▪️28:00 still love her / side Heiji 

3月の終わり、家に帰ると和葉が何や
そわそわしとった

「どないしたん」

「あ、平次」

珍しく、自分から飛びついて来た

ただいまのキスをして、ハグをする
何や、緊張しとんのか?

「あんな、哀ちゃん、陣痛始まったん
やって」

「え、ホンマか!」

「でもなぁ、時間かかりそうやねんて」

「そら灰原の姉ちゃんしんどいな」

「うん」

落ち着かないのは黒羽家も一緒の
様子で、黒羽は強行軍でアパート
に帰って来た

4人揃っても何もしてやれる事は
無いんやけど、せめて、無事を祈る
だけやった

生まれたら、すぐに知らせてくれる
と言うので、黒羽家の2人は、うちに
泊めて、みんなで飯食ったり、お茶
したり、ゲームしたり、と、そわそわ
と落ち着かないまま夜を越えた

4月の一番最初の日
とうとう結季が誕生した
それも、服部邸の中で、や

親父も府警からふっとんで帰った
らしく、和葉の親父も、出先から
駆け付けたらしい

オカンがおくるみにくるまれた結季
と対面させてくれた時、和葉と青子
嬢は泣き出した

でも、結季は必死で瞳をあけよう
と頑張っていて、口元は少し笑っ
とるようやった

黒羽達とみんなで、おめでとう、
万歳、と言い、長時間の陣痛に
耐え抜いた灰原の姉ちゃんを
労った

口惜しいのは、親父と、和葉の
親父も結季を抱っこして見せて
来た事や

黒羽なんぞ、今すぐ日本ツアーを
提案して、帰国しようかな、とか
言い出すし、大変な騒ぎやった

みんなで、遠い異国の空の下
新しく生み落とされた命を祝った

あの灰原の姉ちゃんが、ついに母に
なったのだ

母子共に健康だと聞かされて、とて
も安堵して、ほっとしたオレ達は、
そのままみんな一緒に眠ってしまっ
たようだ

翌日、和葉の親父の見事な筆で
結季と書かれた命名の書が、小さな
手足のスタンプと共に記された画像
と、瞳を開いて何かを見とる結季の
写真と共に送られて来た

亡くなった彼女の姉に似てる気がし
たのは、オレだけではなかった

ホンマに良かった、とまた写真を見
てポロポロ泣き出した和葉が、ぽつ
りと零した

「明美さんが守った命は、ちゃんと
次のバトンに渡ったで」

よう似てる、と言うてそっと笑った
横顔は、神々しいくらい美しかった

あぁ、大人になったな、和葉も

立ち止まることなく、どんどん美し
く凛とした華を咲かせ始めている

オレ達の命のバトンも、いつの日か
次へと渡せるのだろうか

オレも、和葉の隣に在る資格を失う
ことなく歩いて行けるように、いま
から、ここから、険しい道を歩き始
めなければならない

真新しい、ピカピカの命に1番近い
場所に居る結季のような子を、いつ
の日か授かれたら、と強く思った

自分の総てを賭けて、やり遂げてみ
せる、親父達を必ず越える、越えて
みせる

和葉を賭けた闘いに、一度も負けた
事はない
その記録も、命ある限り、命尽きよう
とも、更新してみせる

言葉にはしない
オレ自身に、自分の魂に刻む
必ず、と

ふわふわと、泣いたり笑ったりする
和葉を抱き寄せて、唇を重ねた

必ず護ってみせるから、離れる時が
来たとしても、諦めずに頑張れ、と
願いを込めて