ストローに今日の迷いを吹き込んで月に飛ばすよしゃぼんの玉を
広い広い宇宙の片すみで、お月さまはうたたねをしています。
宇宙は真っ暗で、音もありません。そんな中でのうたたねは、ショートケーキの上の苺のように、きゅうんとするような甘さがあります。お月さまはそれを味わいたくて、毎日うたたねをするのです。
そんな時。
プチンッ。
お月さまのほっぺたに、何かが当たってはじけました。
「おや?」
お月さまは目を開けました。
プチン、プチン。
プチンと当たるその正体は、数え切れないほどのしゃぼん玉でした。しゃぼん玉は、青い海をたたえる地球から来ています。
地球の人たちは、自分がしゃぼん玉を毎晩飛ばしていることを知りません。自分の迷いを自分の中に抱えたまま眠りにつき、朝を迎えると思っています。
でも、ご存知でしょうか?ふっともらされたため息やつぶやきは、元の身体に戻ることなく、目には見えないしゃぼん玉となって、お月さまに向かってゆくのです。
どうしてお月さまなのでしょうか?
それはきっと、半月のときも三日月のときも、いつも変わらず月の表を地球に向け続けているからなのでしょう。
お月さまは、自分に向かって飛んでくる、たくさんのしゃぼん玉を見つめました。
「今日は、迷いが多かったようだね。」
地球に住む人たちみんなの迷いが、数え切れないほどのしゃぼん玉の中につまっています。
正直に言うと、お月さまは、それらの迷いをどうしてあげることもできません。向かってくるしゃぼん玉をただただ受け止めて、大丈夫、大丈夫と、ささやくことしかできません。自分には何もできないと、落ち込むこともあります。でもそれでも受け止めささやき続けるのは、そうすると地球の海の青が、少し明るくなるような気がするからです。
眠る前のひと時、地球の人たちは何を思っているのでしょうか?しゃぼん玉を飛ばして、少しは楽になったのでしょうか?そうだといいのだけれど。
お月さまは、そういうことをとりとめもなく考えながら、地球に向かって、
「大丈夫、大丈夫。」
と、今日もささやき続けるのです。
