▪️05:00 million kisses /side Heiji

5月の新緑が眩しいよう晴れた日
オレと和葉の挙式が執り行われた

家族以外は全員、撮影やと思っとる
けど、な

オレの計画通り、オカン達が動いて、
オッチャンは東京のコナンと姉ちゃん
を毛利探偵から預かって、式場へ伴い
現れた

「和葉と平ちゃんがな、モデル頼まれ
たんや、おもろいから見に行ってみん
か?」

おっちゃんは、毛利探偵を訪ねて、
何やら話をした後、そう言って2人を
連れて来たと言う

珍しく、毛利のおっちゃんも、仕事が
忙しいのでガキの面倒は見ていられ
ねーから、とか何とか言って、2人は
追いたてられるように出て来たらしい

工藤は子供用のタキシード
姉ちゃんは、柔らかい藤色のドレス

化粧と髪もデザイナーが連れて来た
スタッフが結い上げてくれたと言い、
姉ちゃんは大喜びだった

「平次、和葉ちゃんの支度、出来たっ
て言うてたよ?
あら、蘭ちゃん、似合うなぁドレス」

コナンくんと蘭ちゃんは、私と一緒
に先に行こうな?とオカンが言い、
コナンの手を引いて、式場へとさっさ
と行ってしまった

「和葉?」

「平次?」

部屋に入ったオレは絶句した

ひとりで部屋に居た和葉は、窓の外を
見ていたらしく、柔らかな陽射しが
差しこむ窓辺に佇んでいた

両肩が出るエンパイア型のドレスは、
優雅に裾が床に広がり、刺繍が光に
反射して、微かにキラキラ乱反射して
いる

振り向いた和葉の柔らかな頬に射す
陽射しも、少し恥ずかしそうに微笑む
顔も、髪も、何をとっても美しかった

オレが知らん間に、すっかり大人に
なってたんやな、と思う

綻びはじめた大輪の華は、一気に咲き
始めようとしているのだ

優雅に結い上げられた黒髪には、柔ら
かい色調の生花が飾られ、ベールを
留めていた
アンティークレースも柔らかくドレス
と共に床に広がっている

首元は、細いリボンが緩やかに巻かれ
ガーベラのコサージュが片側に付けら
れていた

背中が少し緩やかに開いているので、
色白の和葉の柔肌が惜しげもなく曝さ
れて、差し込む陽射しを受けて輝きを
放っていた

和葉の前に立ち、その手をとった
耳元でそっと伝える

「ホンマにきれいやで、和葉」

さっと頬に朱が滲む
大きな黒い瞳が揺らいだ

「泣いたらアカンでー?せっかくの
化粧が取れてしまうやろ」

慌てて、ハンカチでこすらない様に
拭ってやった

「おおきに、平次」

私にはちょっと大人っぽいかな、
と思ったんやけど、と照れる和葉

「よう似合うとるで?オカン達と苦労
して選んだ甲斐があったな」

「え?平次も選んでくれたん?」

「そやで?知らんかったんかいな
オレ、オカンと何回かデザイナーの
ところにも行ったんや」

耳元のアクセサリーにそっと触れた

「コレとか、首元の、とか、手袋?
オレが決めたんやで?」

嬉しそうに、零れるような笑顔を見せ
てくれた和葉は、背伸びをして、頬に
触れるか触れないかギリギリのキスを
してくれた

初めて、和葉からキスをしてもらった
嬉しくて、頬が緩むのを止められない

そして、オレの胸元に花飾りを
そっと差してくれた

ブートニア

花嫁から、花婿への結婚の承諾の証
でもある

ホンマはめちゃくちゃ抱き締めて
キスをしたいくらいやった
(むしろ、押し倒したい)

でも、残りわずかな理性を必死で
掻き集めて、耐えた

「帰ったら、めっちゃちゅーしたる
せやからオマエも我慢、やな」

誓いのキスは、頬にする予定
(どうやらそっちが正式らしい)

真っ赤になって怒る和葉に、オレは
笑いかけた

「ほな行きましょか、奥さん」

そう言ったら、本気で照れた和葉に、
オレは目一杯ど突かれた

ちょうどええタイミングでおっちゃん
が和葉を迎えに来た

挨拶をして、オレは一足先にひとり
式場に入った

静かに音楽が流れ、扉が開かれる

ベールを下ろした和葉は、父親と
ゆっくり一礼すると、静かに歩みを
進めた

ベール越しでも十分判る花嫁の美しさ
に、撮影スタッフや、式場スタッフ
からもタメ息が漏れた

姉ちゃんなど、扉が開いた瞬間から
号泣しっぱなしだ

オッチャンが、自分の腕にあった和葉
の手をそっと取り、オレの手に和葉の
手を委ねた

「一緒に、夢を叶えろ、頑張れや」

重ねた手をぎゅっと一度握り、
そう言うと、オッチャンは笑った

こんな日に、愛娘だけやなく、オレの
事も気にかける優しい人
オレには到底敵わない懐の深さ

「はい、必ず」

微かに震える和葉の手をぎゅっと握り
しめ、一緒に階段を上がる

荘厳な空気が漂う中、誓いの言葉を
述べ、指輪を交換して、花嫁のベール
を上げた

会場中から漏れる感嘆のタメ息
誰もが見惚れるほど、艶やかな和葉

陽射しを受ける柔らかな頬にそっと
キスをした

「帰ったら、めっちゃちゅーしたる
せやからオマエも我慢、やな」

先程のオレの言葉を思い出したのか、
目があうと、和葉がふっと笑ったので
つられてオレも少しだけ笑ってしまう

「平次!!デレデレせんでしゃんと
しなさい!やってまえ!」

静かな場内に響き渡るオカンの声

荘厳な空気など一掃する笑い声が明る
く賑やかに響き渡った

「せやな、せっかくやし」

「へ?」

きょとん、としている和葉の唇に、
素早くキスをした

真っ赤になって、「何すんのん!」
とど突いた花嫁に、会場が沸いた

結局、最後はオレららしい笑いに満ち
溢れた式となった

和葉とオレは、記念写真も撮って、
ようやく解放された

「和葉ちゃん!」「和葉姉ちゃん!」

2人の姿に、和葉は驚いていたが、
すぐに嬉しそうな笑顔を見せた

姉ちゃんとコナンは、散々和葉を
褒め倒し、写真をいっぱい撮った

和葉は、そっと姉ちゃんにブーケを
差し出す

「最初から、決めとったんや
これは、絶対、蘭ちゃんにって」

「え?でも、服部くんのお母さんが
わざわざ作ってくれたんじゃ…」

「ええの、おばちゃんには最初に
ちゃんと、そう言ってあるし」

「せや、それは蘭ちゃんが持って
行ってええよ?
和葉ちゃんは、来年、本番が控えとる
から問題無い」

「オカン!」「おばちゃん!」

「「ええっ!本当に!」」

「せやで? ま、平次があと1年で
和葉ちゃんに捨てられなかったらって
いう条件付きやけどな」

笑い飛ばすオカンに、開いた口が
塞がらないオレに固まる和葉

工藤は、ええ事聞いたと言わんばかり
の得意げな表情で、子供の振りをして
はしゃぎまわる

姉ちゃんはもう、喜んで、花嫁の和葉
を差し置いて号泣した

姉ちゃんを慰めようと慌てる和葉に

コナンをとっ捕まえようと慌てる
オレ

と変な花嫁と花婿に、不思議そうな
視線が周囲から飛んだ

「ええやない、2人には本番で色々
お願いしたい事もあるし
平次が頑張ったらええだけの話やん
なぁ? コナンくん?」

「うん!そうだね!
頑張ってね、平次兄ちゃん!」

もうええ、オレは頑張った

そう思って、オレは姉ちゃんから和葉
をひったくり、控室に押しこんだ

扉を開けないように、和葉を扉に押し
つけて、唇を塞いだ
ゆっくりと唇を離すと、ふふっと笑っ
て和葉が言った

「バレてもうたな…」

「さすがに、入籍済みやって知ったら
卒倒するんちゃうか?」

「それはまだアカン、お知らせするん
は、工藤くんを取り戻してからって
私、決めとんねん」

姉ちゃんのために、
姉ちゃんの背中を押すために
和葉はそう言った

「オレ、目一杯我慢しとんのやけど
たまには、ご褒美くれてもええん
ちゃう?」

ん?と言う顔をした後、真っ赤に
なった和葉に、キスを強請る

恥ずかしそうに伸びた両腕が
オレの首に回ると、柔らかな唇で
自分のソレが塞がれた

穏やかな陽射しが差しこむ部屋で
静かで甘やかな時間が流れた