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オカンが用意したドレスはヤバい

淡い光沢のあるベージュピンクの服
ヌードカラーと言うのか、上品な
ドレスではあったんやけど…

ホンマに艶っぽくなって来た事が
一目で判るドレスやねん

支度を終えた姿を見て、オカンも、
みんなも、ぼーっとしてしまうくら
いやった

「そろそろ似合うやろ、とは思うた
けど、ここまでとはなぁ」

和葉の髪を結い上げ、飾りを付けなが
ら、オカンがそう零したくらいやねん

当の本人は、似合うとると言われて、
上機嫌やけど、周囲にどう言う目で
見られとるか、全く判っとらん

「めっちゃ色っぽいで」

「へ?」

耳元から首筋を指先でなぞると、真
っ赤になってからかうな、と怒る

からかってへんのやけどな

ピンクパールネックレスを付けてやって、項に掠めるようにキスを落した

「もう!平次!ホンマにからかわん
といてや」

「からかってへんのやけど」

「は?」

唖然、とする和葉の頬にも軽くキス

ホンマに誰も居らんかったら、間違
いなく押し倒しとるっちゅーねん

「和葉ちゃん、支度出来た?」

「う、うん」

「あぁ、イヤリングは今日はせんで
ええわ、その方がキレイやで」

「せやな、その方がすっきりや」

指に婚約指輪と結婚指輪がセットで
嵌められて、ピンキーリングは今日
は留守番、となった


コートを着させて、出ようとして
オレは慌てて部屋に戻った

「遅うなったけど、結納返しとクリ
スマスや」

先日、おっちゃんが、オレのところ
に持って来たペアの腕時計

「軍用時計作っとるところのやつや
から、丈夫やで?」

Hamilton の腕時計やった

「和葉はずーっと懐中時計愛用しと
るけど、この先、公の場に出る時用
に、ひとつは持たせてやろ思うてな」

平ちゃんやって、たまには大人っぽ
いの、付けてもええ年頃やろとくれ
たのだ

和葉の手首に真新しい時計を付けて
やると、オレにも付けてくれた

「銀色やし、何や、手錠連想するん
は、私だけやろか」

「それ、最初見た時、オレも思うた
おっちゃんのブラックジョークかっ
て思ったしな」

「ははは、平ちゃん、ええ勘しとる
なぁ、せや、それも入っとるでー」

2人とも、似合っとるやん、とおっ
ちゃんは笑いながら玄関に向かう

玄関に横付けされたバスには、もう
支度を終えた面々が順次乗り込んで
いた

親父達が最後に乗り込んで、朝から
ご機嫌な花音の、

「しゅっぱちゅー」

と言う大声にみんなで笑って、式場
までオレ達は向かった

晴天に恵まれた中、小さな明るい光
が降り注ぐ教会で、黒羽と彼女は誓
いを立てた

ホワイトと淡い水色が交差する
ウェディングドレスは、彼女によう
似合うてて、和葉が撮影した2人の
挙式風景は、神聖な儀式を丁寧に
切りとったええ写真やった

和葉とオレは、別行動で披露宴
パーティーの行われる会場に移動
する前に、写真屋に直行した

「ごめんな、無理言うて」

「ええんや、和葉ちゃんの頼みや」

営業時間前に無理矢理開けてもらっ
て、現像してもろうたんや

「さすがおっちゃん!ええ写真や」

シンプルな木目のフレームに入れら
れた挙式の写真が何枚かと、事前に
工藤達と一緒に撮影した全員での
集合写真、2人の婚姻届を掲げた
写真が用意された

「和葉ちゃん、これ、持って行き?
展示しとったやつやねんけど、和葉
ちゃんの結婚祝いや」

店主がくれたのは、デジタルフォト
フレームやった
和葉のデジカメで撮影したのを、そ
の場で飾れるだろうから、と

「おおきに、おっちゃん、後でまた
来るな!」

「待ってるからな!」

大急ぎで会場に向かい、会場のあち
こちに、写真を飾る

「うわぁ、和葉ちゃん腕上げたね」

「青子、オメー別人みてーだぜ」

「何よ!快斗のばかっ!」

「青子ちゃんきれいね」

みんな飾られた写真に見入っている
と、黒羽達は着替えがあるからと呼び
だされて控室に向かった

晃達も急遽参列する事になり、式場
のスタッフに交じって、黒羽達の
手伝いをしていた

「平次、1人じゃ撮り切れんから
アンタも半分撮って」

デジカメを手渡された

バスが到着し、黒羽達の同級生やら
続々と姿を現すと、晃達が急遽受付
対応を始める

姉ちゃんや工藤に気が付いた面々が
騒ぎ出し、オレも和葉も騒がれた

「はいはい、今日の主役は青子
ちゃんやから」

和葉はそう言いながら、上手く誘導
してグループごとや集合写真をどん
どん撮って行った

パーティが始まる直前、パソコンで
画像チェックして、データをまとめ
もらってきたフォトフレームに写真
を映し出した

雛段に座った2人は、テーブルの上の
フォトフレームに気付いて、驚いた
表情をした後、にっこりと笑った

新郎の黒羽が張り切ってマジックを
披露して、花嫁の早着替えまでして
しまい、当の花嫁に叱られると言う
オチまでついて盛り上げる

黒羽達の友人は、みんな最初はお
祭り好きな黒羽のジョークかと思っ
ていたらしい

ホンマに結婚した、ホンマの披露宴
なんやとわかって、地元では一騒動
になったと言う

そらそうやな、両家の家は売却され
更地にされた上、知らん間に彼女は
渡英して、日本の大学を辞めてしま
っていたんやから

淡いアイスブルーのドレスを身に纏
った花嫁は、友人達にめちゃくちゃ
褒められて、照れまくっていた

会場の一角には、先程の式で着用
したドレスが展示されている

「青子に似合うね」

「いいな~うらやましい!」

女の子達はみんな夢見るような顔で
魅入っていた

手先の器用な彼女は、各テーブルの
各席に、コサージュで巻いた色とり
どりのハンカチを置いていた

その人に合わせ色を選びコサージュ
の花も選んだらしい
中には、彼女らしい可愛らしい文字
で出席へのお礼の言葉と、
メッセージがあった

***
服部夫妻のような、仲が良い夫婦
を目指したいと思います
快斗への指導、何卒よろしくお願い
致します。            
***

オレにはそう書いてあって、濃紺の
タータンチェック柄のハンカチが
置いてあった

和葉には、揃いの赤の同じ柄のもの
が置いてあって

***
英国の街中で途方に暮れていた所
を助けていただいた日の事は忘れて
いません
奥さんの先輩として、これからも色々
と教えていただければ幸いです
***

とあったらしい

それぞれの席で、青子らしいねとか、
涙ぐんでいる子も居た

和葉は、晃達と談笑した後、また
写真撮影に回り、忙しくしとる

オレは、遅れて席に着いた男に声を
掛けられた

「お久しぶりですね、服部探偵」

「あぁ、久しぶりやな、白馬」

あの当時の嫌な記憶が甦るけれど、
オレはぐっと堪えた
和葉に知られたくは無かったから

「和葉さん、美しくなりましたね
まぁ、前からその予兆はありました
けどね」

優雅に笑う白馬に、思わず顔が引き
攣るオレ

「心配しないでください、私もあの
事は、今の彼女に知られたくないん
でね」

「彼女?」

「紅子」

白馬に名を呼ばれ、現れた女の子は
黒髪の妖しげな雰囲気の美人

「初めましてと言っても、私の方は
以前から存じてましたけど」

優雅に微笑む彼女は、妖艶な空気を
纏う、少し不思議な子

2人の写真を撮って、簡単な挨拶を
交わしただけやけど、魔的な雰囲気
を漂わせる子やった

他の子に呼ばれて、彼女はすぐに
離れて行った

「紅子は、黒羽くんを慕っていたの
ですよ、それはもうずっと」

壇上で仲間とおちゃらけて写真を
撮っている黒羽夫妻を見守るような
目で白馬は見ていた

「まぁ、漸く少し振り向いてもらえ
たばかりなので、僕も今は必死なん
ですよ」

微かに顔を歪めて笑う
へぇ、こいつ、こんな顔も出来るん
やな、と思う

「まぁ頑張ってや」

またいつか、と言って別れた

白馬と彼女は、現在フランスに滞在
中だと言う
今日も、ここに来るためだけに帰国
したらしく、これからすぐに戻ると
言った

黒羽達と4人の姿を撮影すると、2人
は優雅に周囲に挨拶をして、終了を
待たずに、一足早う帰って行った

レストランを借り切ってのパーティ
は、料理も美味しく、それなりの
ボリュームもあって、どのテーブル
も、賑やかに食べ進む

「和葉ちゃん、代わるから食べて」

「せや、和葉、また倒れたら服部が
困るんよ」

姉ちゃんらにカメラを取り上げられ
た和葉の手を引いて、席に座らせた

「和葉、ちゃんと食べるまで、席
立ったらアカンで」

「そうや、和葉ちゃん、オレも怒る
で?頑張るのも大概にせな」

結婚を機に、晃は和葉の呼び名を昔
のように和葉ちゃんに戻したんや

オレだけやなく、晃にも言われて、
須藤にも目で怒られた和葉は、漸く
一休みする気になったらしく、料理
に手を付け、美味しいな、と笑う

須藤と姉ちゃんの美人コンビが各
テーブルを回り、写真を撮るので、
男子がぼーっとしとるのが遠目でも
わかった

「翠、キレイになったな」

「和葉ちゃんもキレイになったで?
びっくりしたわ、オレ
せや、平ちゃんらにお願いがあんね
ん」

晃は、色々考えて、挙式を英国でし
たい、と言う

披露宴は無し、家族だけで、そのま
ま両家揃って旅行して終わりにする
らしい

「平ちゃんらの暮らしも見てみたい
し、こう言う機会やないと、遊びに
行く機会も持てんから」

「ええよ!なぁ、平次?」

「おぉ、歓迎するで?まぁ、ちょう
狭いけど、ご愛嬌ってことで」

「いつか、オレと蘭も招待しろよ
うちはいつでも歓迎だぜ?」

会場中、愛嬌を振りまいて歩く花音
を追いかけとった工藤が、ぐったり
して戻って来た

花音はまだまだ元気で、可愛ええと
言われるたび、投げキスをする

工藤から花音を預かって、晃が抱き
上げた

「工藤もゆっくり食べたらええ」

さ、花音はオレと散歩や、と抱っこ
して、須藤と2人、会場を散策する

「あ~やっと食べられる」

「工藤くんもお疲れ様」

和葉と工藤とオレで、わいわい言い
ながら料理を平らげた

黒羽達らしい、明るくアットホーム
な披露宴は、帰りのバスが出発する
ギリギリまで行われた

あの2人、バスガイドに扮して東京
までみんなを送ったんだ

場所を提供してくれたレストランは
若夫婦が開いたばかりのイタリアン
のお店

「初めての良い経験になりました」

夫婦はそう言って笑った

黒羽の親父さんのショーを子供の頃
見たらしく、まさか息子の披露宴を
やれるとは思わなかった、と笑う

「ご帰国されたら、また皆さんで
お立ち寄り下さい」

最後は、厨房スタッフも全員で、
集合写真を撮った

後日、黒羽の奥さんになった青子嬢
が、和葉の撮った写真に飾りを添え
たフレームを付けて、お店へお礼に
と黒羽共々届けに行った

大切に飾られたその写真は、その後
も店内の片隅で、保管されている

10代最後のオレ達みんなが映る笑顔
の記念写真になった