▪️12:00 Ready Go! / side Heiji

12月に入ってからの日々は、感傷
に浸る間も無いくらいに忙しかった

オレは、和葉と記念日をどう過ごす
かを一生懸命考えていた

色々考えた結果、オレらの一番
落ち着く場所で、ゆっくりいつも通り
過ごしたい、と思ったのだ

そう、あの和葉の部屋や

オレが帰るのは、あの場所やから

今年のプレゼントは決めていた
予算もかけられんし、時間も無い

でも、オレは約束がしたかった
和葉と、未来の約束を

少ない時間を駆使して、必死で
創り上げた

和葉に贈るのは、来年の約束

ドタバタの中、せわしなく入籍を
済ませて挙式をしたオレ達

来年、お披露目用の挙式と盛大
な披露宴が終わったら、2人で
揃って渡英する予定や

学校のスタートより余裕を持って
渡英するのには理由がある

オレは、英国を周遊したいのだ
和葉と2人で

新婚旅行の代わりに

入学許可証を手にした時から
考えていた

入籍後も、他のカップルに比べ
たら恐ろしいほどどこにも行けて
いないオレ達

今後もドタバタするのはするやろう

でも、日常から離れて、2人で時間
を過ごしてみたい、と思うのだ

色々なルートも調べたし、一緒に
行ってみたい場所もいくつも
ピックアップした

旅費も、宿泊先も、全部調べ上げた

色々な用事を逆算して、オレと和葉
が旅行に行けるのは、1週間が限界

2つのコースに絞り込んで旅行
プランを完成させた

後は、和葉に選んでもらおう

予約も手配も、これだけはオレが
自分の手でやるつもり

和葉への提案書をまとめた
英文の誓約書も付けた

必ず連れて行くこと
必ず楽しませて見せることを保証
すること
手配は全てオレがすること

などなど、条項を付けて
自分のサインも入れておいた

これが、オレが贈る約束

これを果たすためにも、オレは
絶対に帰ってくる

喜んでくれたらええな、と思い
ながら、完成したそれをオレは
隠した

「今年のイブは、2人で過ごした
らええよ」

「え?」

オレの出発日を知っている
だから、最後は2人で過ごせ、と
言うのだ

自分は、平蔵さんと久しぶりに
約束をしたから、外泊や、と

気持ちは嬉しいが、困る

戸惑うオレにオカンが言った

「来年は、2人で生活していかな
アカンのや、少しずつ練習して
和葉ちゃんにも慣れてもらわんと」

あぁ、そっちの意味やったんかい

「何をほっとしとんねん!アホ!
アンタがしっかりせんから、
もたもたする事になっとんのや」

しっかりせんかい!と扇子で叩かれた

「きっちり和葉ちゃんもてなさん
かったら、帰って来たらしばく
よう覚えておき?」

そう言って、部屋を出て行った

さて、どうしたものか

和葉は、きっとめちゃくちゃ動揺
するんやろうな

帰ったら、しような、と言うつもり
やったんやけどな

オレの残り僅かな理性は持つやろか

もうアカン、と思うんやけどな

嬉しいけど困ったな、と思うオレ

その夜、

「平次、何かええ事、あったん?」

「へ?」

「へ?って…何や、ひとりでにこにこ
しとるから」

そらなぁ、惚れた女と一緒に居て
ええ言われて、がっかりする男
なんて居らんやろ

どうしても緩んでしまう頬

「ええことなぁ、あったで?」

「なに、何があったん?」

教えてえな、と寄せられる好奇心
一杯の笑顔は、子供の頃と重なる
笑顔やった

「ん~、まだ言えん」

「え?何で?」

「ま、すぐに判るで」

腑に落ちない、不満そうな顔をする
むっとした顔も可愛ええな、と思う
オレは、完全にアホやな

こんなん惚れさせて、どうする
つもりやねん、和葉

しつこく教えろ、と騒ぐ和葉から
オレは必死で逃げた

イブまで後少し
しばしの別れまで、後少し