「何だか疲れちゃった…」
自嘲気味に溜息のようにそっと
吐き出された弱音は貴方が好きな
珈琲を淹れている私の手を止めるのに
充分な理由となった
だけど何があったかなんて聞けるわけも
なく何ならいっそ涙を流してくれたら
貴方も楽になるはずなのに
「はい、珈琲」
さも聞こえてなかったですよとばかりに
自然に珈琲を差し出すといつもの様に
控えめに微笑んでありがとうと言う
そんな貴方の目をじーっと眺める
珈琲を冷ましながら啜っている貴方は
私の視線に気付くと少し伸びた髪の毛を
小さく左右に揺らして首を傾げた
こういう時どうしたら良いのだろうか。
気の利いた言葉なんてちっとも
思いつかない。
こっちもこっちで思い悩んでいたら
自分のではない深い溜息が
私の鼓膜を揺らした
目の前の貴方を再度見ると
まだ半分残っている珈琲を虚ろげな
目で見つめていた。
普段弱い所を見せない貴方にとっては
珍しい程の思い詰められた表情をしていた
「そんなにため息ばっか吐いてたら
力が抜けてしまうよ」
なんて冗談めかして言ったら
貴方はそうだねと弱々しく微笑んだ。
私が知らない間に貴方は心の
どこか柔らかい場所を傷付けられ
ていたのか。
どんなに冷めた人でも傷付くものは
傷付く。
だって同じ人間なんだから。
私は居た堪れなくなって華奢な貴方の
体を私の華奢な腕の中に閉じ込めた。
「飛鳥…⁇」
「私が悲しみから守るから」
「え?」
「生きてれば色々あるしいいことばかり
じゃないよ、だけど私が…その度に
貴方の悲しみから守る」
抱き締めている腕を更に強めると
貴方は、少し震えた声でありがとう。
と言った。
もう一度言うが私には気の利いた
言葉なんて言えない。
だけど、この世の誰よりも強い力で
貴方のすべてを抱きしめることは出来る
私が硬い殻になろう。
硬い殻になって悲しみから守り抜くよ。
だから、今は沢山涙を流しなよ。
奈々未。
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