▪️08:00  sunflower /side Kazuha 

この間、海辺で撮影された新しい
広告のサンプル画像が届いた

さすが、と言えるほど、顔は出て
いないのに、相変わらずええ雰囲気
が漂う写真やった

「海でね、陽が昇る瞬間から撮り
たいんだよね」

朝早くてゴメン、と言いながらカメラ
マンさん達がばたばたと準備を始め
適当に遊んでていいよ、と言われ
準備なのか本番なのかわからない
間に撮影は始まっていたらしい

「凄いな、貸し切りやん」

まだ目が覚めていない様子だった
平次も、完全に目が覚めた様子

「ホンマやね」

裸足で海岸沿いを2人でぶらぶら
歩いていた

今日は季節先取りの衣装のため
少し暑い
でも、ええな、と思った

光の加減で黒にも濃いグレーにも
見えるジーンズ地の上下に、ボタン
使いが変わっているTシャツ姿の
平次は、随分大人びて見えたけど
相変わらずカッコいい

私は、フード付きのジャケットに
細かい水玉のチュニックと紺地の
七分丈のパンツ

貝殻さがしたり、小さなカニさん
見つけたり、平次といつもの様に
色々話しながら遊んでいた

こういう時でないと、2人でゆっくり
話す時間も無い程、平次は忙しい
日々を送っている

「もう、このくらいで十分やろな」

「え?」

「怒られるかも知れんけど、せっ
かくここまで来たんやし、やって
おかな、海に失礼や」

突然平次が私を抱き上げて、どん
どん海に近づく

「え、え、何すんのん!平次!」

きゃぁきゃあ騒ぐ私など、お構い
無しで歩くと、小さな子を高い高い
する要領で、私を上に投げ始めた

怖いし、何するんよ、と思うけど
ろくでもないいたずらを思いついた
平次は笑って相手にしてくれへん

もうどうでもええわ、と思うと
楽しくなって来た

うわぁ、と思った

こんな上から平次を見下ろした
事なん、無いなぁと

えっ、と思うと、今度は私のお腹に
両手を組んで、ぐるぐる回し始めた

嫌な予感

止めてや~と叫ぶ私の声など全く
聴こえへん様子

「さ、行くでー、覚悟しとけや、和葉」

覚悟も何も、いきなり海に放り出され
た私
もちろん、服掴んで、平次も引きずり
込んだけどな

せっかくの服は海水でびちょびちょ
髪も顔も全身ずぶぬれになった

「もう、何すんのん!あほ!」

白い服じゃなくて良かったけど
こら怒られるな、と思う

私にぽかぽか殴られても、気持ち
よさそうに浮かんで反省しない様子
の平次を、沈めてみた

「うわぁ、いきなり何すんのや!」

「アンタが先にやったんやろ!」

「あ、そやった、スマンなぁ」

水を吸った服が重くて、立ち上がる
のに苦戦する

平次と2人、手をとりあってなんとか
砂浜に戻り、歩いて行く

「すんません、つい浮かれて」

「ええって、おかげでええの、撮れ
たで?早うタオルで拭いて、着替え」

怒られなかったけど、
その後が大変やった

近くの控室代わりのホテルの部屋で
平次と交代でシャワーを浴びた

でも、平次、電話が入って、ろくに
乾かしもせんと飛び出してしもうた
んよ、まったく…ねぇ

風邪ひかんとええけど、とおばちゃん
と言うてたんやけどなぁ
しっかり引いたんや

事件終わりに、意味不明なメールを
投げて来て、帰ってくるなり、寝てる
私の上に飛び乗ったんや
飛び乗った、いやちがう、倒れ込んだ
が正解やな

でも、布団の中に私がいる事など
全く気が付いてへん
というより、自分の部屋や無い事にも
全く気が付いてへん

燃えるように熱い平次の身体は
押しのけるのに苦労したし、結局
単独で這い出る事が出来なくて
騒音に気付いて飛んできたおば
ちゃんにも手伝ってもらったんや

「このヘンタイ!あほ!正気な時に
甘えんか!こらっ!」

着替えさせたり、氷枕をしたり
2人がかりで世話をしている途中も
魘されて、寒い、寒い、と言っては
私を抱え込んで丸まってしまうので
おばちゃんは、寝ぼけている平次に
容赦無い鉄槌を下していた

もう、漸く寝かしつけられた時は
私もおばちゃんもフラフラ

熱も相当に高いので、ひとりには
出来んし、私もおばちゃんも平次
が寝ぼけたら、単独では対処出来
んから、結局、床にお布団敷いて
おばちゃんと私は一緒に寝た

「何や、小さい頃思い出すなぁ」
「ホンマやな」

結局、平次は珍しく3日も寝込んだ

元気やったら、一緒にひまわり畑
見に行きたかったんやけどな

でも、しばらくぶりで家に居る平次
に安堵している自分もいた

高校最後の夏は、あっという間に
どんどんと過ぎて行った