は、髪や頬を撫でてやるうちに
不意に微かに開いた唇に、思わず喰
らい付いてしまった

舌を絡め取ろうと、深く繋ぐ唇
呼吸しようと開く唇をさらに深く奪っ
てしまった

初めての経験
もうほとんど条件反射やった

舌と唇で、柔らかな和葉の唇を舐め取
って、指先でそっと撫でた

気が付いてくれんかな
これ以上をオレが求めてしまう前に

勝手にファーストキスを奪ったのは
中学入って最初のチョコレートが
飛び交う日の事

あれから時々、抱き上げて運んだ時や
ら何かに、掠めとるようになった

突放して置きながら、知らんとこで
こんなんしてしまう自分が嫌いやった
自己嫌悪に陥ると判っているのに

でも、もう止められんかった

無邪気に纏わりついて来るのを
面倒くさそうにしながらも、もっと
来いや、もっと近くに、と思う自分に

まだ今は、気が付いて欲しくない

でも、走り出してしもうた気持ちは
止められんやろうな、とも思う

言葉に出来ん思いだけ、どんどん
強く、深く刻まれて行く

この時、オレはまだ気が付いて
へんかった

バイクの後ろで震えていた和葉が
何を想い、震えていたんか
何を誤解しとったんか

アホなオレは、自分の気持ちを
抑えるのに必死で、和葉の変化に
気が付く余裕も無かったんや

風に揺れる桜の花弁のように、オレも
和葉も揺れるようやった