★2015年 遠山の日に寄せて

毎年、正月になるとなんだかんだで
服部邸に大集合していた私達も、
仕事柄、中々全員が顔を揃えるのは
難しくなっていた

ところが、今夏は上手いこと予定が
かみ合って、黒羽夫妻を招くタイミ
ングで、全員揃えたんや

久しぶりの再会に、ワクワクした
それは、みんなも同じだった様子

おばちゃんが、浴衣の用意をしてく
れて、みんなで浴衣を着て、庭で
花火もした

府警メンバーも参加して、スイカ割
りもしたし、みんなで客間で雑魚寝
もした

器用な黒羽くんのおかげで、かなり
本格的な流しそうめんも楽しんだ

学生の時に戻ったみたいにみんなで
思いっきりはしゃいだ

底抜けに楽しくて、時間を忘れそう
なくらいやった

1泊2日が限界やったけど、それでも
充実した再会だった

蘭ちゃんと工藤くんは、神戸に立ち
寄ってから、東京へ向かい、そのま
ま米国へ帰るらしい

平次と晃くん、翠は、仕事に飛んで
行った

黒羽夫妻は、ずっと出来なかった
新婚旅行のため、車で、日本を旅す
るんだと、仲良く出発した

おばちゃんも、用事で地方回りに出
かけたので、私はひとりで仕事と
服部邸の留守番の二役をすること
になった

仕事の間は、へいたを預かってもら
って、仕事帰りにへいたを受け取り、
一緒に帰る毎日

おばちゃんも、誰もいない服部邸は
広過ぎて淋しい

へいたと2人、リビングのソファー
でゴロゴロしたり、縁側で微睡んだ
りすると、不思議と心が落ち着く

「へいたはええ子やな」

撫でてやると、もっと撫でろとお腹
を出すんやけどね

へいたとゆっくりしていたら、玄関
から呼び鈴がした
宅配便らしい

受け取りのハンコを押そうとした時
私は嫌な予感がした

チッと舌打ちした宅配員が、何かを
出そうとしたので、とっさに顔を覆
い、防御して、蹴り出して距離をと
った

へいたが吠え、相手に噛み付く

噛み付いたへいたに、犯人が向いた
瞬間、私は近くにあった傘を相手に
振り下ろした

「このやろう」

小さな苛立つ声に、強烈な殺気を感
じた私

盛んに吠えて威嚇するへいたに、私
も叫び声を上げた

投げようと掴んだ身体を、反対に掴
まれ、体勢が崩れるけれど、踏ん張
り堪えた

騒がしい音がして、漸く助けが来た
犯人が取り押えられる

「大丈夫ですか?」

「はい」

慌ててへいたを捉えて、抱き寄せた
ケガをしてないことを確認して抱き
しめた

「ケガしてるじゃないですか」

「え?」

近所のおばちゃんが飛んで来て、私
に盛んに大丈夫かと聞く

「へいたはうちで見てるから、早う
行きなさい、和葉ちゃん!」

ようわからん間に、私は駆けつけた
救急車に押し込められた

段々と遠ざかって行く意識に、私が
思ったのは、鍵をかけて来られんか
ったこと

「気がつかれました?」

私は処置室で目が覚めた

片腕を固定されていた

「出血の割に傷は浅かったので、数
針縫っただけで、傷は残りません
安心して」

以前、大きなケガしたのね、と言っ
た女医さん
肩をまた強打しているみたいだから
しばらくは安静にしてね、と言う

「これ、私の私物だけど、貸してあ
げるわ」

ブランケットを身体に巻いてくれた
私の服が、少し、破れていたのだ

「すいません、確かに、これで帰っ
たら、何事かと思われちゃいますね
後でお返しに来ます」

診察室を出ようとして、脚に激痛を
覚えた

「大丈夫?脚も固定しておいたんだ
けど」

「大丈夫や、ちょっと一瞬痛みが走
っただけみたいやし」

家族が見えるから、まだ休んでいて
いいわよ、と言われるのと、凄い
勢いで人が飛び込んで来たのが同時
やった

「和葉、大丈夫か!」

「おっちゃん??」

大丈夫やで、と言うと、腰を抜かし
たのかと思うほど、側に座りこんだ

すまん、平次と遠山は今近県に居な
いから、これから戻るさかい、と言
うので、首を振った

「おっちゃん、ええよ、2人の仕事
邪魔したらアカンよ」

大丈夫やから、と言うと、おっちゃ
んは、事件は終わっとるから、気に
せんでええ、と言う

おっちゃんに付き添われ、と言うか
子供みたいに抱っこされて、家に入
った私

「ごめんな、おっちゃん」

「ん?ええって」

ソファーの上に座らせてもらう

おっちゃんは、私に冷茶を出すと、
鳴り止まない電話に出た

冷茶を飲んで、ほっとした
着替えなアカンけど、どないしよう
と思うでたら、玄関からどかどかと
物凄い音がした

「「和葉!」」「和葉ちゃん!」

「ふぇ」

みんなが一斉に帰って来て、どやど
やと、取り囲まれた

あぁ、良かった、と言うたみんな
やけど、私の手を握る平次は微かに
震えていた

近所のおばちゃんが、へいたを連れ
て来てくれた
おばちゃんがお礼を言うて、へいた
が部屋に来る

「へいた、ありがとね」

撫でてあげると、満足そうな顔

今日は泊まって行きなさい、と言う
ので、平次が私を抱えて、部屋まで
運んでくれた

パジャマ代わりの浴衣を着よう、と
とってもらった

あ、と思った時は遅かった
包まっていたブランケットが肌蹴て
破れた服が見えてしまう

「ホンマに、他はどこもケガして
へんのやな」

「うん、へいたが頑張ってアシスト
してくれたし、すぐにみんな来てく
れたんよ」

わかった、もうええ、と言うと、私
の服を脱がせ、浴衣を着せてくれた

ぎゅっと抱きしめてキスをして、背
を慰めるみたいにさすってくれた 

漸く安堵したら、ぶわっと涙が出た
ほとんど何も話さないけど、心配さ
せたんは、触れる掌でわかる 

大丈夫な方の手で、平次の手をぎゅ
って握った

ぴったりくっついて、わんわん泣い
て、私は眠ってしまったみたい

翌朝、お薬飲む?と様子を見に来て
くれたおばちゃんに、声をかけられ
るまで、ぐっすり寝ていた

平次は明け方、事件で呼び出があっ
て、出て行ったらしい

私が取り押えた犯人は、なんと、お
っちゃんに逆恨みで、ホンマはおば
ちゃん狙いやったん

私が出て来て、びっくりしたらしい

良かった、おばちゃんに何も無くて
良かった、犯人が捕まって

おばちゃんと一緒に、お医者さんに
ブランケットを返しながら、お礼を
しに行った

「うん、大丈夫そうね」

傷跡を確認した先生は、笑ってそう
言ってくれた

おばちゃんと一緒に、今日は我が家
に行くことにした

おっちゃんから、しばらく静を預か
ってくれ、と言われたんや
へいたも一緒

へいたは、嬉しそうにベランダに
飛んで行った
おもちゃと戯れ、走り回る

おばちゃんとお茶を飲みながら
ゆっくり休んだ
 
「和葉ちゃん、何でお薬、飲まん
かったん?痛かったでしょうに」

「あ、あぁ、前にケガした時にね
合わんかったの」

そう、前にケガした時に合わなくて
熱を出したり、色々大変だったのだ

「そうやったの」

あの時は、平次が全部してくれたか
らなぁ、と、おばちゃんは柔らかく
笑った

おばちゃんが言わんとすることは
何となくわかったんやけど

まだ、確信があるわけではないから
ぬかよろこびさせる訳にはいかない

まだ言えへんけど、万が一を考えて
薬は飲まんかったんよ

その夜、平次やおっちゃん、お父ち
ゃんまでが集まり、みんなでごはん
を食べた

平次だけを残し、おっちゃん達は戻
って行った

平次は、へいたを膝に抱っこして、
ぐりぐり撫で回している

「和葉を護ってくれたんや、ちびや
けど、立派な番犬や」

「そうやねん、近所の人も、普段
吠えんへいたが鳴いたから、慌てて
飛び出した、言うてたわ」

「ホンマにええタイミングで、噛み
ついたんよ?かっこ良かったで?」

平次にぐりぐり撫で回されて、嬉し
そうに笑っているような表情

みんなでへいたを褒めて、甘やかし
てあげる
気持ちええのか、撫でられとる間に
眠ってしまった

へいたの寝床に平次が寝かせてやる

「後で、へいたにおもちゃ新しいの
買ってあげてや」

「せやな、それくらいはしてやらん
となぁ」

「せやったら、ケガ治ったらへいた
連れて、ドッグラン行こうや」

「お、ええなぁ」

おばちゃんと3人、わんこを連れて
遊びに行ける場所の話で盛り上がり
その夜は、楽しい夜になった