滝がさらさらさらと流れています。
この滝はとても小さいので、ゴーゴーゴーとか、ザーザーザーとか、そんな大きな音はたてません。ただ、さらさらさらと流れています。
おや?
滝の滴たちが、おしゃべりしていますよ。なんでしょう?耳を澄ましてみましょう。
「・・・・ボクたちは、これからどこへ行くの?」
「滝壺だよ。滝壺を出たら、川に行くよ。」
「それから?」
「大きな河に行くよ。」
「それから?」
「大きな河にのって、海へと行くよ。」
「ずっと流れていくの?立ち止まることはないの?」
「そうだよ。」
ひとつの滴は、ううん、ううん、と頭をふりました。
「そんなの嫌だよ。立ち止まってみたいよ。」
「しょうがないんだよ。ボクたちは滴なんだから。滴は立ち止まることはできないよ。」
「どうにかしたいよ。立ち止まってみたいよ。」
ひとつの滴は、身をよじらせて嫌がりました。
その時、数羽の蝶が、ひらひらひらと近づいてきました。そして言いました。
「それなら私たちが願いを叶えてあげましょう。」
ひとつの滴は、目を輝かせて言いました。
「本当に?」
蝶たちは、ひらひらひらと踊ります。
「ええ、本当よ。そうねえ・・・あなたを花びらにしてあげましょう。花びらになったら、立ち止まることができますよ。」
「本当に?本当に?」
「ええ、本当よ。でもその代り、花びらになったら、私たちを休ませてくださいね。」
「もちろん!」
「それでは、目を閉じて。」
ひとつの滴は、うっとりとして目を閉じました。
目を閉じている間、蝶たちがなにをしてくれたのか、ひとつの滴は知りません。けれど、蝶たちの合図で目を開けたとき、ひとつの滴は、自分が花びらになっていることを知りました。
ひとつの滴だった花びらが滝を見ると、いくつもの滴が、さらさらさらと流れています。次から次へ滝壺に落ち、そして川にのって流れていきます。どの滴も立ち止まることなく、あっという間に流れていきます。
蝶たちは聞きます。
「これでいいかしら?」
ひとつの滴だった花びらは、風にそよそよ揺れながら、
「ありがとう!」
と言いました。
そして、蝶たちを自分の花びらに休ませて、眠らせてあげたのです。
