きみのて | きみの名を呼ぶ


くろく、くろく、ここにある記憶。


優しさに触れるたび、思いを与えられるたび、そこへ結びついていく。

そして、引き戻される。






また同じ事の繰り返しなんじゃないか。

また、同じ事を繰り返すんじゃないか。




気持ちはきっともうそこになくても、そのときはたしかにそこにあったんだという記憶。

それが、あたしをまだ縛る。





泣いて、泣いて、泣いて、おなかの中のものを少しずつ吐き出していくたび、

その吐き出したものは、どこへいくんだろうか。
彼はそれを飲み込んでいるんだろうか。
入り込んで、浸食して、押し潰していくんだろうか。

そして、また、同じ事になるんじゃないのか。


不安が消えない。




こんな風になる自分が死ぬほど嫌で、なんでもないというように受け止める彼が怖くて

余計に不安になる。










…たった一言だ。


たった一言で、こんなにも簡単に、思い出してしまうのか。

まだこんなにも、あたしを蝕んでいるのか。



不安を口にするあたしに、それを少しでも軽くしようとして、優しさで言ってくれた言葉。提案。
普通なら喜ぶことだったのに、一瞬で、忘れていたものが一気に蘇ってしまった。



忘れたと思っていた。
…いや、もう完全に吹っ切れたと思っていた。
乗り越えたと、もう思い出しても、同じ事を言われたり、したりしても、
思い出して取り乱すことはないと思っていた。


思っていたのに。



だめだったよ。

埼玉も、クラウンのキーホルダーも、オムライスも、ケーキも、ウィルコムも、

だいじょうぶだったのに。





やっぱり指輪だけは、だめだったよ。


たったそれだけで、全部思い出しちゃった。








あのとき、やっぱり海に捨てることができたなら。

アパートまで行くことができたなら。

こんなになることはなかったのかな。







指輪だけは嫌だと言って泣いてごめん。
聞きたくないこと聞かせてごめん。
困らせてごめん。



もう四年も前のことなのに、なんてこんなになるんだろう。

自分が情けなくて、本当に嫌だ。



あの人への気持ちが残っているだけじゃないことだけは確かだ。

ただ、あの人が残した気持ちを、まだ捨てきれないんだ。



今思えば、ほんとうに、バカみたいなものだったのにね。





…ほんとうに、あたし、なにしてるんだろ。