▪️05:00 million kisses /side Heiji

名残惜しむように、和葉が服の手入れ
をしていた

もうすぐ衣替えの季節

和葉が手入れしていたのは、制服の
夏服やった

「これで最後やって思うと、何や、
色々思い出すなぁ」

夏仕様のセーラーを丁寧に陰干しする
と、オレの制服の手入れも始めた

オレの制服は、上はええんやけど、
ズボンの裾を和葉が直してくれた

今年に入って、最後の悪あがきか、
急に5cm程背が伸びたのだ

180cm越えを目指していたオレ
としては不本意だが、少し欠ける
くらいでは着地出来そうな様子

大変やったのは、和葉とオカンだ

幸い、伸びたのは脚やったからなぁ
(自慢)

Gパンから何から、ほとんど直しが
必要になったんや

「いっそ、平次の足、少し切ったら
ええんちゃう?」

オカンなど、そう文句をたれていた

2-3cmの差なら何とかなるらしいが
5cmともなると、さすがに直さんと
アカン、と言われたのだ

ついでに、とオレと和葉の服をオカン
と和葉がチェックして、もうアカン
やつとか、直しが必要なやつとか選別
して片付けていた

来年の今頃は、渡英直前やろうか

少しずつ、荷物の整理が始まっている

ここに残して行くもの、
持って行くもの、
和葉はリストを用意して、着々と確認
を進めていた

朝からバタバタと動き回っていたので
疲れたのか、オカンと和葉が揃って
オレに夕飯の支度を代わって、と言い
出した

「平次が作った親子丼がええなぁ~
おひたしも付けてな?」

「お母ちゃんは、お味噌汁も付けて
欲しいなぁ」

へーへー、と言いながら台所に入った

子供の頃から、一応オレも台所に出入
りをしていたので、和葉には遠く及ば
ないが、丼モノとか、簡単なモノ
やったら何とかなる

親子丼は好評で、これだけは和葉にも
強請られてオレが作る事が多い
メニューやった

「んーっ 美味しいなぁ」

美味しそうに頬張る和葉につられて、
自分も自然と箸が進む

「なぁ、平次」

「ん?」

「今度、東京行ったらでええから
コレ、コナンくんにレクチャーして
くれへん?」

「コナンに?」

頷いた和葉が言った

東の名探偵の家では、父親もコナンも
料理が全く出来ないので、姉ちゃんが
台所に立てない日は店屋物か、外食に
なる、と

「蘭ちゃん、それじゃ申し訳ないから
って、結局、ひとりで頑張ってしまう
んや」

どうやら、別居中の母親は、料理だけ
は才能が全く無いらしい

了解、として後日、オレは地方の事件
帰りに、工藤の家に立ち寄った

「姉ちゃん、受験生やろ?
少しはオマエ、やったれや、可愛そう
やろが」

何でオレが料理~と文句をたれる工藤
を、徹底的にスパルタでしごいた

簡単な丼モノを少しと、味噌汁、
おひたしくらいは合格点を出せる
レベルにする

「悪いな、服部」

「ええって、和葉に頼まれただけや」

「今日は寄って行かないのか?」

「ん?姉ちゃんの家か?
今日は真っ直ぐ帰る 今からなら
夕飯に間に合いそうやし」

「そっか、何だかすっかり妻帯者
みたいだな、服部」

オレは苦笑した

その通り、高校生やけど、ちゃんと
公的に認められた愛妻が居る
夕飯作って待ってるからなぁ

頑張れよ、と言い捨てて、オレは
ダッシュで帰阪した

「平次、ありがとうな」

姉ちゃんから、コナンくんが夕飯作
ってくれたー、美味しかったーと
言う話を聞いたらしい

「ん」

「今晩は、平次の好物ばっかりや」

笑顔でご飯をよそってくれるのを
受取り、一緒に食卓を囲む

オカンも交えて賑やかな食卓は
子供の頃から何ら変わらない風景
そして、食べ慣れた味

「妻帯者みたいだな」

ふいに、工藤の言葉が甦る

結婚する前から、ツレ達にも既に
それは夫婦やんけ、とよう言われた

それくらい、近しい距離感で一緒
に育って来たんやなぁ、と改めて
実感する

でも、渡英したら2人きりになる
それを淋しく感じる時もいずれは
来るんやろうな、と感じていた

この街を、この家を懐かしむ日が
いつかは来るのだろうか

和葉と、家族と過ごした日々を
未来のオレは、どんな風に想うの
だろうか

穏やかな春は、粛々と過ぎて行った