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「和葉さん居る~?」

呼び鈴より早く響きわたる声

「黒羽くん、おかえりなさい」

部屋に転がり込むのは、今では欧州
一チケットが取れないマジシャンだ

ま、部屋着のスウェット上下に濡れ
た髪のボサボサ頭やけどな

黒羽くんのスケジュールは、青子ち
ゃんから預かっとるので、把握済み
今日明日は貴重なオフだ

平次はあと少しで帰って来る
腹ペコ黒羽くん用に、ちゃんとつま
めるものは用意してある

お茶と一緒に差し出すと、わんこ並
みの勢いで食べる

「ん~、やっぱり美味い!」

たこ焼きで、そんなん喜んでくれるん
やなぁ

厳しい青子ちゃんから、食べさせて
OKな量と好物は教えてもらってるか
ら、きっちりそこは守る私

今日は、平次のリクエストで、我が
家はシチューの予定だった

黒羽くんはとにかく食べるので、と
ても足りないやろ、と思い、サラダ
も少しボリュームのあるサラダに変
えて、パンを止めてごはんを炊いた

蘭ちゃんにおそわったオムレツに、
青子ちゃんのアドバイスを加えた
スペイン風の野菜たっぷり混ぜこん
だオムレツも作ってみた

食後のコーヒーに合わせてゼリー
も仕込んである

平次は甘いもの好きやないけど、黒
羽くんは大好きやからね
ちゃんと平次分は甘さ控え目に調整
してある

「おかえりー」

「おぅ、ただいま」

ちゅっとキスされて、私は固まる
案の定、後ろから口笛

「なんや、もう来とったんか」

「腹減った」

「着替えてくるから、もうちょっと
待てや」

な、なんで、この2人、ちゅーは、
華麗にスルー??

「和葉さん、お腹すいたー!」

早くごはんくれないと、襲うよ?

と言う黒羽くんが、私の前に来るよ
りも早く、平次が抱き上げて、私を
キッチン側にしまった

「オマエ、餌やらんぞ!
和葉に手を出したらマジで殺す」

「こえー」

「青子ちゃんに言うよ」

「餌くれたらおとなしくなります」

用意した料理は、鍋ごと空っぽにな
ってしまった
食後のコーヒーも、ゼリーも好評で
よかった

「片付けはやるから、座って」

黒羽くんは手際よく片付けをしてく
れて、平次もちゃっちゃと片付ける

リビングで、3人で青子ちゃんと
Skypeして、そのまま、一緒にWEB
をチェックした

ベビーカーとチャイルドシート選び

どちらも、一つをシェアしようって
話やねん

「あとさ、沐浴用のベビーバスか
ビニールプール、買わね?」

「おもちゃは買わんといてね?
青子ちゃんと、色々作る約束やから」

「どんなん作るんや?」

「こんなんや、可愛ええやろ?
青子ちゃんが、少しデザイン変える
言うてたし」

「さっすが、青子」

「ホンマやな、旦那がこんなすちゃ
らか手品師や、言うんに」

「平次!」

「ゆんちゃん、ここに来る時は何カ
月くらい?」

「予定日が4月やろ?7月に迎えに行
くから、3ヶ月くらいか?」

「首が座るかどうか、くらいか
ガラガラとか、メリーは遊べそう
だなぁ」

「せや、だから、タオル生地でな、
作る予定やねん」

「夏やから、あせもとか出来てまう
かもなぁ」

「そうだね、お肌が荒れる時期だ
ちゃんと、ベビー用のスキンケアも
用意しとかないと」

「あとさ、みんなで一緒にベビー
マッサージ、勉強しないとアカン」

「結構、忙しいな、オレらも」

「せやな」

「それに、離乳食も早いと4ヶ月く
らいからだから、勉強しないと」

「そうやねん、もうジェットコース
ター並みの忙しさになるで?」

「なぁ、脱線はええから、結局どれ
にすんねん」

今後、2人目や、誰かの家に子供が
産まれてもええように、男の子や女
の子、どちらでも使えるように、
性別に左右されないデザインを選び
決めた

黒羽家でベビーカーを管理して、
我が家でチャイルドシートを管理
することになった

沐浴用のお風呂や抱っこ紐も、共用
で購入した

平次も黒羽くんも、あーでもない、
こーでもない言いながら、一緒に
ベビー用品をチェックする

「ホンマに色々あんねんな」

「カラフルで可愛いいよな」

「迷ってしまうよなぁ、こんなん
ぎょうさんあったら」

スウィングやら、マグとかもうほと
んど用品は揃っているし、ケア用品
は、同じメーカーのもので揃えた

黒羽くんと平次は、青子ちゃんに頼
まれて、手先の器用な友人の指導の
元、木製の積み木を作っている

角を丸めたり、艶出ししたり、ひと
つひとつの作業に時間がかかるらし
く、仕事しだしたら、作っている時
間もないだろうから、と、黒羽くん
も平次も、自分の家族分まで作って
いるのだ

もちろん、工藤くんの分や、花音く
んの分もな

双子ちゃんの両親も、面白そうだと
製作を始めた

「なんかさ、ゆんちゃんのおかげで
今まで知り合いになる機会もなかっ
たようなひととも知り合いになれて
オレ、マジックの新しいアイデアも
良く生まれるようになったんだ」

「黒羽もか?オレもや」

「え、私や青子ちゃんもやで?」

「すげーよなぁ、オレ、身近で子供
産まれるの、初めてだ」

「私達だってそうや、なぁ?」

「あぁ、せやな」

「オレ、ちょっとだけ親父達の気持
ち、わかるような気がした」

「あぁ、オレや和葉もな」

「うん」

友達の子供が生まれる
その子の誕生を、みんなで心待ちに
している

どうか、母子ともに、健やかであり
ますように
願うことは、ただひとつだ

「黒羽くん」

「ん?」

「披露宴の時、ご両親、来てたでし
ょう?」

驚いた表情、一瞬ポーカーフェイス
が消えた

「そっか、有希子さんの変装、見破
ったひとだったな」

「な、和葉!オマエなんで言わんか
ったんや!」

「黒羽くんと、青子ちゃんをどうし
ても見たくて、危険を承知で潜入し
た気持ちに免じて、一度だけ目を
瞑ったんや」

きっと、お父ちゃん達も、気がつい
とったはず

「でも、オレも両親が現在、どこに
住んで、何をしてるかは本当に知ら
ないんだ」

手がかりは、全て消えていたと言う
アルバムも何もかも全て

おまけに家は売却され、更地にまで
されてしまった

「あの日、来ていたのは気がついた
たぶん、青子も
でも、何も言葉も交わしてないし、
特にメッセージも無かったよ」

黒羽くんの表情に、少し陰が落ちる

「黒羽」

「ん」

「オマエは死んでも、元の世界に足
を踏み入れたらアカン
青子嬢は、オマエのかみさんになっ
たんや、後ろは振り返るな、前を向
いて歩けばええやろ?」

「あぁ、わかってる
世界一のマジシャンになって、父さ
んを越える、マジシャンとして」

意志の宿る瞳
大丈夫やな、と思う

「オレも工藤も、中森警部も、今度
オマエやオマエの両親が盗みをやっ
た時は、容赦せんからな
青子嬢を傷つけたくなかったら、ど
んな理由があっても、あんな手段は
とってはアカン、ええな?」

「あぁ、約束する
結季にも顔向け出来なくなるような
ことはしない」

「青子ちゃんに約束したんやろ?
まぁ、可愛ええけどしっかりした子
やから、怒らせたら怖いで?」

「そうなんだ、怒るとめちゃくちゃ
怖いんだ、あれで」

「へぇ、黒羽が怖い言うなら、そら
ホンマやな」

「この間なんかさ…」

黒羽くんはまぁ、ペラペラと、青子
ちゃんにされたお仕置きを喋るは
平次は怯えるわ

「あんたら、ええ加減にせんと、私
青子ちゃんに電話するで?」

揃って首をぶんぶん振る2人
わんこが2匹いるみたいやな

さ、リンゴでもむいてあげようかな

私はにっこり笑って、ゆっくりと
キッチンに立った