▪️side Heiji :Step by step  19

「服部、和葉ちゃんにお願いしたい事が
あるんだけど」

工藤から、オレではなく和葉へSOSの電話

「ん、ちょぉ待ってな」

偶然、遊びに来ていた和葉に携帯をその
まま渡す

「はい」

和葉の応答を聞いている限り、姉ちゃんと
何やらあった様子

和葉は、電話を持ったままオカンの元へ、
パタパタと走って行く

「おばちゃん、春休みやし、蘭ちゃんと
コナンくん、数日ここへ泊めてもらって
もええ?私も一緒に」

「ん?もちろんええよ?」

ありがとう、と笑顔を見せて、電話口の
工藤に、蘭ちゃん連れて来たらええと言う

「蘭ちゃんと大喧嘩したんやって」

電話を終えると、和葉は聴いたばかりの
事情をオレに説明した

工藤のSOSに、どう応えるつもりかも

「わかった、オレも協力する」

ありがとう、と蕩けるような笑顔を見せた
和葉の頭を、くしゃり、と撫でた

「お手並み拝見、やな」

「任せとき!ええ塩梅にするから」

翌日、すっかり元気のない、東の名探偵
カップルを迎えに行った

「蘭ちゃん!」

「和葉ちゃん…」

姉ちゃんは、和葉を見るなり、抱きついて
泣き出してしまった

「嫌やわぁ、蘭ちゃん、そないに私の事、
好きやったん?」

「…うん…大好き…」

そう言って泣き笑いする姉ちゃんに、和葉
は苦笑していた

「私も、蘭ちゃん大好きやで?でもなぁ、
ここじゃ誤解されるから、行こうか?」

ようやく泣きやんだ姉ちゃんの腕を組んで
歩き出した

呆然としていたコナンとオレは、和葉
後ろからついて歩く
黙って静かに歩く工藤は、ひどく傷ついて
いる様子やった

大丈夫や、和葉に任せてみ?」

小声で伝えたオレに、黙って頷いた

「今日はたくさん、話しような」

「うん」

オレの家に行く前に、和葉の家に行く
和葉の荷物を取りに行く口実で

オレは、コナンとゲームすると言って、
居間で待っていることにした

和葉は、姉ちゃんを連れて、自室へ入り、
ドアを少しだけ開いた

また泣き出した姉ちゃんの声が響く

「…ごめんね、ぐずぐずしてて…」

「ええよ、私が泣いていた時も、蘭ちゃん
こうしとってくれたやろ?」

ぎゅっと抱き締めて泣きやむのを待つ和葉
泣きやんだ姉ちゃんが、少しずつ、語り出
した

受験時期を迎えても、事件を追って戻らん
工藤に、もう二度と戻って来ないのではと
不安になって、最近、電話があっても中々
本音で話せないと言う

そこへ来て、事件が起きた
工藤が覚悟していた通り、工藤家に届け
られた、留年決定通知だ

一緒に進級出来る方法を探そう、と言う
姉ちゃんと、自分など待たずに、早く自分
が歩くべき道を走れ、と言った工藤は、
お互いが想うほど激しくすれ違って行った
らしい

「蘭ちゃん、今はとにかく、蘭ちゃんは
蘭ちゃんの夢を追って頑張ろう?」

「私の…夢?」

「そうや、工藤くんの事はちょっと置い
おいて、蘭ちゃんだってなりたいもの
とかやりたい事、あるやろ?」

「うん、ある」

「まずはそれを追って頑張ろう?
工藤くんは心配ない、平次のライバルやで?
蘭ちゃん放り出したまんま終わりにする
ような男やないと思う
遅れてでも戻って来て、自分で自分の道を
追いかけるはずや」

「そう…かな」

「蘭ちゃん置いてそのまんま逃げ出すよう
な男やったら、平次のライバルだって私、
絶対、認めへんよ?」

「ふふふ、そうだよね」

「事情があって、来られないだけでちゃん
と考えているはずやで?
ネックレスにもちゃんと意味、あった
やろ?」

姉ちゃんはしっかりと頷いていた

「もしな、どうしても工藤くんに逢いたく
なったら…コナンくんをな、ぎゅっと抱き
しめていればええ 
蘭ちゃんの小さい騎士やからな」

「うん…そうだね、そうする」

「頑張ろうな?蘭ちゃん」

俺と工藤(コナン)は和葉の部屋のすぐ
外で訊いていた

和葉が一生懸命言葉を選んで、工藤と
姉ちゃんと両方を想って説得しとるのが
ちゃんと聴こえた

「和葉ちゃんに大きい貸しが出来た」

工藤はぽつんと言った

「蘭は優秀だから、俺の事待つだけじゃ
なくて、ちゃんと蘭のやりたい事、追って
欲しかった
俺の心配ばっかりしていたから」

「まぁ和葉と違うて、飛び出して行く
タイプとちゃうからなぁ」

「あぁ、それにしても和葉ちゃん、よく
わかったなぁ、俺が言いたい事全部、
当たってる」

「さすが西の名探偵の女だな
でも、本当に助かったよ」

その後、何事もなかったように姉ちゃんは
いつもの姿を取り戻した

和葉の家を出る前、工藤を捕まえて、和葉
が何やら耳打ちすると、工藤が真っ赤
なっとった

オレはかなり不満、イライラしとる

「何こそこそやってたん?」

「え?…あぁ、コナンくんにな、今度、
蘭ちゃんが落ち込んでいたら、
『俺が味方してやるから頑張れ』って
言ってあげて、って言うたんよ」

「…え?」

「それと、黙って抱き締めて一緒に居て
あげてな?小さい騎士さんって」

…だからアイツ、あんなに真っ赤になっと
ったんや

「言霊やで、平次」

「言霊?」

「私が蘭ちゃん元気に戻せたんはな、言霊
やねん
私が平次に言われて元気付けられた事、
平次にしてもらって、勇気付けてもろうた
事を、分けてあげただけやもん」

恥ずかしくて聴いてられへんような事、
さらっと言ってニコニコしとる隣の女

俺、一生勝てへん気がするで…和葉

とりあえず、逃げられんように手を
しっかり繋いで歩く

だって、姉ちゃんとコナン
しっかり手を繋いで、楽しそうに歩いてる
からなぁ

負けるわけにはいかんやろ?

家に帰ると、オカンが戻って来て、和葉
と姉ちゃんと賑やかに台所で騒ぎ始めた

その様子を、ほっとしながら見ている
工藤と、気分転換にゲームに興じたオレ
珍しく、食いついて来た工藤と、僅かな
間やけど、事件からも何からも開放され
夢中になった

2015/08/07    初稿
2015/11/04    加筆&改訂&改題