▪️08:00  sunflower /side Kazuha 

先日発売になった人気雑誌に
平次の取材記事が掲載された

あぁ、これでまたしばらくはアカンね
とおばちゃんもタメ息を吐いた

工藤くんの露出が減ってから、
平次への注目度はそれでなくとも
上がっていた

事件そのものよりも、平次に注目が
置かれる記事が出回るのも増えた
(本人はめちゃくちゃ怒っている)

そのせいか、外でアイドル張りに
知らん人からカメラを向けられたり
話しかけられたり、サインを強請られ
る事が飛躍的に増えたのだ

最初の間は、平次も愛想よう適当
に対応していたんやけど、最近
のはちょっとそうも言ってられん程
になっていた

元々、有名女優と名作家の注目
される事には生まれた時から慣れ
とる工藤くんとは違って、平次は
そう言う扱いには全く慣れてへん

だから、段々、言わないと事件以外
で外出せんようになった

たまたま、翠に参考書選びを手伝っ
て欲しいと言われて訪れた本屋で
ばったり、剣道部の面々と会った

みんな塾帰りで、最近遊んでなくて
つまらん、と言うので、平次を誘って
1日くらい遊んだらええのに、と言った

ダメ元で誘ってみるわーと言うのを
よろしゅう、とお願いする

最初は、ええよ、オマエをどこにも
連れて行けてへんのに、悪いやろ
とか言っていた平次

「この間、お祭り、連れて行って
くれたやん、あれでええよ」

と言って、私は背中を押した

おばちゃんと2人、家事を終え、
たまにはええよね、と一緒に美味しい
和菓子を食べながら過ごしていると、
突然、平次を訪ねてお客様が来た

「服部平次さんは御在宅ですか?」

「今、捜査で出て居るんですけど」

「和葉ちゃん、どなた?」

「服部さんのお母様ですか?」

「お母様言う程の大層なモノや無い
ですけど、一応アレを生んだのは
私です」

今度はおばちゃんに折入って話が
ある、とか言い出したので、目で
合図された通り、客間に通した

服部家にはいくつか客間があって
相手によって使い分けされている

親しい友人達を招く部屋
親族を招く部屋
府警メンバーが集って泊まる部屋
そして、玄関に一番近い、普通の
客間

長年の付き合いで、おばちゃんが
どこへ通せ、と言うのは目でわかる
私は、玄関に一番近い部屋に案内
して、お茶の支度をした

お茶を出しても、私などその存在
そのものを否定するかのように、
訪れたお客様はおばちゃんに色々
話していた

年配のご夫婦はそれなりの身分が
ありそうな感じやったし、一緒に
現れた女の子も、私らと同い年くらい
キレイな巻き髪に、清楚なワンピース
愛らしい顔立ちなのに、何故か冷たい
印象を受ける表情やった

あぁ、と思った

大滝ハンや、他の刑事さんから私は
ちゃんと聞かされている
最近、以前にも増して、平次は関係者
の女性からモテとる、と

おそらく、この子もそのひとりやな

私は同席しない方がええ、思ったん
やけど、おばちゃんがそれを良しと
しなかった

「和葉ちゃんはそこに座ってなさい」

お客様の方は、明らかに迷惑そうな顔
仕方が無いので、私はそこに大人しく
座って、事の行く末を見守るはず
だった

…が

「事件で知りあって、お付き合いを
始めたんです」

「プレゼントもいただきました」

などなど、流れるように出て来る話に
おばちゃんの眉間に険しいモノが浮か
んで来た

女の子は、薬指にファッションリング
を嵌めていて、それを平次にもらった
と言っている

…それは無い、絶対に

そのリング、平次がおばちゃんや、
今、バイト料を管理しとる私に内緒で
買えるようなレベルの安物では無い

ハイブランドの、それも人気のライン
この間、おばちゃんと雑誌を見て
仰天したのを覚えているから

証拠写真やって見せられたのも
明らかに隠し撮りで、私はもう
呆れて、黙って見ていた

でも、おばちゃんがそうはいかん
かったんや

調子に乗ってあれやこれや喋る
女の子に対して、おばちゃんの
怒りはMAX

何とか宥めるんやけど、相手の家族
は私には黙っとれ!と言わんばかり
の態度を見せた

とうとう、おばちゃんは席を立って
平次に電話をかけてしまった

おばちゃんが席を立った途端
3人がかりで、オマエは何者や、と
言った質問が飛び交った

「小さい頃から一緒に育てて貰った
幼なじみなんです」

そう言った私に、では、お手伝い
でもやっとんのか、と言うような
声が飛んだ

まぁ、この手の嫌がらせには慣れ
とるし、あれやから、私もこの程度
では怯まない

おばちゃん達に恥をかかせんよう
冷静に対応した

でも、戻って来たおばちゃんが
どの辺からかやりとりを聞いて
いたらしく、さらに怒りだしたのだ

相手も、平次に会わせてもらう
までは帰れんと言い出す始末

ホンマは嫌やったんやけど、私は
仕方無く、平次に電話を掛けた

「すぐ帰るから、もう少しだけ辛抱
しててや、ゴメン、和葉」

平次は心当たりが在る様子やった
すぐに帰るから、と言い、本当に
すぐに帰って来た

私の頭を撫で、肩を抱くと、そのまま
客間にずかずかと入って行った

話の間も、私の背を宥めるように撫で
たり、手を握ったり、ずっと離れないで
いた平次

当然、女の子は怒り狂った

でも、平次は、取材で彼女が居らん
言うたのも嘘や無い、だって許嫁やし
と平然と言って退け、おばちゃんも
私を擁護した

おまけに、こんな女のどこがええの、
と騒ぎ出した女の子に、おばちゃんが
キレた

私の大事な娘に何言うつもりや、と
それはもう激しい啖呵を切ったのだ

何よりも嬉しかった

大好きなおばちゃんが、私の事
ちゃんと大事な娘やって言ってくれた

大事に育ててもらった事は判っとる
惜しみなく愛情をかけてもらった事も
あぁ、幸せやな、と思ったら涙が
止まらんようになった

おばちゃんが席を立ってから、
おっちゃんまで現れて、

「平次が万が一和葉に捨てられるよう
な事態になったら、迷わず和葉を選ぶ」

そう言い切ってくれた

お父ちゃん以上にお父ちゃんやもんね
小さい頃から可愛がってくれた人
私の初恋の人でもある
(それを言うと平次はキレるけど)

平次にだけやなくて、平次が大事に
しとる人達に、こんだけ大事にされて
いるんやな、と思ったら
泣けて仕方がなかった

私は台所にいたおばちゃんに飛び
ついて泣いた

ありがとう、嬉しかったで?と思い
ながら、私は子供の時みたいに
ぎゅうぎゅうくっついていた

おばちゃんも、ぎゅっと抱きしめて
くれた
相変わらず、泣き虫さんやなぁ
言うて

嬉しくて泣きやむ事が出来ない
呆れた平次に子供みたいに
抱っこされても、泣き止む事が
出来ずにいた

さすがに思い、ええ加減泣きやめ
言う平次に、おばちゃんは、もっと
泣け、と私にけしかけるわ、平次
には男を見せろ、と言うわ

最後はようわからんけど泣いて
いるのか笑っているのか、自分でも
ようわからんかった

でも、自分はとても幸せや、と言う
ことだけは判っていた