▪️06:00 a hydrangea /side Kazuha 

「時間があったら、ええ事もデート
も和葉としたい!ほっとけや!」

纏わりつかれたお姉ちゃん達に我慢
の限界を迎えた平次は、イキナリ、
そう叫んだんや

学校の、教室やで?

私は呆然、教室には剣道部顧問の
先生が登場

私も平次も、精魂尽き果てる程、
それぞれの部活でしごかれた

私はお風呂に入って、夕飯も食べず
ベッドに倒れこんだ

嬉しかったんやけど、困ってしまう
平次の本音

責任取れん間は、無責任な事をした
らアカン、とキツく言われたらしい

交際宣言した時に、そんなやりとり
があったらしい話を、おばちゃん
から聞いた

平次の事は大好きや
初めても、平次がええ、そう思う

正直、まだキスですら緊張して、
恥ずかしくて固まる事がある私

その先など、耐える自信が全く無い
まだ、今は

平次は私のそんなところ、ちゃんと
わかっとるみたいやった

そんなこんなで、ドキドキしながら
お預けの1週間が過ぎたんやけど…

肝心の平次が、居らんねん

ま、こんなもんや、私達は

最近、休む間も無く飛び回っている
身体も心配やけど、私が心配しとる
のは、ココロの方

探偵や言うても、人間や
事件と言う異常事態の場面ばかりが
続けば、さすがにバランスを崩し
かける事もある

蘭ちゃんも言うてた
工藤くんにも、突然、ぼーっとして
たりする時がある、と

「ただいま」

「え?あ、平次!」

最近にしては珍しく、連絡もなく
イキナリ帰宅した平次
鳴り出した携帯に応じながら、自分
の部屋に行って、暫く降りて来ない

様子を見に行こうとしたら、今度は
お風呂場直行

何かあったんやろか
不意に私の携帯が鳴り出した

「和葉ちゃん?」

「工藤くん?」

工藤くんは、平次が帰宅した事を
確認すると、ほっとしていた

「オレのせいだ」

犯人確保の際、ちょっとしたトラブル
があって、焦って飛び出した警官の
せいで、犯人に自殺する機会を与えて
しまったと言う

「服部は、すぐに反応して、助け
ようとしたんだけど」

言いにくそうに、工藤くんは言った

どうやら、人魚の島で私が宙ずりに
なったのと同じような状態になって
しまったらしい

「もしかして」

「あぁ、指先をアイツが掴めたので
さえ、奇蹟的な事だったんだ」

助けられなくて、愕然としている
平次に、飛び出してこの事態を招い
た警官が、悪態をついたらしい

平次は、言い返すことなく、その場
を立ち去ったそうだ

ひどい、ひど過ぎや

私が一緒やったら、投げ飛ばして
やったのに
私の平次に何してくれたん、って

工藤くんも悔しそうだった
だから今日は、慰めてやって、と言い
電話は切れた

平次が一番好きなお茶を丁寧に
淹れ、支度をしていると、頬やら手に
いくつも傷を付けた平次が現れた

「お帰り、平次」

まずは飲め、とお茶を飲ませた

いつもやったら、キラキラした顔で
事件の話をしてくれるのに、黙って
ぼーっとして飲んでいる

私の大事な平次を、こんなに傷つけ
たやつ、見つけたら、絶対、許さん
と怒りがこみ上げる

ダイニングテーブルに座って、飲み
終えても座りこんでいる平次の手を
ひいて、私は自分の部屋に入った

クッションに座らせ、救急箱を取り
出して、掌や腕に残る傷をひとつ
ひとつ、丁寧に消毒して薬を塗る

私の大事な人に、ホンマに何してくれ
たんか、とこみ上げる怒りを飲み込む
うちに、涙が溢れる

俯いた私の身体に、そっと平次の両腕
が緩く巻き付いた
肩口に頭が押し付けられる

私は、自分から手を伸ばして、平次の
髪を手で梳いた
少しだけ、身じろいだ平次の耳元に
指先で触れる

いつも、平次が私にしてくれること
私がされて、幸せやと感じること

髪を指先に軽く絡ませて、軽く引っ
張ると、ゆるゆると頭が肩口から
離れた

両手で顔を挟んで、私は平次にキス
をした

いつもしてもらうように、軽く何度
も触れる

大丈夫、アンタは悪くない
やれることは、全部したのだ
傷だらけになるほどに

アンタを責めるアホがいたら、私が
代わりにしばいたる

「平次、大好き」

耳元で、そう告げる
だから、早く元気になってね、と

魔法が効いたのか、スイッチが入っ
たみたいに、抱き締める腕に力が
入って、していたはずのキスが、
いつの間にかキスをされていた

あ、やっぱり

癖に気がついて、ふと笑ってしまう

「人が必死に色々我慢しとると言う
のに、のんきに笑いよって」

むーっとした顔の平次が私を睨む
気が付けば、私がクッションの上に
置かれて、平次が上になっていた

「今日はオレの好きにさせてもらう
散々じらされた後やしなー」

ろくでもないいたずらを思いついた
時の笑顔で、私を捉えた

頭から顔、首、肩口まで、触れられ
なかったところは無いんじゃないか
と思う程、キスをされる

私の両手を握る掌は力強いくせに
触れられる唇はどこまでも優しい

「跡残してみたいけど、バレたら
殺されてまうからなー
我慢出来んようになっても困るし」

「は?」

ぶつぶつ言いながら、散々キスを
し倒した平次
もう私は訳が判らん程眩暈がする
言うのに、楽しそうに笑っていた

…ま、ええか、平次が笑っとるし

頬ずりしたり、肩口に頭を預けて
みたり、キスの間の一休み、くら
いの気軽さで、くっついている
平次は、必死でいつもの自分を
取り戻そうともがいている様子

ぎゅうぎゅう私にしがみついて
いたと思ったら、急に言い出した

「和葉」

「ん?」

「腹減った」

一瞬、はい?と思ったけれど、
思わず噴き出してしまった

ホンマに平次のお腹が鳴りだした
からや

まだまだ色気より食い気やね
私達は

私も淋しい気持ちを一杯に満たし
てもらえたから、充電はばっちりや

ほな、平次くんのお腹を満たす
ために支度をしましょうか

とても幸せな気持ちで
今度は2人で台所へ向かった