ベートーベンの交響曲第三番『英雄』を3月に演奏するので、
仕事を終えていつもより早く家に帰れた日は、もっぱら練習に励んでおります。


英雄は、交響曲界(?)の傑作の1つと扱われることが多いようで、
その曲想はド素人の私が聴いてもなるほど身震いするほど雄大だし、
まさに『英雄』という単語がふさわしい派手派手しさ、
それでもってそれがこれでもかこれでもかと展開していく構成の素晴らしさ、
いきなりの葬送行進曲に、当時としては異例なスケルツォ・・・、
確かに、評価されるべき交響曲に違いありません。

しかし一方で正反対の意見もまた多くあるらしく、
駄作と揶揄する人さえいます。
そんないろんな批評の中から、
たまに指導者の方が練習中に面白い話をしてくださいます。

曰くこの曲は、ベートーベンおじさんの挑戦なのだ。
後期の彼はもっと楽器の使い方も楽譜の書き方も上手くなり、
無理なく演奏できるための工夫がされているような部分でも、
このエロイカではそんなのはお構いなしで、
「なんでこんな場所でいきなりこんな技巧を奏者に求めるのか」
と言いたくなるような箇所がたくさん見受けられるのだそうです。

それはベートーベンおじさんが楽器陣に挑戦しているようでもあるし、
いろんな実験をこの交響曲の中で行っているとも言える。
だからすごく弾きにくいところや、吹きにくいところも出てくるけれど、
みんな、彼の実験に付き合ってあげるわ、って気持ちで演奏して下さい。


私は音楽史にもベートーベンにも詳しくないので、
それがどのくらい的を射た話なのか、
あるいは素人にも興味が湧くように“盛られた”話なのか、わかりません。

でもそういう風に考えると、
かの偉大なベートーベン様の傑作と名高い交響曲を弾くのにも、
なんだか面白みが出てくるから不思議です。

毎週土曜にオーケストラの練習に行き、
弾けなかったところが弾けるようになったり、
みんなでひとつの音楽を創っていくことが楽しいのはもちろんですが、
今まで知らなかった、音楽家や楽曲に纏わるエピソードを聞いたり、
自分では到底思いつかないような解釈を聞いたりするのもとても楽しいです。


そしてこの時代のベートーベンを演奏するのに大事な情報がもうひとつ。

だんだん耳が聞こえなくなり、いらいらし、脅え、絶望し、
彼が遺書までしたためたというのがちょうどこの時期なんだそうです。

音楽家として聴力を失うということがどれほどの恐怖か。
彼がそれと闘いながらエロイカという交響曲を書き上げたこと。
この情報を知らずにただ何気なくエロイカを聴いた時には味わうことのなかった気持ちが、
彼の恐怖を想像し、彼の絶望を想像し、その上でエロイカを聴く時、
私の中に沸き起こってきたのでした。

別に同情じゃなくて。
すごいねすごいね、えらかったね、みたいなのでもなくて。

かっけーなー!と思うのです。

いろいろ言う人もいるけど、
やっぱりベートーベンはカッコイイ。


華の金曜日。

今日は家で練習するんだ!!
と飲み会やご飯の誘惑に打ち勝ち、さっさと帰宅して、
いつもそうするようにYoutubeでどこかのプロの楽団の演奏に合わせながら、
何度も何度も一楽章の最初のフレーズを弾いておりました。

楽譜のいたるところに書きなぐったメモを見て、
土曜の練習の時にして貰ったいろんな話を思い出します。
演奏の細かい注意点よりも、作曲家本人の人間臭い話を。

ベートーベンがどんなことを考えながらこの曲を書いたのか、
もちろん、真実を知っている人はどこにもいません。
でも、楽譜を読み解いて、彼の気持ちを推し量ろうとする人々が世界中にいて、
そういう話も頭の片隅で思い出しながら演奏するのって本当に楽しいんです。
練習頑張ろう。もっともっと頑張ろう。