★2015年 遠山の日に寄せて

和葉が帰国してくれて、誕生祝いに
めちゃくちゃ嬉しい言葉をもらえて
オレはとても幸せで、充実した日々
を過ごしていた

お互い忙しくて、一瞬だけ顔を見る
だけのことも多いんやけど、和葉の
存在を感じることが出来る家の中で
ほっとすることが出来る

和葉から、子供が欲しい、と言われ
産みたい、と言われたんや

自分もそろそろ、と思う同じタイミ
ングで、同じように思ってくれた事
が何より嬉しくて、浮かれてしまっ
たオレやった

一緒に側に居てくれるだけでも嬉し
かったんに、オマケまで貰ったみた
いで

「和葉?オレや、今から出掛けへん
か?」

仕事帰り、晃と別れてから電話をか
けた

今日、和葉は代休でお休みやった
現在、何本か論文執筆中で、休みの
日もよう書斎にこもりっきりみたい
やねん

和葉に待ち合わせ場所を伝えて、
府警を出ようとすると、交通課の
いつもの面々に捕まった

「今日はもう終わりなんですか?」
「今日、みんなで飲み会なんです
服部さんも、来て下さいよ」

身体に触れようとするやつを交わす

「悪いな、今日はオレ和葉とデート
やねん、お先に!」

ブーブー文句を言われたけど、無視
して手を振って府警を出た

悪い奴らでは無いんやけど、学生の
頃の女達と同じで、オレや晃に何や
かやまとわりつくけど、別にオレら
が好きな訳ちゃうねん

現に、いつも触ってくる女など、し
っかり彼氏が居るんや
晃が何度か目撃しとるくらいやし

和葉に甘えられるのは別にええし、
むしろ、もっと触れて欲しいねんけ
ど、未だに他の女にペタペタされる
のは苦手

車を走らせて、和葉と待ち合わせを
した場所まで急いだ

ショッピングモールを和葉と並んで
歩きながら、ふらりと立ち寄った店
に飾られていたシャツワンピが目に
とまった

「和葉、あれ、この間の白いジャケ
ットに合うんちゃうか?」

ピンストライプの爽やかなワンピで
ウエストの細いベルトがマークにな
り、ふんわりとスカートが広がる

「あ、可愛ええね」

試着させると、予想通り、よう似合
うとった

誕生日も何もしてへんかったから、
買うてやると、ええの?と言いなが
らめっちゃ嬉しそうに笑った

お礼にネクタイとシャツ、買うてあ
げるな、とニコニコしながら選ぶ姿
に、相変わらずやなぁ、と思う

「可愛ええ彼女さんですね」

店員にそう言われて、少し恥ずかし
いけれど

「オマエ何食いたい?」

「ん?せやねぇ、アンタが仕事中は
食べられんのがええんちゃうかな」

「何やそれ」

和葉は、普段オレが中々立ち寄った
り出来んところがええねと言うのだ

結局、和葉と行ったのは、学生時代
からよう通ったお好み焼きの店

「嫌ぁ、和葉ちゃん!お久しぶり
キレイになったなぁ!」

お店のおばちゃんは、和葉に喜び
おっちゃんまで、デレデレや

「平ちゃんも、大きくなったなぁ」

そんなん言われながら、懐かしい
馴染みの味を楽しんだ

「気張ったとこより、平次や友達
と一緒に食べた味の方が落ち着く
んよね」

ふうふう言いながら、美味しそうに
頬張る和葉に、ふっとセーラー服姿
の頃の姿が重なる

変わらないようで、少しずつ変わる
その姿に、くすぐったい気持ちにな
った

お腹一杯食べて、2人でふらふらと
腹ごなしに街を歩いた
手を繋ぎ、指を絡めて散歩をする

たまにはこんな穏やかな夜があって
もええと思った

翌日は2人ともお休み

ゆっくりと、2人でいちゃこらして
翌朝はいつもより少し遅く起きて、
ゴロゴロしながら微睡んだ

一緒に家事をして、和葉が論文執筆
しとる間に、オレは隣の机で事件の
データ整理

疲れたら後ろのソファで休んで、ま
た机に向かう

学生の頃を思い出すような休日を
満喫した

「ほな、行ってくるな」

「行ってらっしゃい、気をつけてな」

笑顔で見送る和葉にキスをして、
オレは職場に戻る

忙しなくても、満たされた時間を過
ごし、オレはまた、戦場へと足を踏
み入れた

胸ポケットにある御守りは、ついに
修繕不能になって、和葉が新たに作
ってくれたもの

和葉に壊れた御守りを託した時に
抜いておいた大事な写真を戻す
もちろん、誕生日に和葉から貰った
あの手紙の走り書きも

御守りを握り、オレは現場へと飛び
出して行った