▪️06:00 a hydrangea /side Kazuha 

体育祭の終了を合図に、私達の
受験生としての夏がスタートした

学校の小テストも、段々と難易度を
上げ、油断出来なくなっていた

私と平次は、一通り、希望大学への
エントリーを終えた
でも、どうなるかわからないので、
引き続き語学系のテストは定期的
に受けて、スコアを少しでも伸ばす
事に必死になっていた

平次の要領の良さは私には無い

平次は自分が暗記とか覚えやすい
やり方をちゃんとマスターしている
らしく、私みたいに長時間費やさなく
ても、短時間で何でも吸収して
しまうのだ

とても真似出来ないので、私は
私なりの方法でくらいつくしかない

平次が事件に飛び回る間、私は
気分転換に家事を手伝いながら
ひたすら勉強した

「和葉ちゃん、根詰め過ぎや
少し息抜きせんと、窒息してしまう
んやないの?」

おばちゃんには心配されたけれど
友達もみんな、夢に向かって必死
に走り出したところ

邪魔は出来んし、私も置いて行か
れるのは嫌や

久しぶりに、家に居る平次と一緒
に勉強していたんやけど、何か
いっぱいいっぱいになった私

たまにはええかな、と思って、
近所をバイクに乗せて欲しいと
強請ってみた

ええよ、とあっさり了承してくれて
近くの紫陽花がキレイに咲き誇る
場所へ連れて行ってくれた

その近くもちょっと散策したりして
久しぶりの散歩に嬉しくて浮かれて
しまった私

買い物やとか、遊園地も一緒に
行きたいけれど、こういう小さい頃
から住み慣れた街の、知らなかった
場所を巡るのも楽しい

夢が叶えば、来年はここに私達は
居ないから

穏やかな表情で、繋いだ私の指を
くるくると遊びながら歩く平次も
たぶん、同じ様な事を考えている
のだろう

名残惜しむように、見慣れた街並み
を愛車で駆ってくれた

思いがけず、気分転換が出来て
いっぱいいっぱいに膨れ上がって
いた私の気持ちも落ち着いた

台所でおばちゃん相手に平次に
連れて行ってもらった時の事や
何かを、色々と喋り倒した

たくさん喋って、たくさん笑って
ようやくいつもの自分を取り戻す

自分だけなのか、と思っていた
このいっぱいいっぱいな気持ち
友達にも訊いたら、みんなそうや
と言っていた

初めての大きな人生の岐路を
目指して、泳ぎ出したばかりの
私達は、泳ぎ方もよくわからない
ので、仕方が無いのかも知れない

不器用でも、不器用なりに
自分の道を信じて、泳いでみるしか
ないんやね、と思う

息継ぎの仕方をようやく覚えた私
の元へ、突然嵐が舞い込んだ

数日後、私は意外な人から呼び出し
を受けて、平次に内緒でひとりで
京都へと赴いた