箱根の朝はホテルのブッフェで始まりました。
優しい梅粥を食べてチェックアウトをした後、なんとなく庭園を眺めながらケーキをたいらげてやっと出発です。

台風がくるくると言われてはいたけれどまだ空は晴れていて、マユと私は星の王子様に会うべく、山道を走るバスに乗り込みました。
星の王子様ミュージアムへ。
小さな頃に父の本棚で埃をかぶっていた星の王子様の絵本を初めて読んだ時に、私は王子様にたいする愛おしさと一緒に、
あの父が、
好きだけどなんとなく近寄りがたくて、目の前にするといつも微妙に萎縮してしまうあの父が、
この物語を好きで、何度もページをめくった様子であることへの驚きを抱きました。
途中には四つ葉のクローバーの押し花の跡があって、
父がまだ中学生だった頃の日付が書かれていました。
以来この物語は、私の大事な宝物のひとつです。

素敵な王子様、素敵なパイロット、それから私の知らない父の一面と結びつくもの。
サンテグジュペリの他の作品も何度か読みました。
ミュージアムで彼の生涯をかいつまんだ15分程度の映像を見ていたら、
作品の中のいくつかの言葉がフラッシュバックして、
わけもわからず泣きました。

涙が漫画みたいに頬に筋を作って流れ、見終わったときには言葉もありませんでした。
なにか感想を言い合えたらよかったのだけど、
どうにもうまくまとめることが出来ないくらい、胸を強く打たれたのでした。

私たちは散歩をするような足取りでまた園内を見て回り、どうやらまだ台風はやって来ないみたいだ、
というのを確認してガラスの森美術館へと向かいました。
ホテルで無料券をいただいたのです。

きらりきらりと光るガラスでできたすすきの群れ。
はしゃいで写真を撮り合っていたらとうとう雨が降り出しました。建物の中へ避難して、
ヴェネチアンガラスの展示を眺めます。
ころころと可愛い。

全然別物だけど、例えるならば和菓子の可愛さに似ています。思いの外、夢中になって堪能し、
窓から表を見るとどうやら台風は本格的に箱根に到着した様子です。
お腹が空いていたのでレストランで盛大なカンツォーネを聴きなぎらパスタを食べましたが、その頃になると雨はもう、
バケツをひっくり返したみたいに降っておりました。
慌てて帰ることに決め、バスを待つ間も惜しんでタクシーで下山しました。運転手のおじさんがせきを切ったように台風や土砂崩れや事故の話をまくし立てていました。
自然の恐ろしさから我々の命を守ってくれた運転手さんに感謝です。
友達の実家が箱根から都内への帰り道にあるので、
寄って夕飯をいただこう、というのが実は今回の旅のメインイベントでもあったのですが、
そんな悠長なことをしていたら台風で帰りの電車がなくなるかもしれないとのことで、
まっすぐ新宿へ帰りました。
最後の最後は台風に追いつかれてしまったけれど、
たくさんたくさん笑った、良い旅でした。