▪️07:00 Summer festival /side Kazuha

今年もおばちゃんが、揃いの浴衣を
用意してくれた

そして、今年は平次から毎年行って
いる夏祭りに一緒に、行こう、と
誘ってくれた

嬉しくて、久しぶりの2人きりでの
お出かけや、とはしゃぎ回ってしま
ったのが、アカンかった

最近、平次への依頼は途切れること
がなかった
少しも休まず飛び回る背中を見送る
ばかり
さすがに、私も淋しくなったんや

そんなところでのお誘いだった

浴衣も、どっちがええ?と聞いた私
に、いつもやったら、面倒くさそう
に、どっちでもええやん、って言う
のに、「水色がええ」言ったんや

嬉しくて、おばちゃんに水色の浴衣
がええって、と言うと、おばちゃん
に任せときって言うて、普段以上に
気合いを入れて、髪も結って、化粧
もしてくれた

それなのに

神様は、私が嫌いみたいや

おばちゃんに見送られて、玄関出る
タイミングで、平次の携帯が鳴る

お祭りは、今日が最終日
来年は、来られない
毎年、欠かさず2人で遊んだ思い出
がたくさんある場所だ

中々電話に出ようとしない平次に
八つ当たりをした
行ってらっしゃい、を絞り出すんが
精一杯やった

部屋に逃げ込んで、泣きながら浴衣
を脱いだ
髪も解いて、化粧も落とした

泣いても、泣いても、涙が止まる
事は無かった
何にも考えたくないから、テキスト
を開いて勉強する

でも、涙が止まらない
全く、頭に入らない

平次が悪いと違うとはわかっとる

このくらい我慢出来んかったら、
刑事の妻なんて、務まらんって
ちゃんと、頭ではわかっとる

でも、ココロはついて行けない

まだ、子供みたいに淋しがる自分が
確かに私の中には居た

こんなんじゃ、ダメだ
平次もきっと呆れているだろう

「和葉ちゃん」

優しいノックの音
おばちゃんが顔を出す

「もうええから、な?
勉強なら他の勉強、おばちゃんと
せえへん?」

おばちゃんが連れて行ってくれた
居間には、キレイな色とりどりの
瓶が並んでいた

「うわぁ、キレイやね!」

「せやろ?おばちゃんの秘蔵品や」

おばちゃんお手製の果実酒だった
秘蔵コレクション
梅、オレンジ、レモン、ライム
サクランボ、アセロラ、ザクロ
などなど、色鮮やかで、キレイだ

思わず涙も引っ込んだ
おばちゃんは、昔から泣いた私を
慰めるのが上手い

クリスタルのグラスも出して来て
おばちゃんと一緒に、少しずつ
味見をした
甘過ぎず、スッキリとした味で、
それぞれの果実の味が際立つ逸品

「美味しいなぁ!」

和葉ちゃんには、特別にレシピを
教えたる、と言うので、私は携帯
で写真を撮って、メモを取った

おばちゃんとおしゃべりする時間
は、私にとっては特別な時間
楽しいし、色々な事を教えてくれる

今日は、いつも以上に盛り上がった
おばちゃんが最近したおっちゃん
とのケンカの理由、とか何やら

気がつけば、2人で涙が出るほど
笑い転げていた

私の記憶は、ここまで、やねん

次の記憶は、平次が家に居て、もう
朝やった

酷い頭痛で、ごはんもまともに食べ
られない私は、昨夜の記憶がない

どうやらその間に、平次に噛み付いた
とか信じられないような自分の醜態を
聞かされたのだ

自分がとことん嫌になる
頭がガンガンして、目が回る

こんなアホな自分は見て欲しく無い
のに、こんな日に限って、平次の
携帯は鳴らん

口を聞くのも苦痛なのに、今日は
平次があれこれと騒がしい
お詫びにどこどこ行こう~とか

ええの

約束しても、今の平次の忙しさから
いって、お祭りと同じことになる
とわかっとるから

そんなことより、私は一緒に居て
欲しい
何にも喋らんでもええから、一緒
に居たいんよ

淋しいだけやねん