▪️08:00  sunflower /side Heiji

ひとり、バイクを駆りながら海岸線
を走り抜ける

まだ夜明け前
暑いけれど、ピークは過ぎた気が
していた

「来年の今頃は、オレも和葉も異国
の空の下か」

この間、和葉が言っていた

「たった2ヶ月だけや、それでもな
生まれ育った街が、懐かしくて、
帰りたくて、たまらんかった」

英国での生活が、楽しくなかった
わけとちゃうんよ?
と、言いながら

残念ながら、生まれてこの方まだ家
を離れた事が無いオレには、まだ
わからないけれど、オレもそう感じ
る日が来るんやろうな、と思う

「ただいま」

「おかえり、平次」

台所から現れた和葉は、お結びを
握っていたらしい

「お、ええもん持っとるやん」

「あ~!アカンよ、手、洗って!」

和葉の手にあったお結びをそのまま
口で咥えて奪いとった
どうやら府警に差し入れに行く様子

お重には色とりどりのおかずも
ぎゅうぎゅうに詰められていた

「はい、どうぞ」

冷茶と共に差し出されたお皿には
オレの分がぎゅうぎゅうに載せて
あった

「いただきます」

もぐもぐと食べるオレの前で、和葉
はにこにことして、お茶を飲む

オマエは食べんのか、と聞いたら、
作っている途中で、オカンに食べさ
せてもらった、と笑う

差し入れは、もうすぐ親父を送り
届けに来る大滝ハンに渡すらしい

「せや、平次」

オレが事件で不在にしとる間に、
オレのバイク仲間からツーリングの
誘いがあったらしい

「今度はいつ行けるかわからんし
行って来たらええよ」

和葉は、せっかくやし、私も別で
出かける、と言う
姉ちゃんと須藤を連れて、神戸に
行って来る、と

「蘭ちゃん達のドレス、選びに行こ
って、おばちゃんが」

どうやらそこには晃も含まれている
らしいのを聞いて、オレは和葉の
提案に乗ることにした

「平次、気を付けて行くんやで?
お守り、忘れたらアカンよー?
行って来ます」

オレより1日早く、迎えに来た車で
和葉達は出発した

ツーリングの誘いに乗ったのは、
もう一つ理由があった
秋に、和葉を連れて、今まで行って
ない地方に出かけようと思っている

もちろん、事件で訪れた場所は
ノーカウント
あくまでも、純粋な旅行先として

和葉がコッソリ毎晩眺めている
日本地図

来年渡英するまでに、どれだけ行け
るかわからんけど、ひとつずつ、
2人で行ってみようと思ったのだ

予算も時間も限りがある
その中で、何とか工夫して、ひとつ
でも多くの都道府県を訪れたい

仲間は喜んで色々なルートを教えて
くれて、自分達でも計画を立てて
楽しんでいた

今回のツーリングのルートも中々
良かったので、後日和葉を連れて
また走ってみようと思った

付き合うまで、和葉はどちらかと
言うと、四六時中一緒に居たがる
タイプやと思っていた

でも、たまにはそう言う日もある
けれど、ちゃんとオレをひとりに
してくれることも忘れない

「だって、渡英したら嫌でも2人
しか居らんやろ?家でも学校でも
私が平次独占したら、疲れてまう
やん?せやから、練習、や」

淋しくないわけとちゃう
我慢出来ないくらい淋しい時は
アンタが、どんなに嫌がっても、
くっついとるから、安心してや

そう言って柔らかな笑みを浮かべた
和葉は、確実に艶やかな女性へと
孵化し始めていた
内面も、外見も、や

休み明けの学校では、騒ぎになる
やろな、と安易に想像がついて
オレはため息を吐いた