▪️06:00 a hydrangea /side Kazuha 

久しぶりに、平次に連れ出されて
地方の事件捜査に一緒に来た
蘭ちゃんとコナンくんも一緒や

依頼主が用意してくれた部屋は、
ベッドルームも2つあって、リビング
やミニキッチンもバスルームも付く
コンドミニアム並の部屋やった

「絶対、うろちょろすんな」

平次に厳命されたので、
私と蘭ちゃんは、部屋でお留守番

蘭ちゃんとゆっくり過ごしていられ
るのは久しぶりやった
あれこれ互いの近況を報告しあう

「服部くんとは仲良くしてる?」

仲良くしてるか、お揃いの指輪、
ちゃんとしてるもんね、と蘭ちゃん
に笑われた

「でもさ、意外だったなー」

ミルクティーを飲みながら、笑う

「服部くんって、カップルリングとか
照れて絶対、嫌だとか騒ぐのかなぁ
とか思ってた」

そう、それは私も一緒

最初だけで、すぐに付けてくれん
ようになってしまったら、淋しいな
そう思っていたのだ

「なんや、私よりきっちりするんよ
学校の時や、出来ん時はお守りの中
か、鎖で首から下げとるんやけど」

首から下げたままで居るのに気づく
と、すぐに私の指につけるんや
反対に、付けっ放しにしている時は
気付かんらしい

「あ~そう言うことね」

蘭ちゃんはクスリと笑った

愛情の証と、虫除けね、その指輪
しかも、いきなり左なんて、と

恥ずかしくて赤くなるのがわかる
私に言い寄る人など居ないのに

「でもな、左手に言うたんは、平次
やないねん」

そう、薦めたのは職人さんや

「和葉ちゃんに相談があるの」

蘭ちゃんは、その工房に行きたいと
言った
工藤くんに、ネックレスのお礼と、
お詫び、そして、自分の気持ちを
ちゃんと伝えたいと

「ロンドンの時もね、驚いちゃって
ちゃんと言えなかったの
それに、せっかくくれたネックレス
だって、服部くんに誤解解いてもら
うまで、ひどい態度、とって」

半泣きの蘭ちゃんにハグをした

「わかった、任せとき
平次に連れて行ってもらえたし、
職人さんからも、指輪に不具合があ
れば、いつでもどうぞ、言われたし
場所ならわかる」

後で、予定を合わせて一緒に行く
約束をした

「でも、ステキよね、この指輪」

私もいつか、新一とするんだ、と
溢れるように笑う姿、工藤くん、
ゴメン、シャッターチャンスを逃し
てしもうた、私
とっても、素敵な笑顔やね

「蘭ちゃん、してみる?」

悪いからいいよ、と言う蘭ちゃんに
内緒やで?と言って貸してあげる
左手に

「ど、ドキドキするね、やっぱり、
指が、震えちゃうわ」

サイズは予想通り、私とほぼ同じ
蘭ちゃんには、銀色の輝きより柔ら
かいピンクゴールドの方が似合い
そうやった

そうそう、と言って、蘭ちゃんが
鞄からカタログを取り出した
先日、たくさんの食料と共に、
おばちゃんから送られて来た、と

おばちゃんは、蘭ちゃんに翠と一緒
に、花嫁の介添人役を依頼している

「うわぁ、ステキやね」

「でしょう?家だと広げて見れなく
て、持って来たの」

来年、6月にお披露目のための式と
披露宴が予定されている

「夏に一度、遊びに来てや
翠も呼んでおくし、みんなで遊ぼう
花火とか、な?」

うん、楽しみにしてる
と笑った蘭ちゃんと、サンプルが
たくさん掲載されたファイルに目を
通した
これ、まだ発売前の試作品やねん

私と平次の衣装含めて、全ての
コーデを担当してくれるのが、あの
デザイナーさんや

その代わり、売れ筋チェックやら
色々なサンプルデータを取らしても
らうと言う条件で、口の堅い精鋭
スタッフを専従でおばちゃんの手伝
いにと差し出したんや

蘭ちゃんの元に届いたのは、まず
第1弾で仕上がったサンプルらしい

ミニもあればロングタイプもあり、
色っぽいものもあれば、可愛ええ
タイプ、シンプルでオトナ向けも

わいわい騒いで、あれやこれや
好みを聞いて、だいたいのイメージ
を作り上げる

「翠ちゃんにも、会ってみたいな」

携帯にある写真を見せた

「あれ?翠ちゃんって、え!まさか
須藤 翠ちゃん?」

蘭ちゃんは、話題になった頃の翠を
知っていた
ある取材で、たまたま居合わせて
少しだけ話をした事があったと言う

「さっぱりしてて、可愛いい人だっ
たよ? ケガで引退したらしい噂を
聞いて、園子と残念ねって言ってた
のよ」

でも、元気そうで良かった!

と蘭ちゃんは再会を楽しみにして
いると言った

「翠ちゃん、確かスラリと背が高い
よね?ロングタイプとか、裾に特徴
があるタイプ、似合いそうじゃない
かな?」

今度、一緒に集まって、選ぼうね
と盛り上がった

「でもさ、和葉ちゃん、良く決心
出来たね」

プロポーズと、告白が同時やった事は
話してあった

そして、春に結納を交わした事と、
来年挙式予定なのは、おばちゃんが
話したのだ

(ホンマはもう、入籍も本番の挙式
も済んどるけどな)

「私の場合、幼なじみ言うても、
ちょっと事情が特殊やねん
だから、最初から付き合いも深いし
幼なじみ通り越して、家族みたい
やったから、ずっと」

平次は、何度も私に確認した

自分は、最初からそのつもりやった
付き合うなら、一緒になる、と
でも、お前はそれでええんか、と

「もし、和葉がもう少し時間が欲し
いと言うなら、オレがちゃんと
オカン達を説得してもええんや」

そう言ってもらえたから、私は
迷いも戸惑いも、全てを捨てた

「平次はね、お父ちゃんから私を
早くに攫ってしまって、私から
お父ちゃん取り上げてしまって、
申し訳ないって思っとるみたい」

「そんなこと…」

そう、そんなことないのだ

嫁いでも、私はお父ちゃんの娘や
一生それは変わらない
お父ちゃんと、お父ちゃんが今も愛
してやまないお母ちゃんの、2人の
娘やで?

「口は悪いし、がさつやろ?
でもな、肝心な時は、いつも誰より
優しいんや
今もな、お父ちゃんと離れて暮らす
私の事、あれでも心配しとるんよ」

色々な事情があって、早くに決断を
迫られた私と平次

早過ぎる、と言う声もあった

でも、ずっと近過ぎる距離で育った
私達の事情を知る人達からは、
ダラダラとケジメがつけられなく
なるよりは、早くから、一緒に苦労
して、一緒に乗り越えた方がええ
と言う後押しもあった

「平次にな、一生私だけになって
しまってええんか?って聞いたん」

その時、平次は言った
東にも、そう言う探偵が居るやろ
と、確かにそう言った

「和葉ちゃん」

ポロポロ泣き出した蘭ちゃん

「人にはそれぞれタイミングがある
私と平次は、少しだけそれが早くに
訪れた、そう思う事にしたん」

もちろん、不安もたくさんある
でも、平次の手を離したくないし、
離せない

「そうなの、私も同じ
もう待たなくていいって言われても
会えなくても、声が聞こえるだけで
幸せって思ってしまう自分がいるの
忘れるなんて出来ない
諦めるなんて、出来ないよ」

泣きじゃくる蘭ちゃんを、いつも
平次が、おばちゃんが、私にして
くれたように、そっと抱きしめて
背中をあやすように叩く

大丈夫、大丈夫、きっと上手く行く

必ず、上手く行かせてみせる

泣き疲れて眠ってしまったのを、
そっとベッドに横たえた

平次達の夕飯の支度を簡単に
仕上げ、お風呂に入った

結局、明け方物音で目が覚めて、
東西名探偵のお腹を満たして
再び飛び出した2人を見送った私

片付け途中で眠くなってソファに
横になったはずが、ちゃんとベッド
に寝ていた

蘭ちゃんには、夏休みに再会を約束
して別れた

元気にコナンくんと仲良く手を繋い
で帰ったから、大丈夫
工藤くんには、蘭ちゃんの薬指の
サイズと、オススメはピンクゴールド
やとメールをした

「サンキュー、参考にする」

短いけれど、確かな決意

そう、必ず帰るんやで?

迷わず、違えず、自分が愛すべき人の
元へ、真っ直ぐに帰ったらええよ

そのためやったら、私も平次も
協力は惜しまないから

頑張れ、東の名探偵

そう想いながら、私は私の愛すべき
相方が、事件に飛んで行く背中を
見送った

今日も西の名探偵は、事件に飛んで
行ったのだ