旅も5日目を向かえ、今日はルーマニアからブルガリアへ移動します。ルーマニアの貨幣、レイがもう使えなくなってしまうので、
国境を越える前に寄った大きなスーパーマーケットでお土産をいくつか買いました。
それでも余ったレイで最後にコーヒーを飲もうと並んでいたら、
地元のおじさんが、手に持った5レイ紙幣を指さして、
「それはここでは使えないよ」とジェスチャーで教えてくれました。
ルーマニアでは若い人は英語が話せることが多いという印象で、
50代以上になると簡単な単語ぐらいしかわからないようでした。
余談ですが、それでバスの運転手さんとの意思疎通もなかなか出来ませんでしたが、
なんとなく私のことを、「あなたの顔は少しルーマニア人ぽい」と言ってくれているようで、
なにかと可愛がってもらいました。
一度、私がバスでうとうとしていたらいつの間にか寝顔をスマホで撮影されていて、
それだけだと単なる怪しい運転手なんだけども、
彼はその写真を、起きた私や、周りのひとにも嬉しそうに披露するのでした。
もう白髪のおじいちゃんなのに、いたずら小僧みたいな満面の笑顔で、
「見て、見て。あんた寝てるから撮っちゃったw」
とでも言いたそうにニコニコしていました。
バスを降りる時に手を貸してくれたり、
あまり得意でない英語で何か伝えようとしてくれたり、
素敵な方でした。
閑話休題、コーヒーを買おうとしていた時、出会ったおじさんの話。
彼は前述のバスの運転手さんとは真逆で、
ニコリともしない、どちらかというと厳(いかめ)しい、現場監督風の男性でした。
最初に話しかけられた時に、「え?」と思ったのですが、
どうやら親切に教えてくれているようだと気が付いた時には、
もっと、「え?」と思いました。
おじさんのアドバイスを受けて5レイ紙幣を崩そうとするも、
屋台のおばちゃんがなかなか忙しそうで構ってくれず、
もう出発の時間になるし、そこまでコーヒーが飲みたかったわけでもないし、
諦めてバスに戻るか、と歩き出して数十メートル。
件のおじさんに、大声で呼び止められたのでした。
はて、なんだろうと思って戻ると、
「なんだ、紙幣を崩せなかったんだな。じゃあ俺が買ってやるから飲みな」
みたいな顔で、コーヒーを買ってくれました。
えええええええ。
失礼ながら、そんなに裕福そうには見えない身なりで、
しかも、ただの通りすがりの観光客に。
例えばカフェで隣に座って、よし、くどいてやろう、とか、眠らせて金を巻き上げてやろう、とか、
そういう下心丸出しのシチュエーションでもありません。
だって、バスに向かって歩いていたのです。
そのまま見送ればいいのに、わざわざ呼び止めてコーヒーを買ってくれて、
「あ、じゃあ、逆に、この5レイ紙幣あげます。どうせもう使えないから」
みたいなジェスチャーをしながら紙幣を渡そう渡そうとするも、
そのおじさんは「なに言ってんだ、こいつ」みたいな顔をして決して受け取ろうとせず、
ただ無愛想なまま、「ほら、バスが待ってるんだろ」というようなそぶりで、
結局最後まで渋い顔で、「行けよ」という態度だったのでした。
なんてかっこいいんだ。
国境の街は、行けども行けども、こんな風景です。失礼なことを何度もいいますが、
金銭的に豊かな暮らしをしているとは到底思えません。
あの優しさ、優しさというか、男気を、私は絶対に忘れないでいよう。
そして、あのおじさん本人に恩返しをすることは出来ないけれど、
日本で困っている観光客に遭遇したら、すすんで手を差し伸べるぞ!と誓ったのでした。
買って貰った甘いコーヒーをバスで飲みながら、国境のドナウ川を渡ります。
美しき蒼きドナウ、をハミング。
40分くらいの入国審査の後、ブルガリアに入りました。そしてブルガリア側の国境の街、ルセでバスを降りランチです。

ここではトイレにデジカメを忘れた!?という騒動があったのですが、ないないと騒いでいたデジカメが結局ポケットにあり、一安心。
いやー、数年前にカナダを横断旅行した際には、
ノートPCから始まって、ジャケットやら傘やらサンダルやらを紛失し、
どんどん身軽になってしまったという前科があったため、焦りました。

ランチ後、走り出したバスの中で、実はデジカメを忘れてきたみたいなんですがーと現地のガイドさんに話したところ、
すぐにレストランに電話をかけてくれた姿が頼もしかった上に、
(でも、デジカメが見つかったところで、取りには行けないしなあ・・・)
と、次の目的地にぐんぐん進んでいるバスに乗りながら考えていたら、
「大丈夫。見つかりさえすれば、届けてもらえる。そういうシステムがある」
というような説明を受け、
あら、すごい!ブルガリアもなかなかやるなあ。
と心の中で感動の仕方が上から目線だったのでした。反省すべき。
ルセから20Kmほど走り、イヴァノヴォという街に到着しました。
ここには世界遺産でもある、岩窟教会があります。

崖っぷちに四角く見えている、あそこです。今はなだらかな階段があって、ぐるりと回って上ることが出来ます。
ここも、どうしてこんな場所に教会があるのかというと、
敵に見つからないように崖の上に隠して造ったんだそうです。
そのため当然、上りやすいなだらかな階段なんて当時はなくて、
みんなこの崖を死に物狂いで上って、祈りにやって来たんだそうです。
信仰ってすごいわ。
ここが、心の拠り所だったりしたんだろうか。

内部のフレスコ画は13~14世紀のものなんだそうです。ちなみに日本と比べると、こういった場所での写真撮影が許可されていることも割と多く、
また、基本的に撮影お断りだとしても、日本円にして数百円払えばOKというところもあります。
この教会もそうでした。
先ほど下から見えた茶色い部分はベランダのようになっていて、
元はそこが教会の入口だったのですが、
圧巻の景色でした。
教会を出て少し歩くと展望台があり、美味しい空気を存分に堪能してからゆっくりと山を下りました。

道の至るところに赤と白のミサンガみたいなものが吊るさっています。これは願掛けのようなものなんだそうで、
ブルガリアを旅している間、いろいろな場所で目にしました。
さて、バスで120Km走り、ヴェリコ・タルノヴォへ向かいます。
深い緑の森と、多くの丘、ヤントラという川が流れる、美しいこの地方都市が、
本日の宿泊地です。

街で最も高級とガイドブックにも載っているホテルにチェックイン。こちらのホテル事情もルーマニアと似通っており、
この国で高級、というのを日本レベルで考えてはおかしなことになります。
けれども決してサービスが悪いだとか、見劣りがするということではなくて、
ただ、違った良さがあり、違った価値があるのです。
夜は、ホテルの近くにある職人街の中の、レストランへ行きました。職人街というのは古い工房が軒を連ねる通りで、
夕方はどこも閉まっていたのですが、
陶器、金銀細工、木彫りなど、職人たちが作ったものを購入できるそうです。
建物自体も、民族復興様式と呼ばれる伝統的な造りで、
眺めて歩くだけで思わず写真を撮りたくなり、なかなか前に進みませんでした。


そういえばこの旅行で3コースを食べるたび、出てくるサラダがとにかくトマト・キュウリ・チーズの組合せなのですが、
こちらのものはチーズの塩気が強く、なかなか好きな味でした。
レストラン、イヴァン・アセン。
でもほんと、びっくりするぐらい毎回、トマト・キュウリ・チーズです。メインはパスタで、
イタリアでの正しいパスタの食べ方というのを実践してみました。
フォークとスプーンを使ってくるくる巻いて食べるのが日本では一般的ですが、
これはどうやらアメリカ式なんだそうで、
本場イタリアでは、まずフォークでスパゲティを一口サイズの長さに切り、
それをすくって食べるんだそうです。ほんとかしら?
全然うまく出来ませんでした。食後、少しのんびりして余韻を楽しみ、
来た時とはまた違う趣のある、夜の石畳をホテルまで帰りました。
旅行前にネットで色々検索してみたら、
現地の危険な情報ばかりが出てきて、
集団スリ、ニセ警官、睡眠薬を使った詐欺、マンホールチルドレンなどなど、
私ったら随分危ない場所に行くんだ、気をつけねば、という認識だったのですが、
来てみたらそんなことはまったくなくて、
まあちょっと、野良犬たくさんいるな、ぐらいでした。
こんなふうに、夜風を満喫しながらぶらぶら歩けるなんて予想外です。
今回がたまたま安全だったのかもしれないし、
用心するに越したことはありませんが、
蓋を開けてみたら本当に平和で、よかったです。
