休み時間ボーッと美穂ちゃんの話を
聞きながら窓の外を見ると
理佐さんが一階の渡り廊下を歩いてるのが
見え、隣には平手さんが一緒にいた


私も美穂ちゃんほどでは無かったけど
一年の頃は割と平手さんグループが
怖かった。



だけど、一年の冬頃に帰宅途中に
足を挫いてしまった時
部屋着姿の平手さんがたまたま
通りかかって助けてくれたのを
きっかけにそれまでの怖いという
イメージが無くなった










ー冬ー



「寒い……あ!そう言えばプリント…」


プリントを鞄から取り出し
ちゃんと読もうとしたその時
強い風が吹いてプリントが
私の手から離れていった


「あ!!ちょっ……っ!⁇…イタッ…」



慌てて追いかけようとしたら思いっきり
足を挫いてしまって思わずその場に
かがみ込む
その間もプリントは風と共に
遠く離れていってしまっている



「おい、大丈夫か…⁇」




足も痛くて提出しなきゃいけない
プリントも無くしてどうしようかと
顔を俯かせていると頭上から
声が降ってきた



顔を上げると怖いあの人が立っていた




「あ、えっと……」



「これ、あんたの?」



その人の手にはさっき飛んでいって
しまったプリントがあった


「あ、はい…すみません…」



「足…挫いたのか?」



「えっ?」



「いや、足抑えて蹲ってたから」



「はい…ちょっとだけ…」



「立てそう?」



「あ、はい大丈夫です…ッ!?…」




「…無理そうだな、はい、乗って」




私の前に背中向けてしゃがんだ平手さん

「えっと…」




「嫌かもしれないけど、そのままだと
帰れないだろ?」



それもそうだ…まだ親は仕事で
迎えに来れないし…


「じゃあ…すみません…失礼します」



「ん、じゃあ立つぞ⁇」


私が背中に乗ったのを確認して
立ち上がった平手さん

「ごめんなさい…重い…ですよね⁇」



「重くない、むしろ軽い。
それにさっきから謝りすぎだ。
安心しろ、何もしないから」



良い噂が回ってないのは本人の耳にも
入ってるのだろう。
それなのに、こうして助けてくれたのは
平手さんって実は根は良い人…⁇




「……家、どこ?家まで送る」



「え!⁇
申し訳ないです!!」



「いいから、別に家知ったところで
何もしないから」



さっきから何もしないから安心しろ
と私に言い聞かせてくるのは
私が平手さんに対して警戒してると
思ってるからなのかな?



「いえ、そこは心配してないんですけど、
本当に申し訳なくて…まだ少し
歩きますし…」



「いい運動になるから」



「え?」


「いい運動になるから、そこは
気にしなくていい…」



「運動…⁇」



「な、何だよ?」



「ふっ…あははっ!」



「何笑ってんだよ!」



後ろから覗かせてる平手さんの耳が
赤くなっているのに気付いて
平手さんなりに気遣わせないように
不器用な嘘をついてくれたんだなと
思ったらちょっと可愛く感じて
思わず笑ってしまった



「ごめんなさい…つい…そうですよね、
いい運動になりますね」



「うん、丁度身体も鈍ってたし」



まだ気遣ってくれる平手さん
もうさっきまでの怖い人というイメージ
が完全に無くなっていた




本当に家まで送ってくれた平手さんは
そのまま踵を返して来た道を歩いていった











ーーーー






そこから私は平手さんを学校で
見かけると自然と目で追ってしまっていた

そんな春休みに入る前のある日
平手さんとばったり会った時があった


「あ、…」



私の声に気付いて私を見た平手さん

「あれ…あんた確か…」



「あの時はありがとうございました。
ちゃんとお礼言えてなくて…」



「あー、いや気にしなくていい。
それより足大丈夫だったのか?」



「あ、はい、次の日病院に行って
ちゃんと処置してもらったので、
今はもう完全に治ってます」


「そっか、それは良かった」


「っ……」



平手さんってこんな風に
優しく微笑んだりするんだ……



あれ……待って……私…




「それとさ、同じ学年なんだから
敬語じゃなくていいよ」



「えっ?あ、うん…」



「うん、じゃあ、またな」



「あ、またね…」



軽く手を振って去っていった
平手さんの後ろ姿が見えなくなるまで
見送った





その時気付いたんだ。
私平手さんに惹かれてしまってるって。











そんなこんなで今に至るんだけど
新しいお友達、菜緒ちゃんは何の因果か
平手さんグループとよく絡んでるのを
見掛ける。


ちょっと羨ましいな、なんて思ってしまう。



渡り廊下を渡っている平手さんと
理佐さんを見ていると理佐さんと
パチっと目が合ってしまった



理佐さんはニコッと微笑んで私に
手を振って来てくれた

それに気付いた平手さんも
相変わらず何を考えてるか
分からない表情で私を見た


私も手を振り返すと美穂ちゃんが
誰ー?って言って窓の外を見る、
その相手に気付くとあからさまに
不機嫌な顔を浮かべた



「こらこら、美穂ちゃん」



「だってー!」



美穂ちゃんのそんな姿を見て
理佐さんは笑っていて
平手さんはため息ついて前を向いて
しまった。


理佐さんは明らかにこの状況を
楽しんでるんだろうな…
理佐さんも不思議な人。