そよ風が部屋を駆けぬけ飛んでゆく籠もるわたしの頬をなでつつ
今は夏。
開放感に誘われて、人は海や山、そして空へと出かけていきます。
そんな中、一人で部屋に閉じこもっている少女がいます。
少女に、そよ風がささやきかけます。
「ねえ、あそぼう。外に行こうよ。」
少女はいいえと首を振ります。
「お部屋の外は、怖いことだらけ。」
そよ風は言います。
「そんなことないよ。素敵なこともたくさんあるよ。」
少女は、いいえいいえと首を振ります。
「素敵なことなんて、ひとつもないわ。」
そよ風は、少女の目をのぞきこみます。
「臆病な少女。それでは、私が教えてあげよう。」
そよ風は呪文を唱え、それからくるりと一回転しました。
すると、どうでしょう!
海の香りや山の香り、そして花の香りなど、たくさんの香りが次々に少女を包みます。
「なんて良い香り!」
少女は、うっとりと目を閉じました。
そよ風は、少女の頬をやさしくなでます。
「ほうら、素敵な香りだろう?外へ行けば、もっとたくさんの香りと出会える。」
少女はうつむきました。
「そうみたいね。でも、外に出るのは怖いわ。」
そよ風は、少女の頬を、さらにやさしくなでます。
「少しずつでいいんだよ。今日は部屋で空を眺めよう。」
そう言うと、そよ風は少女の隣に座りました。
安心した少女はほうっと息を吐き、そよ風とともに窓から空を眺めました。
