▪️06:00 a hydrangea /side Kazuha 

服部家での暮らしは、私は特に苦労
する事もなく、すんなりと馴染んだ

むしろ、受け入れる側が大変やった
そう、思っとる

平次は事件や何やと飛び出している
けれど、帰宅すると、どんなに遅く
とも、朝早くとも、必ず顔を見せた

まぁ、私は寝ている時は知らんけど

おばちゃんは、嫁いでも、相変わら
ず私に甘かった

「和葉ちゃんと一緒に居たやろ?
私はアレしか産んどらんのに、女の
子の育つ姿も見られたし、何や、
娘を嫁がす母親の気持ちも味わう
事が出来た
遠山さんに、感謝やな」

挙式の前日、私は平次の両親と、父
宛てに、手紙を書いた

たくさんのありがとうと
たくさんのごめんなさいと
これからもよろしゅう、と

受けた情愛はちゃんとわかっとるし
みんなに愛してもらった分、
平次をちゃんと、私なりにゆっくり
時間をかけて愛して行きます、と
決意もこめて

みんなは、私が何も知らんと思っと
るみたいやけど、私は知っている

昨年、私の預かり知らんところで、
白馬くんとのお見合い話が持ち上が
ったらしい

実は、平次と入籍する直前に、私は
偶然、彼本人と会ったのだ
その時に知らされた

「君の指を見てすぐにわかったよ
西の名探偵は嘘つきではなかった」

その件が持ち上がった頃は、まだ
ただの幼なじみで、戎橋の件のずっ
と前の話だった

服部家の全員で、私とお父ちゃん、
守られたんや
誰も、何も言わんかったのに

「僕としては、少し残念だけど
おめでとう、お幸せに」

紳士的な笑顔を見せて、彼は去った

きっと、彼も上手く立ち回ってくれ
たから、私もお父ちゃんも変わらず
にいられたのだろう、と思う

きっと、彼には私ではない他の素敵
な女性が現れるだろう

私には、平次が居る
おばちゃんやおっちゃんが居る

大丈夫、私はお父ちゃんの娘
あのお母ちゃんの娘で、
おばちゃんらに大事に育てられた

平次と手を取り合い生きてきた

頑張れるはず

そう信じている

********
けどなぁ、平次
これはさすがに頂けないで?

目の前のおばちゃんは、鋭い眼光が
さらに鋭さを増し、私でさえも
正直、怖いで?

事件に平次が飛び出して暫くして
学校中の不特定多数の生徒の元へ
平次と女が映った写真がばら撒かれ
たのだ

キスしているようにも、いちゃつい
ているようにも見える、絶妙な角度

服部家にも山のように手紙が届いた
それも、遠山家からの転送分とで
相当な量だ

それが、おばちゃんと私の目の前に
あるのだ

「和葉ちゃんの携帯にも、来とる
やろ?データ、全部を平蔵さんに
転送しなさい」

証拠物件や、こんな嫌がらせした
やつは、ちゃんと罰を受けなアカン

おばちゃんには逆らえへん
私は転送した
驚いたおっちゃんから、すぐに電話
が入った

「和葉か?大丈夫か?」

「おっちゃん?大丈夫や、あんなん
よう送られてくるし、今更気にせん
心配せんでええよ」

忙しいおっちゃんに申し訳なくなる
おばちゃんは、何やらおっちゃんと
話している

以前の私やったら、多分、動揺して
号泣するレベルの嫌がらせ

今でも、胸が痛くなるけれど、
でも、今だからわかる事もある

平次は自分で気がついてへんみたい
やけど、平次にはちょっとした癖が
あんねん

キスする直前

必ず、髪に触れ、耳を触る

この間、何度目かのキスを交わした
時に気がついたんや
恥ずかしかったけど、嬉しかった

指先の動きを知っているのは私だけ
くすぐったいけれど、優しい動きに
愛情を感じられる、私が知っている
平次からのサイン

送られて来た写真を並べて見た
上手く撮影されているけれど、並べ
たらわかる

あのサインがない事も、目線も微妙
に違う事も

だから、以前ほどには不安は感じて
へんかった

もちろん、平次が私の知らんところ
で他の女と散々しとったら、そんな
サインなど、あって無いようなモノ
やけどな

それにしても、油断し過ぎやで
名探偵さん
少し、お仕置きが必要みたいやね

さて、どうしようかな

そんなん考えてたら、寝不足に
なってしまい、貧血になってしまっ
たのだ

帰って来た平次は、具合の悪い私の
心配をしながら、オロオロしていた

キスもハグも1週間お預けや!と
言ったら、笑っちゃうくらいに呆然
とした平次
でも、すぐに良くないイタズラを
思いついたような顔をした

「反省、しとらんみたいやね」

いらっとして、睨んだら、慌てて
顔を作っていた

可愛ええなぁ、平次くん
でも、名探偵、脇が甘いで?

いくらアンタが好きでも、許せる事
と許せへん事がある
ちゃんと、覚えといてな?

私やって、淋しいの、我慢しとんの
やからね

ホンマは、帰って来たアンタに触り
たいんや

ちゃんと、帰って来たって、実感
出来るから

可哀想になるほど、項垂れた平次を
見て、思わず吹いてしまった私

「人の気も知らんと、のんきに笑い
よって!覚えとれよ!」

ふんっ、とそっぽを向いて拗ねて
何やらブツブツつぶやく平次

ホンマに可愛ええ旦那さんやな

お仕置き期間が過ぎたら、ちゃんと
お帰りなさい、のちゅーをしてあげ
よう、と思う

喜んでくれるかな?
どうやろ?