▪️06:00 a hydrangea /side Heiji

最後の体育祭

元々、改方学園の体育祭は人気の
学校行事で、生徒の気合の入れ方
も半端ではない

各色6団に各学年分けられて競う
トップに立つのは3年

入念に準備される応援合戦はその
最たるモノで、各団気合が入る
何せ、大勢押し寄せる来場者から
の投票が最後の後押しになるから

オレらの団では、男子をオレが
女子を和葉が総大将を務める事
にオレらが休みの間に決められて
いたんや

事前に何度も打ち合わせがあった

「正攻法で行こうや」

色々な案が出た

衣装は各団2パターンまで許容
される
奇抜な衣装で攻める団もあれば、
流行のダンスに力を入れる団も
あるらしい

満場一致で決まった1パターン
は、男女共に剣道着で統一

「たぶん、みんな華やかにして
くると思うねん
せやったら、反対にモノ黒で統一
したら、逆に目立つんちゃう?」

和葉のこの声に、みんなが賛同
したのだ

悩んだのはもう1パターン
浴衣はどうかーとか、はっぴは?
とか、色々な意見が飛んだが
どうやらそれらは、他の団がやり
そうや、と判り、決めかねたのだ

あまり凝り過ぎて、予算がかかり
過ぎると、評価は低くなってしまう
最後やし、1番取りたい、と言うのが
みんなの願い

「せや、こんなんどう?」

ギリギリの期限で、メンバーのある
子が提案した

警官の制服、や

もちろん、レンタルやら一部お手製
ホンモノはアカンからな

男女とも、団員は夏服をモチーフに
総大将と副大将2名の3名は
男女ともジャケットありで

「せやったら、うちらに任せ」

そう言い出したのは、毎年文化祭で
オレや和葉を着飾らせて腕を磨く、
服飾関連の道へ進路を取ると言う
女子チーム

恐ろしい勢いで、デッサンを書き
色々なつてを使って、低価格で
高品質のモノを創り上げた

「コレが、うちらの集大成になる
せやから頑張る」

そう言って、熱心に創り上げて
当日まで誰にも見られんように
隠し通した

まず始めに、剣道着姿でオレらが
登場すると、予想通りの反響が
あった

特に、和葉へのフラッシュが凄い
眩暈がする程の光を当てられても
和葉は凛としていて動じ無かった

前夜、言っていたのだ
初めて、仕上がったばかりの衣装
を見せてもらった、と

受験勉強の傍らで、丁寧に作られた
衣装を見て、自分も全力で最後やし
頑張ろう、と思った、と

オレでも惚れ惚れする程の凛々しさ
当然、他の団も大騒ぎになった

各団、1パターンは手の内を事前に
知らせてある
隠し玉は、2パターン目や

予想通り、浴衣、スーツ、王道のチア
と続いた
度肝を抜いたのは、水着で現れた
チームやった

中でも、きっと選りすぐりのメンバーで
構成し、お咎めを受けるかどうかギリ
ギリのラインの水着で現れたのだ

オレらは、出番を待つスペースで
待機していた
会場から聴こえる歓声に、動じる
ようなメンバーはひとりも居なかった

一生懸命みんなでやれる事は
やったし、それに…

だって、うちには和葉が居る

下級生の面倒見もええので、団員は
みんな和葉の指示によう従うのだ

渾身の作だ、と製作者が言った
婦警の衣装は完璧に似合っていた

いやらしくない程度に短いスカート
から伸びる白く形のええ脚
帽子もきちんと被って、凛々しい
横顔が覗く

団員全員で、気合を入れ、一緒に
記念撮影もした

衣装を作ってくれたメンバーは、
衣装を着せた後も、色々手直しを
ひとりひとりにしていた

オレも制帽まできちんと被る

「行くでー!」

声をかけ、全員整列して会場へと
歩みを進めた

先に男子が所定の位置まで進む

会場が沸いた、その手で来るか、と

そして、観客のボルテージは最高潮
になる

和葉を先頭に、女子が整然と現れた
からや

カメラのフラッシュはもの凄い数やし
歓声も飛ぶ
騒々しい周囲を余所に、メンバー全員
凛々しい表情を崩さずに所定の位置
まで行進を続けた

和葉と一瞬視線を交わす
それが合図
タイミングをあわせて鳴りだす音楽に
あわせ、一斉に制帽を投げた

男女ペアで踊るパフォーマンス
オレは和葉と、輪の中心で目一杯、
楽しんで踊った

終わりに、また同じ位置まで戻り
オレと和葉は手渡された制帽を
お互いに被せた

その間に元の位置に整然と並んだ
団員と共に告げる

3年間、ありがとうございました

教職員席、保護者席、観客席に
一礼して、退場は、男女混合で
整列し、整然と会場を後にした

そして、その後、最後のリレーにも
オレらは参加した

オレらのチームは出だしで失敗
して最下位争い
和葉が3番手、オレがアンカー

「和葉、3位まで追い上げてくれ
たらそれでええからな」

「大丈夫や、任せとき」

最下位でバトンを受けた和葉は
鉢巻としっぽとリボンを風に
なびかせて、キレイなフォーム
で走り抜けた

ひとり、ふたり、さらりとかわして
走る和葉に、敵のはずのチーム
まで熱狂しだした

「頑張り過ぎや」

3位でええ、と言ったのに、オレ
にバトンが渡る寸前、2位まで
追いあげたのだ

「平次!」
「和葉!」

オレは確かに受け取ったバトン
を手に、目の前の背中をあっと
言う間に捉えた

ぶつかられそうなのを交わし
全力で追い抜いた

ま、そいつが和葉狙いの奴やと
知っていたのは話が別やけど
気に入らないのはホンマやから

和葉があれだけやってくれたんや
オレがみっともない事は出来ん
ぶっちぎりで勝つ

追いぬいた後も全力で走り抜け
ゴールに飛び込んだ

リレーも応援合戦も、1位を納め
和葉は個人でMVPも獲った

オレ達の最後の体育祭をオカンが
見に来てへんはずはなく、大喜び
したオカンが、その夜は大宴会を
開催した

「和葉ちゃん、いつ来てくれるん?」

府警のいつもの面々が、いつもの
ごとく、和葉ちゃん、和葉ちゃんと
騒ぎ、いつ府警に就職してくれる
のかと大騒ぎやねん

「嬢ちゃんが、あんな制服が似合う
年頃になったんやなぁ、平ちゃんも」

大滝ハンはそう言って涙ぐんでいた
オレらがおしめしとるような時から
親父達の一番近くで成長を見て
居た人やから、感慨もひとしおだった
らしい

幼い頃から、よう送迎もしてもらった

親父達と約束して、出先で置き去り
にされる事など日常茶飯事で、そう
言う時に迎えに来てくれるのが、
いつも大滝ハンやった

「嬢ちゃんは、ワシらのアイドルや
泣かせたらアカン、大事にしてや?」

さすがに入籍済みとは言ってない
けれど、付き合い始めた事は報告
したので知っているのだ

その日の宴会は、途中から珍しく
親父も参加して、異様な盛り上がり
を見せた